取材リポート
感じる心と考える力を育む
子ども暗唱大会
和歌山県・御坊ライオンズクラブ
#青少年支援
和歌山県中部を流れる日高川沿いにある文化施設・日高川交流センター(日高川町)で2月4日、第11回日高地方子ども暗唱大会が開催された。御坊市を含む日高地方の小中学生に詩歌や文学作品を暗唱してもらい、その技術の高さを競う大会だ。副題に「美しい日本語の再発見へ」とあるように、子どもたちの国語力の向上、情操の健全な発達、コミュニケーション能力の養成を目指し、御坊ライオンズクラブ(土屋保雄会長/47人)が2011年から主催している。
大会に参加する子どもたちは、詩や短歌に古典作品、教科書に掲載された作品や好きな本の文章など、膨大な選択肢の中から一節を選ぶ。それを声に出して何度も練習を繰り返し、本番では大勢の観客の前で披露する。スポーツや音楽以外で自身を表現出来る得がたい機会とあって、繰り返し参加する子も少なくない。
審査を担当するのは日高地方国語教育研究会に所属する教諭3人と、ライオンズクラブのメンバー2人。「つまらず、はっきりとした発音で読む」「適切な音量と速さで読む」「内容を理解し、想像力豊かに読む」ことに加え、個人の部では「メッセージ性があり、感動を共有出来る」点、グループによる群読の部では「群で読む利点を生かし、工夫して感動を伝えようとしている」点で評価される。個人の部は3分、群読の部は5分の時間制限があり、それを超えると段階的に減点となる。
参加者は覚えた文章をただ大きな声で発表するのではなく、内容に沿った唱え方を求められる。この日舞台に立った51人は、それぞれに工夫を凝らして情感豊かな暗唱を披露した。
第1回大会が開かれたのは2012年。クラブ会長として結成45周年の記念事業の内容を思案していた石倉忠明さんが、和歌山市で開かれた教育者向けの講演を聴講したのがきっかけだった。日高地方の中学校の教育委員を務めていた石倉さんは、この時初めて暗唱大会というものがあることを知った。講演の中で和歌山市の暗唱大会の様子が紹介され、清少納言の『枕草子』の一節を声高らかに暗唱する子どもの動画を目にし、「これは日高地方でも絶対にやるべきだ」と直感。45周年記念事業として暗唱大会の開催をクラブに提案した。
大会を実現するには、教育委員会や校長会、この分野の専門家である国語教師の協力が不可欠だ。石倉さんと共に記念事業の準備に関わった池上省吾さんが企画書をまとめ上げ、2人で夏休み中に開かれた日高地方の校長会に出向いたものの、「学校行事は4月の時点で既に決まっており、新たに行事を追加するのは難しい」と退けられた。それでも諦めることなく、顔見知りの校長や教育委員会の委員に、次のような言葉を投げかけて説得を重ねた。
「伝えたい言葉を情熱的に真摯(しんし)に発表し、それを他者に伝え、広げ、つながることはかけがえのない体験となる。ひいては次代を担う豊かな人間性を育む一助となるはずだ」
そんなクラブの熱意はやがて校長会にも伝わり、暗唱大会に全面的に協力してくれることになった。クラブは早速、保護者向けのチラシを作成。日高地方にある26校(当時)の小・中学校に配布した。各学校では、国語教師が中心になって授業に暗唱の指導が取り入れられた。そのかいあって、2012年1月15日に開催された第1回日高地方子ども暗唱大会は200人以上が参加し、大盛況となった。
石倉さんが講演を聴いたのが2011年6月末で、第1回大会が開かれたのは翌12年1月。ほぼ半年間で実現にこぎ着けられたのは、クラブの迅速な行動もさることながら、ライオンズの思いに理解を示した校長会、そして何より教室で指導に当たる国語教師の力添えが大きい。暗唱する作品を前もって授業で子どもたちに教えるという手順を踏むため、現場で指導する教師の労力は相当大きかったはずだ。こうした努力の末に実現した暗唱大会はその後、毎年継続されることとなる。コロナ禍で2年連続で中止になったものの昨年再開し、今回は行動制限のない久しぶりの開催となった。
大会が始まった頃は古典作品の暗唱が多かったが、最近では現代詩などの作品が増えている。過去には、落語の「寿限無」や日本国憲法前文を披露する子もいたという。個人、グループの部の優秀者には、それぞれ優秀賞、奨励賞、ライオンズ賞が贈られ、優秀賞に輝いた参加者は、表彰後にもう一度、暗唱を披露する。
この日は暗唱大会の開会に先立ち、同じ会場で第36回国際平和ポスターコンテスト表彰式が行われた。このコンテストはライオンズクラブ国際協会が全世界で展開しているもので、御坊ライオンズクラブと御坊中央ライオンズクラブは合同で市内21の小学校を対象に実施。寄せられた全521点のポスターは2023年11月29日から5日間にわたり、市内のスーパーマーケットで展示された。今大会の会場内には優秀作品10点が展示され、来場者の目を楽しませていた。
現代の子どもたちにとって、インターネットやSNSはあって当たり前の社会インフラ。扱い慣れている一方、相手の姿が見えない世界の中で、人を傷付けるような言葉や文章を発信してしまう危険が常に伴う。やがて大人になり実社会に出ていく過程で、言葉の大切さに気付く場面があることだろう。そんな時、子どもの頃に言葉を伝える力を磨き、舞台上で披露した経験は、前に踏み出す勇気や支えになるはずだ。クラブでは今後もこの暗唱大会を通じて、自分で考え、行動出来る子どもの育成を支援していく。
2024.03更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)