取材リポート
養護学校への支援が
地域に広げた思いやりの輪
青森ねぶたライオンズクラブ
#青少年支援
青森県のほぼ中央部、津軽平野の東端に位置する青森市浪岡町は、リンゴ栽培に適した環境に恵まれて生産量が多く、日本一のリンゴ王国・青森を支えている。そんな土地柄から、町の玄関口であるJR浪岡駅の目の前には、10種類48本が植栽された小さなりんご園地がある。
9月19日、この青森市浪岡交流センター「あぴねす」のりんご園地で、県立浪岡養護学校中学部の生徒がリンゴの収穫を体験した。これは、青森ねぶたライオンズクラブ(小倉尚裕会長/35人)が支援する同校の体験学習の一環で、5月の人工授粉、7月のリンゴへの絵付けに続いて行われた授業だ。
バリアフリー対応の園地では、歩道からリンゴの木の下へ車いすに乗ったままで行くことが出来る。もぎ取り開始の合図があるやいなや、生徒たちは7月の授業で絵付け用シールを貼ったリンゴの木へと走り寄った。今年の夏は例年に比べて朝晩の寒暖差が小さかったため色付きが悪く、色の薄いものは甘さも控えめだという。生徒たちは絵付けをしたリンゴの他にも、赤く色付いたものを探してはもぎ取っていった。
収穫したリンゴを試食した後は、ライオンズのメンバーと共に恒例の清掃活動。浪岡駅の駐輪場周辺でゴミ拾いを行った。この日参加したのは中学部の生徒15人。翌日には小学部と高等部の児童・生徒が訪れ、リンゴ収穫と清掃活動を行った。
ライオンズによる体験学習の支援が始まったのは2020年。結成20周年を迎えた青森ねぶたライオンズクラブが、浪岡養護学校に顔認証センサー機器2台を寄贈したことがきっかけだ。当時、浪岡養護学校のコミュニティ・スクール(保護者や地域住民が学校の運営に参画する仕組み)委員長を務めていた小倉会長は、あぴねすの館長でもある。養護学校への支援事業を行ったのとちょうど同じ頃、あぴねすのりんご園地で収穫したリンゴの用途が話題に上った。市所有の園地で採れたリンゴは販売が出来ないため、どう活用すべきかという話だった。この時、小倉会長の頭に浮かんだのが養護学校のこと。浪岡養護学校では8年前から学校行事でこのりんご園地を訪れており、もぎ取った分を持ち帰ってもらっていた。そこで、あぴねすのリンゴをジュースに加工し、学校で役立ててもらおうと考えたのだ。
市との話し合いを経て、青森ねぶたライオンズクラブがジュース100本分の加工料を負担することで、養護学校へ提供する見通しが立った。またこれを機に、クラブはりんご園地での体験学習を支援することにした。この話を養護学校へ伝えると「お礼に駅周辺の清掃活動を行います」と、意外な提案を持ちかけられた。こうして、クラブによるりんご園地での体験学習支援と清掃活動が始まったのだが、この話には続きがある。
養護学校の子どもたちが懸命にゴミを拾う姿は、駅の利用者や駅前で客待ちをするタクシー運転手たちの目に留まっていた。すると、タクシー運転手の意識に変化が現れた。それまでたばこの灰を地面に落としていた運転手が携帯用灰皿を利用するようになり、更に、ゴミを捨てる通行人を見かけると「ここは養護学校の生徒がゴミを拾う場所だ」と注意するようになったのだ。こうした呼びかけも影響したのか、周辺の住民もゴミを拾うようになった。以前は一度の清掃活動で大きなごみ袋で5袋分も集まっていたが、回を重ねるたびにその量が減少。駅前で空き缶やペットボトルなどのゴミを見かけることはほとんどなくなった。
「リンゴ収穫の後だけではなく、人工授粉や絵付けの時にも清掃活動を行っていたので、タクシー運転手の目に付いたのだと思います。彼らのおかげもあって地域の人たちに奉仕の輪が広がり、活動により一層厚みが生まれました」(小倉会長)
青森ねぶたライオンズクラブのこの取り組みを、所属する332-A地区(青森県)はライオンズクラブ国際協会が募集した2022-23年度「思いやりは大切なこと」奉仕アワードにエントリー。地域社会にプラスの影響を与える創意工夫を凝らした事業として、世界20の受賞クラブの一つに選ばれた。
ライオンズの支援が始まってから、養護学校の体験学習には人工授粉と絵付けが加わり、りんご園地へ足を運ぶ回数が年3回に増えたのだが、これにより新たな問題が浮上した。車いす利用者の移動に利用する福祉車両は1台につき往復1万5000円の費用がかかり、しかも1回の外出に2台が必要になる。学校ではこの費用を捻出することが難しい状況にあった。
これを知ったクラブは、今年度から特別委員会を立ち上げて予算を確保。交通費支援も継続して行っていくことにした。
毎年11月、浪岡駅直結の公共スペースで浪岡養護学校作品展が1週間にわたって開催される。クラブではこの催しを「インターンシップとして働く体験をする場」と捉え、希望する子どもたちに清掃や受け付けの業務などを体験してもらうプログラムを実施。今年からその際の交通費を含めた財政支援を開始した。クラブが養護学校の子どもたちにさまざまな機会を提供する理由を、小倉会長はこう説明する。
「養護学校の生徒たちは普段、さまざまな形で奉仕をしてもらう機会が多い分、清掃活動で『ゴミが減ったね』などと評価されることが、とてもうれしいようです。子どもたちの口から『自分たちは地域に貢献出来ている』という言葉を聞いた時には、この事業をやって良かったと思いました」
ニーズに寄り添ったクラブの活動は、これからも地域に温かな思いやりの連鎖を生んでいくことだろう。
2023.11更新(取材・動画/砂山幹博 写真/田中勝明)