取材リポート 養護施設との雪まつりで
経験と触れ合いを

養護施設との雪まつりで経験と触れ合いを

冬の鶴岡ではめったにない晴天となった2月15日、市中心部から車で20分ほどの櫛引たらのきだいスキー場で、鶴岡鶴陵ライオンズクラブ(五十嵐正谷会長/39人)と児童養護施設・七窪思恩園の「雪まつり」が開かれた。28年前に始まった恒例の催しだ。

この日、クラブの元会長の三浦正明さんは、高校3年生になった「弟子」からうれしい知らせを受けた。大手機器メーカーの鶴岡事業所に就職が決まったという報告だ。スキーの腕前はインストラクター級の三浦さん。雪まつりでの2人の師弟関係は、生徒が小学4年生でスキーに初挑戦した時から続いてきた。今回が最後の参加になる弟子が「9年間ありがとうございました」と頭を下げると、三浦さんは喜びいっぱいの笑顔で「良かったなあ、がんばれよ」と声をかけた。

社会福祉法人思恩会七窪思恩園は、鶴岡市と酒田市を中心とする庄内地方で唯一の児童養護施設で、さまざまな事情で保護者と暮らすことが出来ない3歳から19歳の子どもたち52人が生活している。今年の雪まつりに参加したのは、施設の子どもたち48人と職員22人に、ライオンズ関係者30人の総勢100人。参加者は午前10時から昼食をはさんで午後3時まで、スキーやスノーボード、そり遊びを楽しんだ。

鶴岡市内には櫛引たらのきだい、湯殿山、羽黒山の三つのスキー場があり、地元っ子は幼い頃からスキーやスノーボードに親しんでいる。しかし、七窪思恩園はスキー場から離れた日本海寄りの地域にある上、必要な道具をそろえることも難しい。そうした中で雪まつりは、施設の子どもたちがウィンタースポーツに挑戦する機会となっている。

七窪思恩園の増田康平園長は、このイベントは子どもたちにとってとても良い経験になっていると話す。
「成長して社会に出た時、『鶴岡育ちなのにスキーが出来ない』なんてことにならず、胸を張ってスキーやスノーボードを『やったことがある』と言うことが出来ます」

1997年に始まった雪まつりは、当初は七窪思恩園のグラウンドで行われていた。建設業に携わるメンバーが、除雪で出た雪を生かして施設の子どもたちに楽しんでもらおうと発案し、実行委員会を立ち上げた。グラウンドに大型ダンプ延べ50数台分の雪を運搬して体育館の屋根より高い雪山を作り、クラブメンバーは一日親代わりとなって子どもたちと雪遊びに興じた。開始から5年後、施設の建て替えによりグラウンドが使えなくなると、会場をスキー場に移して継続した。

クラブは施設とスキー場間を送迎する大型バスや、用具のレンタルなどを手配。メンバーはゲレンデに出て手助けが必要な子のサポートをし、思い切り遊んでおなかをすかせた子どもたちのために昼食を用意する。子どもたちと共に楽しむこのイベントには、毎年市内の他クラブのメンバーやボランティアも参加協力している。

これまでの28年間で、雪まつりが開催出来なかったのはコロナ禍の2年間だけ。この時は、代わりに園内で楽しめるようにバーベキューセットと食材を寄贈したが、子どもたちもメンバーもスキー場でのイベント再開を心待ちにしていた。再開してからも、インフルエンザの流行や暖冬による雪不足など心配は尽きず、準備を進めるクラブメンバーは気が気ではない。昨年は深刻な雪不足でいよいよ開催が危ぶまれたが、直前の降雪にほっと胸をなでおろした。

真っ青な空の下、クラブ名入りの黄色いゼッケンを着けてゲレンデに出ると、年長の子たちは早速リフトに乗ってコースへと出ていった。幼い子たちは施設の職員に連れられてそり遊び用の斜面へ向かい、緩やかな斜面ではスキーやスノーボードに初挑戦する子や初心者の子たちが恐るおそる練習を始めた。

鮮やかなピンクのユニフォーム姿で、小さな子どもたちに基本的な動きを教えていたのは、若手のクラブメンバーたち。滑り降りたものの戻ってこられなくなった子に助けを求められ、引っ張り上げたり、抱え上げたり、何度も斜面を往復していた。

「1日だけの交流ですが、子どもたちは翌年も我々のことをよく覚えていてくれます。就学前から高校3年生まで15回も参加する子もいて、毎年子どもたちが成長していくのを見るのがとても楽しみです」(五十嵐会長)

子どもたちが思いおもいに雪山を満喫している間、ロッジの中ではクラブメンバーが昼食の準備を進めていた。この日のメニューはカレーとうどん、つゆ餅(雑煮)にあんこ餅。飲食業や製麺業のメンバーなど、それぞれの職業を生かし力を合わせておいしい昼ごはんを用意した。

専用の機械を使って手際よく餅を丸めるのは、自ら育てた農産物の加工販売を手がける五十嵐会長。庄内地方の伝統的な餅米「でわのもち」の丸餅は、ふんわり柔らかく絹のようにきめ細やかな舌触りだ。根菜と豚肉など具だくさんの汁でいただくつゆ餅とうどんには、庄内浜でとれる磯の香り豊かな岩のりをトッピングする。

「おかわりください」「いっぱい食べてよー」というやりとりが続き、空腹を満たした子どもたちは再び元気にゲレンデへ出ていった。

2025.03更新(取材・撮影/河村智子)

 クラブ情報:山形県・鶴岡鶴陵ライオンズクラブ


【会員数】39人
【結成年月日】1975年5月31日
【スポンサークラブ】鶴岡ライオンズクラブ
【クラブの特色】30代から80代まで幅広い年齢層の会員が在籍し、和気あいあいと楽しく奉仕活動に励んでいる。日本青年会議所(JC)を卒業して入会した若手が増えて活動の中核を担うようになり、順調に世代交代が進んでいる。クラブ最大の奉仕活動である七窪思恩園との雪まつりの他、市内を流れる内川の愛護活動に力を入れ、年4回の早朝草刈りと清掃、プランター設置や、水質とゴミの調査を実施している。石川県・能登ライオンズクラブと姉妹提携を結んでおり、能登半島地震の発生後には飲料水や衣類などの支援物資を届けた。
【例会日時】第1火曜日12:00〜 第3火曜日18:30〜
【例会場】グランド エル・サン