取材リポート
糖尿病リスク測定で
市民の健康を守る
広島県・三原浮城ライオンズクラブ
#糖尿病
瀬戸内海に浮かぶ島々の絶景と名物のタコで知られる三原市は、毛利元就の三男・小早川隆景が築いた三原城の城下町でもある。山陽新幹線の停車駅でもあるJR三原駅はその本丸跡にあり、駅舎は天守台の巨大な石垣にくっ付くようにして建っている。河口を埋め立てて築かれた城は城郭と軍港の機能を備え、満潮時には海に浮かんで見えたことから別名「浮城」と呼ばれ、毎年11月初旬の三原浮城まつりでは、駅周辺でさまざまな催しが開かれる。
そんな地元のシンボルをクラブ名に持つ三原浮城ライオンズクラブ(石本栄次会長/85人)が、三原浮城まつりに合わせて実施しているのが、市民を対象とした糖尿病リスク測定だ。三原駅構内にある観光案内所「うきしろロビー」の一角を会場に、三原薬剤師会と連携して無料で提供する活動で、今年も祭り当日の11月9日、午後1時から4時まで実施した。石本会長はこの活動の目的を次のように説明する。
「糖尿病の早期発見・早期治療につなげることを目的に、無症状の人を対象に行っています。これにより重症患者の増加を防ぎ、ひいては医療費の削減に貢献したいと企画しました」
糖尿病は、ライオンズクラブ国際協会が掲げる八つのグローバル重点分野の一つ。ライオンズが糖尿病に対する取り組みを始めたのは1982年で、当時は失明の主要原因の一つである糖尿病をくい止めるという視力保護の一環だった。その後、糖尿病の有病者数は増加の一途をたどる。国際糖尿病連合が発表した2021年の統計では、世界の糖尿病人口は5億3700万人。成人の10人に1人(10.5%)が罹患(りかん)しており、2045年までに7億8300万人(12.2%)に増加すると予測している。そうした状況から、国際協会は糖尿病を21世紀最大の健康危機と捉え、予防と患者支援の活動を推進。世界各地のクラブがさまざまな啓発活動や患者支援などの活動に取り組んでいる。
糖尿病患者の増加は、日本でも大きな問題だ。厚生労働省が行った2020年の調査によると、治療を受けている患者は579万1000人で、このうち主に生活習慣に起因する2型糖尿病は369万9000人。同じく厚生労働省による「国民医療費の概況」(2022年)では、糖尿病の医療費は1兆1997億円に上っている。
2型糖尿病は予防可能な疾患だが、自覚症状が少なく、放置すればさまざまな合併症を引き起こしかねない。予防にはまず健診を受けることが重要だが、広島県の受診率は他の都道府県に比べて低い状況にあった。そこで行動を起こしたのが三原薬剤師会だ。2014年、薬剤師会は薬局内に国のガイドラインに基づく検体測定室を設け、糖尿病診断の指標であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を測定する活動を開始。リスクの早期発見と要注意者へのきめ細やかな指導の効果が認められ、16年には全国で初めて市の委託事業として予算化されて、今日まで継続している。
三原浮城ライオンズクラブはこの動きに呼応し、三原薬剤師会と提携して9年前に三原駅前での「糖尿病リスク測定」を開始した。この事業では、薬剤師会が駅前の会場を検体測定室として使用するための市への申請や検体測定・指導などを担い、クラブは必要な資材などの費用負担や当日の会場設営、市民へのPR・案内などを担当している。
リスク測定を希望する人は問診票の記入と血圧測定の後、薬剤師と対面して測定を受ける。測定者は採血用器具を使って指先から少量の血液を採取。薬剤師はそれをHbA1cの測定器にかけると、結果が出るまでの5分ほどの間に随時血糖値(食事と採血時間との時間関係を問わずに測定する値)の測定や、食事や運動などに関する聞き取りを行い、HbA1c測定結果を基に、生活習慣に関するアドバイスを提供する。
測定を担当した薬剤師の一人は「無料で保険証も不要、医師ではなく薬剤師による指導は緊張感が少ないようです。始めは緊張していた人も、次第に会話が弾んで明るい顔になります。自分の健康について具体的なイメージが出来ていくのだと思います」と述べている。
HbA1cは過去1〜2カ月の血糖の状態を正確に反映し、5.5以下が正常値、5.6〜5.9が正常高値、6.0〜6.4が糖尿病予備軍、6.5以上が糖尿病疑いとされる。この日は薬剤師6人によって23〜88歳まで64人の測定が行われ、平均年齢55歳と比較的若かったこともあり、78%の人がHbA1c正常値だった。それら正常値の人にも食事と運動の改善目標を立ててもらい、HbA1cが6.0を超えた8%の人には予防行動につながるようしっかりと指導が行われた。
多くの市民が集まる三原浮城まつりに合わせて企画されたこの事業だが、今年から祭り会場が駅の反対側に移動し、うきしろロビーがある側の人出はめっきり減ってしまった。それでも、メンバーによる事前のPRと、駅前や祭り会場での呼びかけが功を奏し、リスク測定の会場には途切れることなく希望者が訪れ、一時は30分待ち時間を要するほどだった。
2025.01更新(取材/河村智子)
クラブ情報:広島県・三原浮城ライオンズクラブ
【会員数】85人
【認証年月日】1964年3月22日
【スポンサークラブ】三原ライオンズクラブ
【クラブの特色】60年の伝統を守りつつ、新しい時代に即した奉仕活動を楽しく行っている。平均年齢50歳代と若く、こども食堂に特化して活動するさつき支部の会員や家族会員も増えており、成長著しい活気あるクラブだ。奉仕活動では献眼にも力を入れ、今年度で33回目を数えた「浮城ふれあいコンサート」で献眼登録の啓発に取り組んでいる。また、毎年1月に主催する三原市小学生駅伝大会「うきしろカップ」は今年で12回目となり、力を合わせて完走する達成感を味わってもらうと共に、児童の体力向上や学校間の親睦を深めることも目指している。
【例会日時】第2・4木曜日12:15〜13:15
【例会場】三原商工会議所