取材リポート 世界の若者が日本を知る
国際ユースキャンプ

世界の若者が日本を知る国際ユースキャンプ
キャンプ初日、翌日の広島訪問に備えて千羽鶴を折るユースたち

大阪府泉佐野市にある犬鳴山七宝瀧寺は、多くの修験者が訪れる霊場。猛暑真っただ中の7月27日、ここで滝行を体験したのは、世界16カ国から来日した24人の若者たちだ。山伏から説明を受けて白装束に着替えると、ごう音を上げて流れ落ちる滝の下へ。目をつぶって微動だにせず手を合わせる者がいれば、水の冷たさに身震いする者もいる。古来、心身の鍛錬のために行われてきた滝行は、忘れられない体験になったことだろう。

この修行体験は、ライオンズクラブ国際協会のユースキャンプ及び交換(YCE=Youth Camp and Exchange)プログラムの一環として335複合地区(関西)が実施した日本国際ユースキャンプで、アクティビティ企画の一つとして行われたものだ。


 

ライオンズクラブは「世界の人びとの間に相互理解の精神をつちかい発展させる」という協会の目的を推進するため、15歳から22歳までの若者を対象とするユースキャンプと青少年交換を実施している。ユースキャンプは1974年にスタートし、その目標にはさまざまな国の青少年に交流の機会を与えること、思想や習慣、文化の共有を促すこと、国際理解と親善、世界平和を目指して努力することなどを掲げる。

ユースキャンプ・プログラムの導入後、日本国内でもキャンプが企画されるようになり、335複合地区は1982年に第1回日本国際ユースキャンプを開催。翌年の第2回からは335-B地区(大阪府・和歌山県)主催で続いてきた。そして今年、開始から40回目となるのを機に、335複合地区主催で行われることになった。

京都では金閣寺や嵐山を訪れた後、いけばなを体験

キャンプの日程は7月21〜28日の1週間。青少年交換で複合地区内にホームステイする15歳から21歳のユース24人が参加した。欧州11カ国とカナダ、インド、インドネシア、マレーシア、メキシコから集まった彼らは1台のバスに乗り込み、大阪から広島、姫路、京都、和歌山の各府県を巡りながら、さまざまなアクティビティを通じて日本の文化や習慣を体験した。

最初の訪問地は、広島。プログラムが目指す世界平和の観点から、唯一の被爆国としての日本を知ってもらおうと、平和記念資料館と平和記念公園を訪れ、ユース全員で折った千羽鶴を原爆の子の像に捧げた。京都では、池坊会館の伊藤礼水教授の指導を受けていけばなを体験し、用意された花材を使ってそれぞれに個性豊かな花を生けた。その中で、ウクライナとロシアの戦争による影響かヒマワリの花の使用を拒むユースがいた。沈んだ表情を見せるユースに、キャンプの企画運営を担ったYCE委員会のメンバーは現在の国際情勢の厳しい現実を垣間見た。

大阪ではみんなが楽しみにしていたユニバーサル・スタジオ・ジャパンを満喫、南紀白浜では白浜ライオンズクラブの協力で海水浴場でのスイカ割りを思い切り楽しんだユースたち。キャンプ中は毎晩、それぞれの母国を紹介するプレゼンテーションの時間もあり、交流を深めていった。

キャンプ中は毎晩、ユースたちが自分の国を紹介するプレゼンテーションが行われた

コロナ禍による中断を経て5年ぶりの実施となった今回のユースキャンプを、2024-25年度335複合地区YCE委員会の団英男委員長は次のように振り返る。

「YCEに初めて携わるライオンズメンバーも多く、運営に不慣れなところもある中、大阪府・吹田江坂ライオンズクラブYEX支部の若いメンバーの協力なくしては成功を収めることは出来なかったと思います。YCEによる海外派遣の経験者である彼らは、同世代のユースと心を通わせ、キャンプを盛り上げてくれました。まさに、YCEプログラムの真骨頂を発揮することが出来たと思います」

