取材リポート 共生社会の実現を目指す
ボッチャフェスティバル

共生社会の実現を目指すボッチャフェスティバル

集まった参加者が体育館いっぱいの大きな輪を作ると、リズミカルな音楽に合わせて体操が始まった。思い切り手足を伸ばす幼い兄弟と、赤ちゃんを抱いた母親、その隣にはリズムに乗ってくるくると回る車いすの人がいる。黄色いユニフォームを着たライオンズメンバーもややぎこちない動きで輪に加わり、誰もが楽しそうに体を動かしている。

2024年11月24日、豊橋市の石巻地区体育館で開かれた「豊橋ボッチャフェスティバル」は、競技前の準備体操から熱気に包まれた。豊橋南ライオンズクラブ(清水雅弘会長/92人)が豊橋市と東愛知新聞社の後援を受けて開催するフェスティバルは、今回で7回目。この日は午前中に特別支援学校や特別支援学級に通う子どもたちとその家族、午後は支援学校の卒業生など大人が競技を行い、合わせて約150人が参加した。

競技を前に「やってみよう」の曲に合わせて体操

子どもたちを対象とする午前の部の参加者は、豊橋特別支援学校の在校生及び卒業生と豊川特別支援学校の在校生によるボッチャクラブや、豊川、豊橋、田原各市の小中学校に通う特別支援学級の子どもたちのクラブチーム・SSCのメンバーで、SSCが所属する総合型地域スポーツクラブ・スキッツのメンバーが競技運営をサポートした。

開会式ではボッチャクラブとSSCの鈴木祥子代表から、ライオンズへの感謝を込めたあいさつがあった。
「第1回以降、内心いつまで続けてもらえるんだろうと思っていましたが、ライオンズさんからは継続していこうという温かい言葉を頂きました。7年間はあっという間でしたが、あのコロナ禍の時も休むことなく開催していたんです。これは本当にライオンズさんのおかげです」
この言葉に参加者からは大きな拍手が湧き起こった。

ボッチャはもともと、脳性まひなどによる重度障がい者のためにヨーロッパで考案された。パラリンピック競技として高度な技術や戦術が競われる一方、現在ではあらゆる垣根を超えて誰もが一緒に楽しめるスポーツとしても親しまれている。ルールはカーリングに似ていて、目標となる白い球に向けて先攻チームが赤、後攻が青のボールを投じ、目標球との距離の近さで点数を争う。自分でボールを投げられない選手は競技アシスタントのサポートを受けてボールを転がす。豊橋ボッチャフェスティバルでも、重度障がいの選手が視線や表情の微妙な動きでランプ(勾配具)を操作する「ランプオペレーター」に指示を伝え、狙い通りの位置にボールを投じていた。

ランプオペレーターに指示を伝えて投球

豊橋南ライオンズクラブの第1回ボッチャフェスティバルが開かれたのは2018年。クラブ結成60周年の記念事業の一つとしてボッチャを取り上げ、ボール8セットの寄贈も行った。提案したのは当時第2副会長だった石井伸治さん。大学の同窓会の席で何か良い支援事業の案はないかと話題にしたところ、特別支援学校の校長を務める同窓生からボッチャを支援してもらえないかと持ちかけられた。市内には特別支援学校などの子どもたちで構成されるボッチャクラブがあって部活動の役割を担っているが、競技に必要な用具が不足していて、日頃の練習の成果を発揮する大会もないということだった。

石井さんはボッチャのボール寄贈と大会開催をクラブに提案。それがすんなり受け入れられたのには、それなりの理由がある。豊橋南ライオンズクラブの主要な活動の一つに、就労支援施設支援バザー「夢フェスティバル」がある。障がいにより一般企業で働くことが難しい人に就労の機会を提供する施設の活動は、まだまだ地域社会に浸透しておらず、厳しい運営状況にある。そこで、市内の福祉施設で作られた商品の展示・販売を行って支援しようと2014年に夢フェスティバルをスタート。市民と福祉施設をつなぐ「心のかけはし」となることを目指している。ボッチャフェスティバルの開催も、競技だけでなく障がい者に対する市民の理解を高めることを目的に掲げて継続的に取り組み、競技用具の寄贈も続けている。

各コートの勝者に表彰状と副賞を贈呈

ボッチャ競技を広く市民に知ってもらう一環として、クラブは市内にある桜丘高等学校和太鼓部に参加を呼びかけた。部員たちは太鼓演奏で開会式を盛り上げると共に、競技にも出場する。今回はあいにく他の行事と日程が重なって出られなかったが、参加者は高校生の迫力ある演奏を毎年楽しみにし、高校生たちもボッチャを体験出来ることを喜んでいると言う。ちなみにこの和太鼓部は豊橋南ライオンズクラブの他の事業にも協力しており、クラブからボランティア証明書を発行しているそうだ。

ライオンズメンバーも、会場の音響や競技運営のサポートなど裏方を務める傍ら競技に参加している。
「実際にやってみると本当におもしろくて、真剣になってのめり込んでしまいます」
そう話すのは、この事業を担当する市民教育委員会の夏目学委員長だ。この日は主催する豊橋南ライオンズクラブのメンバーだけでなく、豊橋北、豊橋シニア両クラブの会員もライオンズチームとして競技に加わった。334-A地区ではクラブ間交流として、他クラブの奉仕活動に参加することを奨励している。その方針に沿って、2クラブから4人のメンバーが参戦した。

クラブとしては更に多くの市民に参加してもらいたいと考えているが、フェスティバル参加者の中には障がいを持つ子どもと家族、ボランティアなど気心の通じ合った仲間を主体とした現在のままが良い、との意見もある。意図的ではないとしても、好奇や偏見の目にさらされるのではないかと不安を感じるのだろう。そんな当事者の気持ちを尊重しつつ、市民の認知度向上という目標を今後どうやって実現していくか、知恵を絞っているところだ。

2025.02更新(取材・撮影/河村智子)

 クラブ情報:愛知県・豊橋南ライオンズクラブ


【会員数】92人:正会員52人/特典会員の家族会員40人(2024年11月末現在)
【認証年月日】1959年4月16日
【スポンサークラブ】豊橋ライオンズクラブ
【クラブの特色】正会員52人のうち33人が40代と50代、平均年齢60歳というバランスの取れた会員構成になっている。例会出席率が高く、会員一人ひとりのやる気も高い。委員会では活発に意見を出し合い、先輩会員が若い会員の意見を後押しする。新たな提案も積極的に取り入れ、活性化につながっている。奉仕活動では特に青少年育成に力を入れ、清川記念エージグループ水泳記録会(1966年開始)、豊橋市少年剣道大会(78年開始)、豊橋中学校生徒会活動研究会(95年開始)は長年続けている自慢の事業。また、今年度で11年目になる就労支援施設支援バザー「夢フェスティバル」は、会員一丸となって取り組む手作りの催しで、更なる充実に努めている。
【例会日時】第1・3水曜日12:15〜13:30
【例会場】ホテルアソシア豊橋