取材リポート パークゴルフ大会で
村民の心をつなぐ

パークゴルフ大会で村民の心をつなぐ

遠くなだらかな山並みを望む天然芝のコースは、歩くだけで爽快な気分を味わえる。東日本大震災後に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故で全村避難となった飯舘村に、いいたてパークゴルフ場がオープンしたのは2021年。避難指示が解除され帰村が始まってから4年目のことだ。

村民の交流の場となっているこのパークゴルフ場で、飯舘ライオンズクラブ(菅野典雄会長/34人)は2022年にパークゴルフ大会を始めた。年1回、飯舘村パークゴルフ協会の協力を得て開催し、第3回となる今年は9月29日に行われた。本来は21日に実施予定だったが、雨天のため翌週に順延。震災時に村長を務めていた菅野会長は所用により参加出来なかったが、この大会の目的を次のように説明している。

「パークゴルフ大会を実施することで、全村避難によって離ればなれになった村民のコミュニティーづくりを進めていきたい。同時に、ライオンズクラブの奉仕の心を形にして表すことで、村民の皆さんに理解してもらいクラブの存在感を高めることも目的の一つ。一人でも多くの会員を増やしていくことが今後の目標」

震災発生から10年余りの月日が経ってなお多くの困難を抱える村を、何とかして活気付けたいという願いを込めた大会だ。

第3回飯舘ライオンズクラブ会長杯パークゴルフ大会に出場したのは、男性27人、女性10人の37人。多くは村外で暮らし、折あるごとに村に通っている。10組に分かれた出場者は「のびのびコース」と「レベルアップコース」の2コースを2回ずつ、36ホールを回る。各組にはライオンズメンバーが一人ずつ加わった。

パークゴルフは1983年に北海道幕別町で生まれたスポーツで、幅広い世代が手軽に楽しめることから全国へと広がった。基本的なルールはゴルフと似ているが、空振りは打数に数えないなど、より簡単で誰もが楽しくプレー出来るようになっている。ライオンズの中にはパークゴルフはこの日が初めてというメンバーもいたが、同じ組の人に教わりながら共に心地良い汗を流した。

最高齢90歳の出場者(右)も元気にプレー

阿武隈(あぶくま)山系の北部、標高500mの高原に開けた飯舘村は、総面積の約8割を山林が占める自然豊かな村。その恵まれた自然を生かして、「までいライフ」(までい=「手間暇を惜しまず」「丁寧に」「心を込めて」という意味の方言)を基本にした村づくりが進められてきた。

そんな穏やかな村の日常は、原発事故によって一変。震災発生から1カ月後、国は村全域を計画的避難区域に指定して全村避難を指示した。当時の菅野村長(2020年退任)は国が示した県外各地への分散避難ではなく、村から車で1時間以内の県内に避難場所を確保。放射能のリスクと、生活の変化による健康のリスクから村民を守りながら、村とのつながりが失われることのないよう力を尽くした。

コースを回りながら会話も弾む

先行きの見えない避難生活の中で、村民の交流と健康づくりに一役買ったのがパークゴルフだ。避難生活を送る村民たちは誘い合ってパークゴルフに親しんだ。2016年には飯舘村パークゴルフ協会が設立され、帰村の日を見据えて、飯舘村でのパークゴルフ場建設を村に働きかけた。

この日の大会出場者の中で最高齢だった90歳の女性も、避難先でパークゴルフに「はまった」一人。しっかりとした足取りで約1時間半、起伏のあるコースを巡り、力強くクラブを振るっていた。そんな元気の秘密を尋ねると、すかさず「パークゴルフ」という答えが返ってきた。

全ての組のプレーが終わって結果発表を待つ間、和気あいあいと語り合う出場者の輪からは、何度も大きな笑い声がわき起こった。閉会式では男女それぞれの1位から3位と、ブービー賞に加えて、87歳と90歳の男女最高齢の出場者に会長特別賞が贈られた。

優勝者にはカップと副賞の日本酒を贈呈

飯舘村に出された避難指示は2017年3月に大部分で解除されたが、村を離れた6年の間に避難先で生活や仕事の拠点を築いた人は多い。震災前の村の人口は約5800人だったが、現在村内に住所を持つ人は4500人。そのうち実際に村に住む人は1500人で、震災前の2割程度に過ぎない。飯舘ライオンズクラブの会員でも、帰村した人は34人中13人に留まっている。

「震災前、クラブ例会には毎回ほぼ全員が出席していました。当時は飲食店の2階で例会と懇親会をしている間、1階には奥さんたちが集まって食事を楽しんでいました。今は月1回の例会に集まれるのは半分ぐらいですが、仕事を終えた後、1時間かけて村へ来て出席するメンバーもいます。飯舘ライオンズクラブは和やかで、本当におもしろいクラブなんです」
クラブ最長老の菅野敬元会長は懐かしそうにそう話した後、「それにしても、6年は長過ぎたな」とつぶやいた。

クラブは全村避難の間も福島市内で例会を続け、全国の仲間から寄せられる支援に励まされながら絆を守り抜いた。2023年9月には結成45周年式典を迎え、飯舘村の再興を願って奉仕活動に励んでいる。

2024.11更新(取材/河村智子)

 クラブ情報:福島県・飯舘ライオンズクラブ


【会員数】34人
【認証年月日】1979年5月8日
【スポンサークラブ】原町ライオンズクラブ
【クラブの特色】結成当初から家族ぐるみで参加する和やかな雰囲気のクラブで、現在は12組の家族会員が在籍している。結成30周年を迎えた2008年の時点では、村の人口は6300人、会員は32人で、村民197人に1人という高いライオンズ密度を誇っていた。昨年度は45周年記念事業として、希望の里学園(2020年4月開校の小中一貫校)の子どもたちから交通安全標語を募集。その優秀作3点の標柱と、薬物乱用防止の標柱を村内に設置した。今年7月には35歳の若手を含む新会員3人が加わった。
【例会日時】第3金曜日18:30〜
【例会場】宿泊体験館きこり