海外の活動 老人ホームの小さな訪問者
カナダ
高齢者施設の入居者たちは、フレンドリーな訪問者がやってくるのを心待ちにしている。特に、バラ色の頬と周囲を明るくするような笑顔の小さな友達はいつでも大歓迎だ。
カナダのニューファンドランド・ラブラドール州には、月に1度、ボランティアの母親と子どもが高齢者施設を訪問する「サークル・オブ・ライフ・プログラム」がある。高齢者は赤ちゃんと触れ合ったり、物語を聞かせたり、歌ったりといった交流を楽しんでいる。2022年に始まったこのプログラムの発起人は、ポルトガル・コーブセント・フィリップス ライオンズクラブのメンバー、アリー・ボイド。彼女は次男を妊娠中に高齢者医療施設で働いており、その時にアイデアを思い付いた。「入居していた高齢の女性たちは、大きなおなかをした私を見るといつも赤ちゃんの話をしたがりました。自分が子育てをしていた頃のことを思い出すと、施設での日常も明るくなるようでした」
2022年はプログラムを開始するのに最適なタイミングだった。長く続いた新型コロナ感染予防のための制限が緩和され、誰もが再び人とつながることを求めていたからだ。アリーは言う。
「高齢者たちは長い間、面会も入居者同士の交流も制限されて、寂しい思いをしていました。赤ちゃんと触れ合ったりお母さんと会話したりすることは、大きな喜びをもたらすものでした」
アリーの所属クラブはサークル・オブ・ライフ・プログラムのフェイスブックページを運営しており、興味のある保護者はここから参加を申し込むことが出来る。スタートしてまだ数年だが、この取り組みは非常に評判が高く、州内にある他の八つのライオンズクラブでもモデルプログラムが展開されている。
高齢者施設ビショップス・ガーデンズに暮らす95歳のヘレン・ネル・スパレルは、赤ちゃんと一緒に何をするのが好きかと聞かれ、こう答えた。
「赤ちゃんを抱っこしているだけでいいの。それだけで十分にすばらしいことよ」
とはいえ赤ちゃんをひざに乗せて過ごすだけでなく、何十年も前に自分の子どもたちと歌った歌や童謡を口ずさむこともある。「デイジー、デイジー」や「ユー・アー・マイ・サンシャイン」といった懐かしの曲が彼女のお気に入りだと、施設のレクリエーションセラピスト、ステファニー・ネヴィルは言う。
母子の訪問は認知症のある高齢者にも良い影響をもたらす。赤ちゃんと若い母親を見たり、昔親しんだ歌を聞いたりすると、幸せな思い出がよみがえるのだ。入居者の家族からは、赤ちゃんに会った後は普段よりも周囲に意識を向けるようになり、態度も積極的になるようだと、プログラムを称賛する声が寄せられている。育児真っ最中の若い母親にとっても、この取り組みは孤独感を和らげるのに役立っている。訪問先で他のボランティア親子と会って交流し、またかつて育児にいそしんだ経験豊富な先輩の話を聞くことが出来るからだ。
2024.06更新(国際協会配信 文/ジョーン・ケーリー)