取材リポート
高校グラウンドを会場に
大規模な献血活動
福岡県・伊都福岡ライオンズクラブ
#人道支援

新型コロナウイルスの感染が拡大した時期、日頃から献血推進に取り組む全国のライオンズクラブの多くが、感染予防を優先して活動を自粛した。毎年2月と9月に献血活動を継続してきた伊都福岡ライオンズクラブ(浦源次会長/44人)も、中止はやむを得ないとの判断を下した。同クラブの献血活動は、私立福岡舞鶴高等学校のグラウンドを借り、1日に生徒と一般市民を合わせて500人近くが協力する大規模なイベントだ。その中止を決めたクラブに対する高校側の反応は、「学校単独でも実施したい」という予想外のものだった。熱心な生徒から「今年も献血やりますよね」という声が上がっているというのだ。社会全体に閉塞感が漂う中、クラブにとっては暗闇に一点の光が射したようだった。中止は撤回され、希望した生徒数十人による献血が行われた。
「若年層の献血が減少する中、高校生のうちに経験することは必ず将来につながると思って続けてきた活動でした。ですから、生徒の方からそうした声があったのを本当にうれしく思うと同時に、クラブが一方的に中止を決めたことを申し訳なく感じました」
長年にわたり活動の中心的役割を果たしてきた大舘照光元会長はそう話す。

伊都福岡ライオンズクラブは結成翌年の1998年2月、会員企業の駐車場を利用して最初の献血活動を実施。福岡舞鶴高等学校グラウンドでの大規模な献血がスタートしたのは6回目、2001年2月のことだ。間もなく1回の献血者は1000人を超え、1日当たりの献血者数で全国1位を記録したこともある。その活動ぶりは高く評価され、2013年に福岡市で開かれた第49回献血推進全国大会ではクラブと福岡舞鶴高等学校に福岡県知事感謝状が贈られた。
グラウンドでの献血が始まったのは、クラブメンバーの故・藤井勝彦元地区ガバナーが同校の山手誠之助理事長に、献血会場の確保に苦慮していると打ち明けたのがきっかけだった。「献血は学校内で出来る一番身近な社会貢献」と話す山手理事長は、当時の経緯を次のように振り返る。
「始めに学内で相談した時は、車両の乗り入れでグラウンドが荒れるといった理由で反対意見もありました。しかし、献血の必要性は違うレベルの話で、整備をすれば地面は元通りになる。生徒にとってどちらが有用かということです」

グラウンド提供が始まった翌年には3年生による卒業記念献血が行われ、その後2年生男子も協力するようになった。学校ではあらかじめ献血対象年齢(*) の生徒に呼びかけて希望者を募り、午前の授業中に教室を一時離れて検査と採血を受けられるようにしている。取材した2月19日は卒業直前の3年生はほとんど登校しておらず、2年生を中心に91人が希望し、そのうち事前の検査を通った80人が献血を行った。
福岡舞鶴高等学校はボランティア活動を教育の柱の一つと位置付けており、生徒たちは豪雨災害被災地の支援や福岡マラソンのサポートなど、さまざまな社会奉仕に積極的に参加している。2016年に福岡市で開かれたライオンズクラブ国際大会の時にも、英語科の生徒たちがボランティアとして外国からの参加者をサポートした。山手理事長は、献血はさまざまなボランティア活動のきっかけにもなると話す。

「学校での献血で、生徒たちはボランティアは自分が決めさえすれば出来るものだと気付きます。献血は直接的に人の命にかかわるボランティアです。生徒たちは献血を通じて目の前には居ないけれども誰かと出会い、その人を助けているわけです。高校生の時にそういう経験をするのはとても大事なことだと思います」(山手理事長)
ボランティア精神に富んだ同校の生徒たちの姿を、大舘元会長も目の当たりにしている。
「開催日前日に日赤のスタッフがグラウンドで会場設営をするのですが、毎回ラグビー部の部員たちが自主的に手伝ってくれます。そして作業が終わると、キャプテンが『お手伝いさせていただいて、ありがとうございます』と感謝の言葉を言うんです。私は非常に感銘を受けて、その言葉を聞くために足を運んでるくらい。我々の献血活動はそんなところにも役立っているんだと感じます」

広いグラウンドでの献血活動を前に、クラブメンバーは出来るだけ多くの人に協力してもらおうと自身が経営する会社や関係先、知人に協力を呼びかける。また、1週間前には高校最寄りのJR筑肥線・九大学研都市駅前でチラシを配布しPRに努めている。
2月19日、第56回献血活動の当日、メンバーは開始1時間半前に集合し、クラブのテント設営や駐車場の区分けなどの準備を進めた。テントの設置に抜群のチームワークを発揮していたのは、糸島市と福岡市西区を拠点にする糸島青年会議所(JC)の一団。伊都福岡ライオンズクラブの献血活動には毎回参加して、設営などに協力している。会場の準備が整ったところでライオンズとJC双方のメンバーが円陣を組み、浦会長が協力に感謝を述べると、糸島JCの松吉理事長は「献血への理解を広めることは非常に重要。今日の活動を多くの人に知ってもらえるよう、我々の得意とするSNSで発信します」と応じた。
この日のために福岡県赤十字血液センターからは献血車7台、スタッフ約50人が出動。グラウンドの半分に献血車5台と問診や各種測定を行うためのテントが並び、残る2台の献血車は生徒による献血用に校舎脇に配置された。グラウンドのもう半分のスペースが一般来場者用の駐車場だ。
献血が始まると、メンバーは車両の誘導や受付、献血者へのぜんざいの振る舞いなど、それぞれの役割に忙しい。日赤による献血受付とは別に、クラブは来場者の受付を設けて、メンバーの紹介者とその他の来場者の数を把握するようにしている。長年継続してきた成果で、飛び込みの来場が増えているという。献血に協力してくれた人たちへのもてなしは、2月はぜんざい、9月はところてん。コロナ禍以降は提供を中止していたが、今回から再開した。ぜんざいの担当は家族会員の女性たち。前日に小豆を炊いて用意したぜんざいは好評で、おかわりする人の姿も見られた。
この日は午前9時半から午後3時半の間に、413人が来場。事情により採血が出来なかった人を除く、高校生80人を含む334人が献血を行った。
2015年9月に2万人を突破した伊都福岡ライオンズクラブの活動による献血者数は、来年中には3万人に達する見込みだ。
*200ml献血は男女とも16歳から、400ml献血は男性は17歳・女性は18歳から、成分献血は男女とも18歳から行うことが出来る。伊都福岡ライオンズクラブの献血活動では、18歳(男性は17歳)から69歳(65歳以上は60〜64歳の間に献血経験が必要)、体重50kg以上の人を対象に実施
2025.04更新(取材・撮影/河村智子)
クラブ情報:福岡県・伊都福岡ライオンズクラブ
【会員数】44人:うち正会員32人(2025年3月末現在)
【結成年月日】1997年3月11日
【スポンサークラブ】糸島ライオンズクラブ
【クラブの特色】活動エリアは福岡市西区。クラブ名は西区と糸島市にまたがる地にあったとされる古代の「伊都国」に因む。会員の団結力が強く、活動に取り組む際の協力体制がうまく出来ている。献血の他に、青少年育成事業として福岡舞鶴高等学校と同系列の幼稚園で芋掘り体験を実施。また、チャリティーゴルフコンペの益金を糸島特別支援学校に支援金として贈る活動も継続している。
【例会日時】第2・4火曜日18:30〜
【例会場】山水荘