取材リポート 養護施設の子どもたちと
共に楽しむ真夏の一日

養護施設の子どもたちと共に楽しむ真夏の一日

家庭での養育が難しいために保護を必要とする児童は、全国で約4万人。こども家庭庁の調べによると、全国約600の児童養護施設で生活する子どもは2万8000人余りに上る。近年家庭内での児童虐待が急増し、入所理由の約7割が虐待によるものだ。心に深い傷を負った子どもたちの養育と、将来の自立に向けた歩みを進めるため、さまざまな支援が必要とされている。

静岡市中心部に突き出た賤機(しずはた)山のふもとにある児童養護施設静岡ホームは、日露戦争直後の1907年、孤児や貧児の救済のためにカナダ人宣教師によって創設され、子どもたちの健やかな成長を支援してきた。現在は3歳から大学生までの約50人が生活を共にしている。

静岡巽ライオンズクラブ(井上桃都師会長/59人)はクラブ結成5周年を迎えた2000年に、静岡ホームの園庭にビオトープを造成した。以来、毎年8月にメンバー総出でビオトープの整備を行い、夏祭りを開いて施設の子どもたちと交流するのが恒例。夏祭りには地域の団体にも参加してもらい、近年は市内にある国際ことば学院日本語学校の留学生も招待している。

8月24日朝9時、静岡ホームの園庭には電動草刈り機のごう音と、子どもたちの歓声が響いていた。ビオトープの池の周囲に生える樹木をせん定し、雑草を刈るライオンズのメンバーたち。その傍らでは、はしごを支えて「もっとあっち! 違う、こっち!」と監督役を務める子、地面に枝が落ちると勇んで駆け寄ってトラックまで引きずっていく子、子どもたちが楽しそうに手伝いに励んでいる。

ライオンズメンバーはクラブの備品だという鎌やのこぎり、草刈り機などの道具を駆使し、それぞれの持ち場で慣れた様子で作業を進めていく。それもそのはず、クラブはこのビオトープの他に、市街地を一望出来るダイラボウの頂上近くに広葉樹を植樹した「巽の森」の手入れも実施。こうした整備作業はいわばクラブのお家芸とも言える活動なのだ。

ビオトープの池にメダカを放流する子どもたち

1995年結成の静岡巽ライオンズクラブは、静岡市内で活動するライオンズの中で最も新しいクラブだ。クラブ独自のカラーを出そうと、結成当初から自分たちの体を動かして奉仕する活動に力を入れた。

結成5周年を前に静岡ホームの園舎改築計画を知ったクラブは、予算がなく手つかずになっていた園庭の整備を申し出る。その計画に取り入れたのが、都市化によって失われた身近な自然を取り戻す試みとして注目を集めていたビオトープだ。メンバーの胸の内には、幼い頃にトンボを追い、レンゲやタンポポを摘んで遊んだ時の楽しさを、子どもたちにも味わってほしいという思いがあった。

計画に着手したクラブは、周辺の生態系について地元の大学教授に話を聞き、近隣の小学校にあるビオトープを視察。昔から地域に生育している植物を植え、池を造成してメダカを放った。「めだかの里」と名付けられたビオトープには、絶滅危惧種に指定されているガマ科の水草ミクリも生育し、生物多様性の維持に貢献している。造成当時、担当委員長として事業の陣頭指揮を執った千代公夫さんはこの日も作業に汗を流し、「24年前に思い描いた通りのビオトープになっている」と満足そうに話していた。

ビオトープとSDGsについて子どもたちに説明

作業開始から1時間余りで園庭をきれいさっぱり整えた後は、子どもたちとメンバーの交流の時間。ビオトープの池にメダカを放流した子どもたちに、持続可能な開発目標(SDGs)に関するペーパーを配り、説明が行われた。幼い子どもたちにはちょっと難しかったようだが、「ビオトープって何?」というメンバーの投げかけには「お花」「池」「木」と元気な声が返ってきた。

静岡巽ライオンズクラブは3年前、静岡市の募集に応じて「SDGs宣言」を行った。SDGsの目標に照らしてクラブの各奉仕事業の意義を理解することで、より幅広く質の高い活動につなげようという取り組みだ。この日の活動では、ビオトープを整備し子どもたちの身近なものとして意義を学んでもらうこと(「目標15. 陸の豊かさも守ろう」「目標4. 質の高い教育をみんなに」)、静岡ホームや国際ことば学院との連携(「目標17. パートナーシップで目標を達成しよう」)を目指した。クラブのSDGs宣言には、福祉と青少年育成、環境を柱に持続可能な地域社会の実現に貢献しようという決意が込められているのだ。

バルーンアートやジャグリングなどの技に大きな拍手と歓声が上がる

午前中のビオトープ整備を終えていったん解散した静岡巽ライオンズクラブのメンバーは、午後5時に再び静岡ホームの楓ホールに集合。クラブ例会を兼ねた交流夏祭りでは毎回、地元高校の吹奏楽部や太鼓チームの演奏などさまざまな出し物が披露される。今年は大道芸人あまる氏によるユーモアたっぷりの芸に、子どもたちも国際ことば学院の留学生も身を乗り出して見入っていた。

ホールでの催しの後は屋外に並べた屋台での軽食やゲームと花火を楽しむのだが、この日は開始2時間前に激しい雨に見舞われ、急きょ室内に会場を移すことになった。屋台で振る舞うはずだった静岡おでんに焼き鳥、焼きそば、かき氷は食堂で提供。別室のゲームコーナーでは輪投げにくじ引き、手品、パズルなどが用意され、みんなで縁日さながらのにぎわいを楽しんだ。

「何と言っても、子どもたちが年に一度の夏祭りを楽しみにしてくれていること、そして毎年子どもたちの成長を見られることに大きな喜びを感じています。継続は力なりと言いますが、それがあってこそ24年間続けてこられたのだと思います」
そう話すのは、クラブ結成当初から静岡ホームでの活動に熱意を注いできた佐塚隆彦さんだ。佐塚さんを始めとするベテランのメンバーも、若いメンバーも、皆が子どもたちとの触れ合いを心から楽しんでいた。

お祭りムードを盛り上げるメンバーと、景品をもらって喜ぶ子どもたち

あいにくの雨により、夏祭りの最後を飾るはずの花火は後日楽しんでもらうことになった。名残を惜しむ雰囲気の中で始まった閉会式では、静岡ホームの鈴木啓一施設長が次のように感謝の言葉を述べた。
「毎年さまざまなイベントで子どもたちを楽しませてくださり、皆さんも一緒に楽しんでおられるものと思います。こうして一緒に楽しんでくれる大人がこんなにたくさんいるということを、子どもたちが実感出来るのはとても大切だと考えています」

静岡巽ライオンズクラブのメンバーと過ごした一日は、夏の楽しい思い出と共に、子どもたちの心に温かなものを育んでいることだろう。

2024.10更新(取材・撮影/河村智子)

 クラブ情報:静岡巽ライオンズクラブ


【会員数】59人
【結成日】1995年11月20日
【スポンサークラブ】静岡駿府ライオンズクラブ
【クラブの特色】4年前の結成25周年で若手の会員増強を図ったのを機に30〜40歳代の入会が増え、クラブ全体がよりエネルギッシュになってきた。高年齢層のベテランと中年層、近年加わった壮年層の三つの世代が垣根なく話し合い、交わることで、いざ奉仕活動を行う時には一致団結出来る。
【例会日時】第2・第4木曜日18:30〜20:30
【例会場】ホテルアソシア静岡