取材リポート 地域の人たちと共に
憩いの水辺を美しく

地域の人たちと共に憩いの水辺を美しく

熊本市は、70万人を超える市民が利用する水道水を全て地下水でまかなう「日本一の地下水都市」。市街地には、水の都のシンボルとも言える江津(えづ)湖が豊かな水をたたえている。

江津湖は市内を流れる加勢川によって形成された河川膨張湖。長径2.5km、周囲6km、水面の面積は約50ヘクタール、全体がひょうたんのような形で、くびれの部分を境に北側を上江津湖、南側を下江津湖と呼ぶ。両湖は水前寺江津湖公園として整備され、市街地にありながら貴重な水生生物や野鳥が見られるオアシスとして、市民の憩いの場になっている。

今年度で結成10周年を迎えた肥後東ライオンズクラブ(小杉康太会長/58人)は、この湖で2015年から環境保全活動を続けている。江津湖がある熊本市東区に住まいや職場があるメンバーを中心に構成されたクラブで、結成時から湖で繁殖する外来水草の除去に取り組んできた。

ウォーターレタスやブラジルチドメグサといった外来の水草は、春から夏にかけて湖岸から水面を覆うように猛烈な勢いで繁茂する。増殖した水草は湖の生態系に大きな影響を与えるだけではなく、腐敗して臭気を発生させるなど、地域住民の生活環境にも影響を及ぼす。肥後東ライオンズクラブが年2回実施する水草除去は、固有種の保全と生体系の維持、更には公園の景観保全を目的に行われるもので、メインの奉仕活動となっている。

4月13日朝、下江津湖畔の広木地区に、春の水草除去作業の参加者が集まった。クラブメンバーの他、メンバーが経営する事業所の従業員やその家族、県立熊本工業高校の生徒や教師、保護者、そして毎回参加してくれるスキューバチームのメンバーら250人が、午前8時から一斉に水草除去作業を開始した。

この日は、上流の上江津湖から西風に乗って下江津湖に流れ着き繁殖した外来水草を除去する予定だったが、数日前の強風によって水草の大半は更に下流の加勢川へ流され、作業場所にはほとんど残っていなかった。そのため、公園管理事務所の指示で、スキューバチームが湖岸に一部残っていた水草や流れ着いたゴミを除去し、それ以外の参加者は公園内に張り巡らされた水路を覆っていた水草の除去と、水辺の清掃を行うことになった。

江津湖には1000mのボートコースがあり、レガッタなどのボート競技が盛ん。熊本市内の高校や大学のボート部が練習でレガッタをこぐ姿がよく見られる。しかし夏になると、岸辺に生えるヨシや水草がボートコースまで張り出してレガッタの進行を妨げるようになる。そのため、熊本県ボート協会が定期的に水草を除去していた。2014年結成の肥後東ライオンズクラブは、当初からこの取り組みに着目。ボート協会に協力してヨシや水草を除去し、ボートコース作りを手伝っていた。これがクラブの水草除去活動の始まりだ。その後、コロナ禍をきっかけにボート協会が手を引き、ライオンズ単独の活動になった。

クラブ単独の事業となると、十分な人員が確保出来るかが懸念された。が、この問題はすぐに解決する。江津湖の水辺で生態系を守る活動を行っていた熊本工業高校の化学科が、趣旨に賛同し協力してくれることになったのだ。更に2023年10月には同校の生徒会を中心に熊工肥後東レオクラブ(26人)が結成され、科学部の部員と共に参加するようになった。

水草除去の作業時間は毎回8時から11時までとしているが、用意する8台のごみ収集車はすぐにいっぱいになってしまう。この日も速いペースで作業が進行し、9時30分には作業が終了した。

水草を取り除いた後、きれいになった湖を眺めるのは、なかなか気持ちの良いものだ。しかし過去には、除去しなくていいエリアの植物まで刈り取るという大きな失敗をしたこともあった。それからは公園管理事務所の指導に沿って刈り取るべき水草を事前に周知しているので、こうした間違いは起きていない。

水前寺江津湖公園には、週末ともなると多くの市民が訪れる。水草除去作業の開始時間を8時からにしているのも、利用者に迷惑がかからないように出来るだけ早い時間に終わらせようという配慮だ。毎年2回の活動を続けてきた結果、参加者の作業効率は確実に向上している。

作業の後、水草やゴミが取り除かれてきれいになった水辺で子どもたちが水遊びをしていた。そうした何気ない光景が見られるのも、陰でその状態を維持している人たちがいるからだ。クラブでは、これまで通り地域の人たちを巻き込んで、出来るだけ多くの人たちにこの活動に携わってもらい、この公園、この水辺を誇りに思ってもらう機会を提供し続けることが大事だと話している。

2024.05更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)