取材リポート みんなで楽しく
卓球バレー

みんなで楽しく卓球バレー

3月9日、福井市にある県社会福祉センターの体育館で、福井SOUTHライオンズクラブ(定方修司会長/41人)が主催する第9回福井SOUTHライオンズクラブ杯卓球バレー大会が開かれた。

「卓球バレー」は、その名の通り卓球とバレーボールを組み合わせたような球技。1チーム6人、計12人がネットを挟んで卓球台の周りに置いたいすに座り、板を使ってボールを転がして得点を競う。バレーボールと同じく、3打以内に相手コートへ返さなくてはならない。筋ジストロフィー症児のために日本の養護学校で生まれた競技で、卓球台があればプレー出来、ルールも明快であることから、障がいの程度や有無、年齢を問わず楽しめる生涯スポーツとして国内外で普及しつつある。

この競技はバレーボールのルールを知っていれば飲み込みが早いという程度で、初めての人でも気軽に参加出来る。一方で、チームメンバーと協力しながら、戦略に沿って試合を進めていけるのも大きな魅力。慣れてくると打ち合うボールのスピードが速くなり、熱を帯びた攻防が繰り広げられる。

今大会には県内の卓球バレーチームの他、京都からの参加チームを含む15チームがエントリーし、予選と決勝トーナメントを競い合った。会場には、得点が入るたびに歓声が響きわたった。

今から10年ほど前、障がい者スポーツの指導員をしていたクラブメンバーの堀川秀樹さんの元に、こんな相談が持ち込まれた。
「第73回国民体育大会(2018年/福井しあわせ元気国体)に合わせて開かれる全国障害者スポーツ大会で、オープン競技の一つとして『卓球バレー』を行いたい」

堀川さんにとっても初めて聞く競技名だったが、使命感にかられて2015年に福井県卓球バレー協会を立ち上げ、上部組織の日本卓球バレー連盟の協力を得ながら普及活動を進めていった。

ちょうどその頃、2012年12月に結成されたばかりの福井SOUTHライオンズクラブでは、核となる活動を探していた。堀川さんがクラブに「卓球バレーという競技があるが、クラブで大会を開催してはどうか」と話を持ちかけたのは、まさに絶好のタイミングだった。そして2016年2月13日、1回目のライオンズクラブ杯卓球バレー大会が開かれることになる。クラブが特別支援学校や障がい者就労支援施設、高齢者らが集う自治会などに声をかけると、健常者を含む約100人の参加があった。ほとんどの参加者は卓球バレー初心者だったが、県内初の卓球バレー大会は成功を収めた。

卓球バレーは卓球台を使ってプレーするが、ネットの上ではなく下を転がしてボールを打ち合う。ラケットには「縦横共に300ミリ以内の大きさの板」という規程があり、通常は大きなかまぼこ板のような長方形の木板を使用する。いすから立ち上がったり、腰を浮かしたりするのは反則で、車いすユーザーも健常者と同じ条件でプレー出来る。また、ボールの中には金属球が入っていて常に音を鳴らしながら転がるので、視覚に障がいのある人も活躍することが出来る。

ライオンズクラブ杯卓球バレー大会は、予選リーグは1セット15点、決勝トーナメントは11点先取で勝利とした。予選リーグの上位8チームが決勝トーナメントへと進み、予選で負けたチームがトーナメント方式で対戦するコンソレーション戦も行った。

勝敗はディフェンスの巧拙に左右される、と堀川さんは話す。
「一見、強烈なスマッシュを打つチームが強いというイメージがありますが、実はディフェンスがしっかりしているチームが強いです。相手の攻撃をしっかり受け止め、確実に相手コートに返せるチームは、相手のミスを誘うことが出来るので総じて勝ち進んでいますね」

ネット際に位置するブロッカーや、相手のサーブを受け止めるレシーバーなど6人にはそれぞれ役割があり、6人の気持ちが一つにならないと、相手に隙を突かれてあっという間に失点を重ねてしまう。練習を重ねてチームワークを深め、攻め方と守り方を徹底させているチームが強くなっていくという。

今回、京都から参加した西陣工房は、福井しあわせ元気国体の準優勝チーム。全国でも屈指の強豪で、今回の大会でも1セットも取られることなく優勝を果たした。西陣工房が対戦する台の周りには、その技術の高さに学ぼうと他チームの選手が集まり、大いに刺激を受けていたようだ。

現在、福井県内にはライオンズが単独で行うこの大会の他に、県や福井市など自治体が主催する卓球バレーの大会がある。県卓球バレー協会の会長でもある堀川さんはそれらの大会にも関わっているが、ライオンズクラブが卓球バレーの大会を行う意義を次のように話す。
「自治体主催の大会では、参加チームが勝敗にこだわっているような印象を受けます。それに比べてライオンズの大会は、メンバー手作りの大会ということもあるのか、試合に真剣に臨みながらも、楽しんでプレーしている印象があります。そんな機会を提供出来ることを、メンバー一同誇りに思っています」。

これまでの大会で「最も心に響いた出来事」として、堀川さんはこんな話を聞かせてくれた。
「それまで外に出たがらなかった特別支援学校の児童が、卓球バレーをするようになって進んで外に出るようになったそうです。その子の保護者から感謝の言葉を頂きました」

この大会を毎回楽しみにしてくれている人たちのためにも開催を続け、いずれは全国で活躍する強いチームが育ってほしいと、クラブは期待を込めている。

2024.05更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)