海外の活動
レオライオンズが建設した
インクルーシブな遊び場
アメリカ・テネシー州
7歳のクレイグ・グリフィンには、両側内反足という先天性の疾患がある。この秋、彼が暮らすテネシー州カリービルに、あらゆる子どもが共に遊べるインクルーシブ(※)な遊び場がオープンした。これは、結成わずか2年目のカリービル・ケアズ レオライオンズクラブの主導で建設されたものだ。同クラブは二つの目標を掲げている。それは、地域社会への貢献と、若い専門家のネットワークを築き絆を深める機会を提供すること。ブランドン・ジョンソン会長は言う。
「私たちの地域には、地元に貢献したくても何をすべきかが分からず、手をこまねいている若い専門家たちが大勢いました。だからクラブを結成して、交流の場を作ったのです」
インクルーシブな遊び場を造るというアイデアは、ジョンソン会長がクレイグの父親と同じ職場で働いていることから生まれた。会長は、クレイグが車いすや足の装具を使用し、何度も手術を受け、その度に歩き方を訓練し直さなくてはならないことや、障がいのある子が利用出来る公園は最も近い所でも車で1時間も離れていて、彼が兄のダルトンと一緒に遊べる場所が近所にはないことを知った。クラブの仲間で、障がい児の治療に携わる小児理学療法士のシャイアン・アレン博士も、ジョンソン会長の提案に賛同した。自閉症の子どもが癇癪(かんしゃく)を起こすことがあっても周囲に気兼ねせずに遊べる場所があれば、といった親の声などを聞いていたからだ。クラブではまず住民へのアンケートや調査を実施。その中で、カリービルがあるキャンベル郡では5人に1人に何らかの障がいがあり、これは全国平均の2倍に当たるという地域の特徴が明らかになった。また、郡内には障がいのある退役軍人や、孫を育てている高齢者が多く住んでいることも分かった。更に詳細なニーズを把握するために、直接のインタビューや、ソーシャルメディアでの調査を実施した。
また同クラブは、インクルーシブな遊び場とは何か、何が必要かを、市民と一緒に検討した。それは誰もが利用可能で、子どもたちに身体的、社会的、感情的な発達を促す五感に働きかける環境を提供する。そこでは、さまざまなニーズや興味を満たす遊び体験が生み出される。当然、こうした施設の建設は容易ではない。実現には50万ドル(約7600万円)が必要だった。クラブはライオンズクラブ国際財団(LCIF)に交付金9万ドルを申請、更にチャリティー・コメディー・ショーやチャリティーディナー、街頭での募金活動など、さまざまな資金調達に取り組んだ。携帯電話から寄付出来るシステムも導入した。そしてついに平均年齢30歳の若い専門家集団は、事業資金50万ドル獲得を達成。更に、1.5エーカー(約6000平方メートル)の土地を1ドルで市から借りられることになった。
2022年11月、カリービル・ケアズ レオライオンズクラブは遊び場の起工式を実施した。完成後の施設管理は市が行うことが決まった。新しい遊び場はカラフルで魅力的で、全ての子どもたちのニーズを満たすさまざまな遊具が備わっている。しかし、クラブのプロジェクトはスタートしたばかり。これからハロウィーンやスペシャルオリンピックスのイベントも計画している。そして彼らはここが、地域を団結させる場所であり、障がいのある人々が公平に扱われる拠点にもなると考えている。
この事業には、多くの学びがあった。市民や複数の組織が共通の目標に向かって活動する中で、奉仕の機会があれば人々はそれに参加すること、また小さなコミュニティーが団結すれば、全員にとって大きな利益をもたらすものを生み出せることを実証した。クレイグの母親は今、安全・安心な遊び場で兄弟2人が一緒に遊べるようになったことを心から喜んでいる。
2023.12更新(国際協会配信 文/アンネマリー・マニオン)
※注:
インクルーシブ(inclusive)
【意味】全てを含んだ、包摂的な、包括的な 【対語】exclusive : 排除的な、排他的な
障がいの有無や、年齢、性別、性自認、国籍、宗教などの違いを認め合い、互いを尊重して生きる社会を「インクルーシブ社会」と呼ぶ。バリアフリーの考え方を更に進め、自らの属性によって周囲から排除されることなく、誰もが社会の構成員として支え合い、共に生き生きと暮らせる社会を目指す理念。