取材リポート
ピアノフェスティバルで
未来の演奏家と地域に活力
静岡県・奥浜名湖ライオンズクラブ
#青少年支援
2023年12月に60周年を迎えた奥浜名湖ライオンズクラブ(宮本久美子会長/15人)は、記念事業として「奥浜名湖国際ピアノフェスティバル」を開催した。音楽による街づくりを目指す浜松市で活動する同クラブは、これまでコンサートイベントを開くなど、未来の演奏家や音楽を愛する人々を応援して奥浜名湖地域の活性化に貢献してきた。今回は初めての試みとなるコンクール。しかも、これまでと違い「国際」と銘打ち、対象地域を大きく広げての開催となった。
奥浜名湖ライオンズクラブが音楽イベントに関わるようになったのは、10年前の50周年記念事業でピアノコンサートを行ったのが最初。現会長の宮本久美子さんがピアニストであることから、その職能を生かして実施した。このコンサートは地域の子どもたちを招き、高校の音楽コースの生徒や宮本さんを始めとするプロの演奏を聴いてもらうもので、その後もクラブの活動として5回にわたり開かれた。
今期、クラブが60周年を迎える節目に宮本さんが会長に就任。そして、周年事業として宮本会長から次のような提案が出された。
「音楽を楽しんでもらうコンサートも良いが、地域の活性化を考えて浜松市内だけでなく国内外から参加者を募集するコンクールを行い、多くの方に奥浜名湖地域に足を運んでもらえるような催しにしてはどうか」
この提案を聞いたメンバーの多くは、「果たして自分たちに出来るのだろうか」と不安になったという。数々のコンクールで審査員を務めてきた宮本会長がいるので運営面は何とかなりそうだが、「国際」を冠したイベントのイメージが湧かないメンバーがほとんどだった。しかし宮本会長には、近年ヨーロッパの音楽学校で起きていたある変化から、県外、更には国外からの募集は可能だという確信があった。
「コロナ禍以降、ヨーロッパの音楽大学では入学の一次審査が対面からオンライン、つまり動画審査になりました。それにより、それまで受験のための交通費や滞在費を理由に参加を見送っていた人たちも応募しやすくなり、学校は幅広く生徒を集めることが出来、生徒側も可能性が広がって、コロナ禍が落ちついた後も動画審査が続けられています」
一次審査をオンラインで募集すれば、場所を問わずに多くの未来の演奏家を応援することが出来る。そして、本選を地元のホールで開催することにより、遠方から奥浜名湖地域に足を運んでもらえば、長くコロナ禍で活気を失っていた地元を活気付けることも出来る。そんな宮本会長の意図にメンバーも賛同し、60周年記念事業はコンクールをメインとするピアノフェスティバルに決定。メンバーはそれぞれの持てる力を出し合い、遠方からの出場者の宿泊手配や、地元をPRする参加賞の企画、地域企業への協力依頼やフェスティバルの告知など、準備を進めていった。
コンクールの審査は、宮本会長ら演奏家や指導者8人が担当。更に特別審査員として、宮本会長の恩師でオーストリア・ウィーン国立大学の名誉教授を務める世界的なピアニスト、アレクサンダー・イエンナー教授が協力してくれることになった。イエンナー教授は各国の一流オーケストラや指揮者との共演が多く、また数々の国際ピアノコンクールの審査員長を務め、浜松国際ピアノコンクールの審査員としても来日している。浜松を始め日本における音楽の発展に多大な貢献をした人物だ。
国内外で幅広く活躍する審査員の協力が得られたこともあり、今回のコンクールでは成績を競うだけでなく、審査員による評価を出場者本人に還元することを重視した。演奏者にとっては結果も大事だが、第一線で活躍する人からどのような評価を受けたかを知るのは重要なこと。イエンナー教授ら審査員から個別に講評をもらえば、今後の成長の大きな糧となる。
10月に参加募集を開始したところ、123人もの応募者があった。「初開催のコンクールに参加する人はいるのだろうか」と心配していたメンバーは、この人数を見てようやく胸をなで下ろした。コンクールには小学生とアマチュアが対象のAコースと、一般を含む中学生以上のBコースがあり、一次審査の動画審査を通過した59人が、12月2日に開催された本選「奥浜名湖国際ピアノフェスティバル」へ進出した。会場は「音楽の都・浜松」を支える次世代の担い手育成などを目的に2021年にオープンしたサーラ音楽ホール(浜松市浜名区)だ。
出場者の中には他のコンクールで受賞歴がある人も多く、本選では午前中のAコース、午後のBコース共にレベルの高い演奏が披露され、会場全体に終始張り詰めた空気が漂っていた。
Aコース出場者の演奏が終了すると、国内審査員の評価を記載したメッセージが全員に渡され、各カテゴリーの最優秀賞受賞者に奥浜名湖ライオンズクラブ賞メダルが授与された。その後行われたBコース出場者による演奏の動画はウィーンのイエンナー教授の元へ送られ、結果は後日発表。教授直筆の講評が全員に届けられた。プロの演奏家を目指す出場者にとって、イエンナー教授からの講評は宝物となるはずだ。
本選当日は、出場者を含めた来場者全員に心に残った演奏者を投票してもらい、最も多くの支持を得た出場者に聴衆賞を贈呈。投票をした人には抽選で賞品が渡されるなど、出場者にも聴衆にもコンクールをより楽しんでもらえるような仕掛けも用意されていた。
今回のコンクールでは、海外の出場希望者はさまざまな事情で参加出来なかったものの、遠くは沖縄や長崎など県外からの出場者もいた。ピアノを弾く人にとって、国内2大ピアノメーカーが拠点を置く浜松はいわば「聖地」。県外の演奏者には、聖地・浜松の街を一度は訪れてみたいという思いもあったようだ。地元のみならず全国から出場者が集まり、音楽文化の発展に寄与する取り組みになったと宮本会長は振り返る。
「今回のコンクールを通して人と人とのつながりの大切さを感じました。出場者の皆さんはもとより、審査に協力してくださった先生方や、このコンクールへ教え子を推薦してくださった先生方、運営をサポートしてくれた市の関係者やボランティアの方々、本選会場に足を運んでくださった来場者の皆さん、そして深い信頼関係で結ばれたメンバー。音楽の裾野を広げていくには音楽に携わっている人たちだけでなく、地域の人々とつながりを持つことでより大きな発展が遂げられるものと感じました。出場者からは喜びの声が届き、次回開催の問い合わせも寄せられています。今後も、音楽の街のライオンズクラブとして、地域と一体になって音楽の底辺を広げる手助出来たらと思っています」(宮本会長)
2024.02更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)
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