取材リポート お遍路文化を守り
地域をつなぐウォーキング

お遍路文化を守り地域をつなぐウォーキング

弘法大師・空海ゆかりの寺院を巡る四国八十八カ所は、全長1400kmの遍路道で、徒歩では40日程度を要する。この四国霊場を模したミニチュアの八十八カ所は「地四国」と呼ばれ、全国各地に設けられている。島や山、半島に安置された1番から88番までの祠(ほこら)などを巡拝するもので、今治市では村上水軍の拠点があった大島の「島四国」が有名だ。その大島と来島海峡大橋でつながる高縄半島にも、60年以上前から続く「半島四国八十八カ所」がある。

半島を一周するように安置された石仏を巡るこの行事は、旧波方町(現・今治市波方)で信仰・観光・健康の三つを掲げて始まり、毎年4月の第4金曜日から日曜日にかけて行われてきた。始まった当初は2〜3日かけて徒歩で巡り、無償で巡礼者を泊める善根宿もあったが、今では歩き遍路をする人は珍しくなった。

今治東ライオンズクラブ(壷内和彦会長/38人)は、2014年から「半島四国八十八カ所ウォーキング」と題したイベントを開催。児童養護施設あすなろ学園の子どもたちや今治明徳短期大学の留学生と共に、半日の巡礼ウォーキングを楽しんでいる。

11年前の2013年、クラブメンバー5人が誘い合い、半島四国八十八カ所の歩き遍路に挑戦。変化に富んだ風景と、地元の人たちによる温かな「お接待」に感銘を受けた。そして翌年には、この伝統行事をクラブの奉仕活動に取り入れることになる。四国の地で受け継がれてきたお遍路の文化を守り、地域の団体や施設との交流を深めることが事業の目的だ。

今年は4月27日に開催されたが、集合時間はあいにくの雨模様。クラブメンバーから「雨神様」と敬われる壷内会長の本領発揮と思われたが、午前10時の出発から間もなく雨は止み、長丁場のウォーキングにはちょうど良い曇天となった。

この日参加したのは、あすなろ学園の低学年児童と職員9人、明徳短期大学の留学生ら9人に、クラブメンバーや家族らを合わせて総勢43人。あすなろ学園からは15人が参加する予定だったが、直前にインフルエンザ罹患(りかん)者が出た影響で人数が減った。参加者は3班に分かれ、ライオンズメンバーが班長、副班長、しんがりの役目を務める。

約10kmのウォーキング・コースは海あり山ありの道のりで、休憩を含め約5時間をかけて22カ所の石仏を巡る。出発地点のなみかた海の交流センターから住宅街を抜けて山道に入り、標高150mの塔ノ峰で途中休憩。そこから山を下って再び海に出ると、半島の先端にある大角鼻(おおすみのはな)で昼食を取り、その後は海沿いの道を通ってゴールに至る。

石仏が祭られた祠の前に来ると、メンバーはさい銭を供えて手を合わせる。最初は見よう見まねで頭を垂れていた子どもたちは、何度かお参りするうちに進んで手を合わせ、「最後まで歩けますように」「お菓子がもらえますように」などと願いごとをつぶやいていた。

地元の人たちがお遍路の人たちのために設けた接待所。ウォーキングの一行はクラブの接待所を含む6カ所を訪れてもてなしを受けた

コース最高地点の塔の峰から山を下る道すがら、この事業を担当する環境・社会福祉委員会の田窪誠一郎委員長の手をしっかりと握って歩く男の子の姿があった。長い時間一緒に歩くうちにメンバーと打ち解け、甘えた様子を見せる子もいる。これまでに印象的だった出来事として壷内会長が挙げたのも、あすなろ学園の児童と手をつないで歩いた経験だ。

「歩き始めてすぐに、1人の子が『手をつないで』と声をかけてきました。しばらくするともう1人の子が手をつないできて、そのまま最後まで2人の子の手を握って歩きました。不安を感じていたのか、あるいは愛情に飢えていたのかもしれません。歩きながらいろいろな話を聞かせてくれて、一緒にお弁当を食べて最後まで楽しい時間を過ごしました。このウォーキングは子どもたちの心を養うためにも大きな役割を果たしていると感じました」

壷内会長はこの日も、歩き疲れて足を止めた子の荷物を持ってあげたり、道端のタンポポを摘んで綿毛を飛ばしてみせたり、子どもたちとの交流を楽しんでいた。

四国にはお遍路さんへの「お接待」の文化があり、半島四国八十八カ所でも各地区の住民が接待所を設け、おにぎりや飲み物、菓子などを用意して巡礼者をもてなしてくれる。一行の疲れを癒やしてくれるのは地元のお年寄りたち。中には、子どもたちのためにお菓子の詰め合わせを用意して待っている所もある。海辺の集落で温かな緑茶を振る舞ってくれた女性は、「この頃はお遍路さんが少なくなっているので、子どもたちも一緒に大勢でにぎやかに来てくれるのは、本当にありがたい」と笑顔を見せた。

中国からの留学生の王さんは「地元の人たちがとても優しく接してくれて、すごくうれしかったです。周りの人たちにもお遍路の良さを伝えたい。また歩いてみたいです」と話していた。

そうした心尽くしのお接待に感銘を受けたクラブは、自前の接待所を設けている。この日も、お接待班は朝8時半から設営を始め、コースの中間地点にあって瀬戸内海を一望出来る大角鼻に接待所を設置。訪れる人においしい柏餅を振る舞った。

午前中に山越えをした3班は、予定通り昼過ぎにクラブの接待所がある大角鼻に到着した。昼食の弁当と柏餅でエネルギー補給を済ませると、来島海峡大橋を眺めながら午後の部をスタート。新緑に彩られた山道から一転、後半は瀬戸内の潮風を受けて海沿いを進み、無事にゴールを果たした。

2024.06更新(取材・動画/河村智子 写真/田中勝明)