カウンセラーの一人、吉金優佳さん(吹田江坂ライオンズクラブYEX支部)は、高校時代にフィンランドに派遣され、その後の進路や就職、生き方が大きく変わる経験をした。その貴重な経験を生かして、来日する海外の若者たちに日本の魅力を伝えて交流したいと、ユースキャンプの運営に参加してきたという。現在は外資系航空会社に勤務する吉金さんは今回、学生時代以来、6回目のキャンプ参加となった。

「日本に行ってみたい!という思いで来日したユースたちに、日本のことを伝えるのはもちろんですが、それぞれの文化を尊重する必要もあります。 例えば、宗教の問題。宗教上の理由による特別な食事のリクエストに対応をしてくれるレストランやホテルは多くはない中、出来る限りの対応を心がけました」と教えてくれた吉金さん。ユースたちから寄せられた「日本の文化をもっと深く知りたい!」「また日本に来たい!」というコメントに、大きな喜びを感じている。 

YCEプログラムによる海外派遣の経験者であるカウンセラーは、キャンプの企画立案やユースのサポートに活躍

キャンプ終了時に行ったアンケートでは、参加したユースの約9割がキャンプの満足度に10点満点の9点以上を付けた。以下は、その感想の一部。

・このキャンプの最大の収穫は、私が出会った人たちです。さまざまな国や生活について学ぶことはすばらしい経験でした。 普段は初対面の人と話すことは苦手なのですが、日本滞在中は、自分だけの快適領域を抜け出して新たな体験が出来ました。私はこの国が大好きです。
(Hekman Malou/オランダ)

・最も印象的だった経験の一つが、広島平和記念資料館を訪れたことです。そこでは、第二次世界大戦が広島に与えた影響や世界平和の重要性を学び、人間が引き起こした戦争による重大な結果を深く考える機会になりました。 他にも、伝統的な日本の礼儀や文化的慣習を学び、本物の日本料理を味わうなど、このキャンプにはさまざまなアクティビティが用意されていて、それらを通じて日本の文化に対する視野が広がり、興味と敬意が深まりました。
(Lau Xu Hao/マレーシア)

・キャンプは始まりからとてもよく準備されていました。ライオンズメンバーとカウンセラーは私たちが日本を知り、時間通りに動けるようにいつも確認し、すばらしい仕事をしてくれました。全てのカウンセラー、ライオンズメンバーに私がどれほど感謝しているか、言葉では表せないほどです。寛大で礼儀正しい人ばかりで、私の心に残り続けています。
(Babjakova Nada/スロバキア)

充実したキャンプを企画したライオンズやカウンセラーへの感謝の気持ちを示しつつ、改善点として複数のユースが挙げたのが、多忙なスケジュールと自由時間の少なさだ。「もっと余裕のあるスケジュールにした方がいい」「ユースへの信頼、自由が欠けていた」「暑さへの準備が万全でなかった」といったフィードバックもあった。

和歌山県御坊市の道成寺では、住職が英語で説明する安珍・清姫の物語に聞き入った

「335複合地区では今後もホストファミリーの負担を減らしつつ、より充実した異文化体験をユースたちに提供する新たな企画を立て、日本への理解を深めると共に真の国際人の育成を支援していきたいと考えています」と、団委員長は話す。

国際協会のYCE事業は、1961年に兵庫県とアメリカ・カリフォルニア州のライオンズによる学生交換をきっかけに始まった。時代が大きく変化しても、青少年に国際理解と平和の精神を育もうとするライオンズの努力は、変わることなく続いている。

今回のユースキャンプの名称は「おにぎりキャンプ」。最終日のフェアウェルパーティーでは、カウンセラーからユース一人ひとりに、おにぎりケースがプレゼントされた

2024.09更新(情報・写真提供/335複合地区YCE委員会)