取材リポート 本格的な水泳大会で
子どもたちに体験の機会を

本格的な水泳大会で子どもたちに体験の機会を

広島市には、水泳を習っている子どもたちが楽しみにしている水泳大会がある。毎年7月の最終日曜日に、広島市東区にあるひろしんビッグウェーブ(広島市総合屋内プール)で開かれるライオンズカップ水泳競技大会だ。広島市水泳連盟の協力の下、広島中央ライオンズクラブ(小野裕記会長/42人)が主催するもので、今回で25回目となる。

子どもたちに喜ばれる理由は、スイミングクラブに所属する小学校1年生から中学校3年生までの子どもであれば、誰でもエントリーが出来るから。気軽に出られる大会であるにもかかわらず、会場は1994年にアジア競技大会のメイン会場となった本格的な50mプール。しかも水泳連盟の記録員が正式にタイムを計測するので、結果は公式記録として認められる。

広島では7月半ばから猛暑日が続き、大会が開かれた7月30日も日中の気温は35度を超えた。屋外ではしきりに汗をふく人や日傘を差して歩く人の姿が目立つ中、クラブは例年通り大会会場の駐車場に献血車を配置し、メンバーが献血の呼びかけも行った。

夏休みに入ったこの時期は、水泳の公式記録大会が集中する。こうした大会には、スイミングクラブの中でも成績上位の子どもたちが選ばれて出場する。水泳が好きで習い始めたものの、成績が振るわない子や、低学年の子どもたちはなかなか大会に出ることが出来ない。そんな状況を憂いた水泳連盟から「成績上位者でなくとも参加出来る大会を行えないだろうか」と、広島中央ライオンズクラブに相談が持ちかけられたのが、27年前のこと。

「小学校1年生が出られる大会というのは、あまり例がない」。メンバーは自分たちのクラブが意義ある競技大会を継続してきたことに胸を張る。

開始当初は記録が公式に認定される大会ではなかったが、次第に出場者数が増え、3年目からは水泳連盟公認の公式記録大会となった。以前は県内全域から参加を募り、700人が出場する規模にまで膨れ上がった時期もあったが、近年は広島市内の小中学生500人前後が参加する大会となっている。

大会当日、会場の準備を終えて競技が始まると、ライオンズのメンバーはプールサイドに陣取って選手の応援に回る。200m自由形男子・女子、200m個人メドレー男子・女子など、競技が終了するごとにプールサイドで行われる表彰式で、クラブが用意した金、銀、銅のメダルを選手の首にかけるのは、メンバーの役目だ。

第4回大会からは、大会新記録を出した選手に表彰状を贈っている。表彰状の名前書きを担当するメンバーは「自分が書いた選手の名前はよく覚えていて、その後、大きな大会で活躍しているのを見ると感慨深いものがあります」と話していた。最近は競技レベルが上がり新記録が出にくくなっているが、今大会では四つの記録が更新された。

クラブが結成50周年を迎えた2014年には、記念大会として開催。通常の競技の他に、2004年アテネ五輪200mバタフライ銀メダリストの山本貴司さんと、12年ロンドン五輪100m背泳ぎ銅メダリストの寺川綾さんを招き、子どもたちとの交流の機会を設けた。山本さんの妻で競泳元五輪選手の千葉すずさんも飛び入りで参加。山本さんは模範水泳を披露し、子どもたちに水泳の楽しさを伝えてくれた。

過去にこの大会に出場した選手の中からは、五輪メダリストも出ている。広島県庄原市出身で、2016年リオデジャネイロ五輪200m平泳ぎ金メダリストの金藤(かねとう)理絵さんだ。子どもたちの成長を願って長年大会を続けてきたクラブにとって、大きな喜びとなった。

大会が出場者500人を超える規模になって保護者など大勢の人が集まるようになると、クラブは会場で献血と骨髄ドナー登録の呼びかけも始めた。年に2回行っている献血のうち1回を水泳大会に合わせて行うことにしたのだ。当初はクラブのねらい通り献血者数が増加したものの、近年の猛暑による影響は避けられないようだ。赤十字社によると、気温が上昇すると人の出足が悪くなるだけではなく、献血希望者の体調不良で献血が出来ないケースが増えるという。猛暑日のこの日もなかなか人が集まらず、メンバーの呼びかけもむなしく苦戦が続いた。

苦戦と言えば、大会の出場者数にも異変が起きている。2020年の大会はコロナ禍で開催を見送り翌年から再開したが、それまで500人前後で推移してきた出場者数が昨年は約350人、今回は約300人と急激に落ち込んだ。水泳連盟では競技の人気が落ちたわけではなく、出場者が減った理由は分からないとしている。ただ、1週間前に市内全小学校の大会が、前日には全中学校の大会が開かれていたことから、クラブでは他の大会との兼ね合いもあるのではないかと推測している。出場者数の減少については、今後の動向を見守って対処していきたいと、クラブ幹事の増田耕士さんは話す。

「『昔、ライオンズカップに出ましたよ』という声はよく耳にします。それだけでも十分やってきた価値を感じますし、この大会がきっかけになって選手が良い記録を出してくれば、言うことはありません」(増田幹事)

クラブはこれからも、観客やライオンズが見守る中、出来るだけ多くの子どもに本格的な大会を経験してほしいと考えている。会場に近い市立大芝小学校の吹奏楽部を開会式に招いてファンファーレを演奏してもらうのも、子どもたちに機会を与えたいという思いがあるからだ。

「気軽に参加出来る大会」ではあるものの、そこには真剣なまなざしで競技に挑む子どもたちの姿があった。

2023.09更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)