取材リポート ひとり親家庭のニーズに
応えるフードパントリー

ひとり親家庭のニーズに応えるフードパントリー

富山東ライオンズクラブ(大山正人会長/43人)は年に2回、ひとり親家庭支援を目的としたフードパントリーを開催している。支援を必要とする人に、食料品や生活用品などを無料で配布する活動だ。2019年からクラブ単独で行ってきたが、今年度2回目となる4月23日には、同クラブを含む334-D地区1リジョン1ゾーン内の7クラブ(富山、富山みなと、富山雷鳥、富山南、富山平成、富山高志、富山東)の合同事業として実施した。

会場の清水町地区体育館は、統合によって閉校した小学校の体育館だった施設。広い館内に配置された机の上には食料品や生活雑貨が整然と並び、受け付けを済ませた親子はカートを押しながら品物を一つひとつ確かめ、箱に入れていく。子どもが途中で飽きてしまってもいいように、会場にはスーパーボールすくい、輪投げなどのゲームコーナーや、綿あめ、おでんの屋台ブースを設けるなど、親子で楽しめる場も設けた。会場設営や来場者への応対には、7クラブのメンバー51人と、富山国際大学子ども育成学部の学生ら10人で当たった。13時から15時までの開催時間内に、事前登録した141家族が来場し、会場は大盛況となった。

4年前、この事業に取り組もうとクラブに提案したのは、メンバーの高田重信さん。今年度、ゾーンのまとめ役であるゾーン・チェアパーソンを務めている高田さんは、経済的に困窮する家庭に対する支援に関心を寄せていた。
「ひとり親家庭支援を行うNPO法人の活動について話を聞き、そうした家庭では食料など物質的な支援を必要とするケースが多いだけでなく、親子のコミュニケーションが不足しがちで、一緒にイベント等に参加する機会も少ないことを知りました。そこで、ひとり親家庭のためにライオンズクラブで協力出来ることはないかと考えたんです」

そして、富山東ライオンズクラブはそのNPO法人と手を取り合い、食品の配布を通じた経済的支援と青少年育成の支援を開始。試行錯誤を繰り返して回を重ねるごとに内容を充実させ、富山東ライオンズクラブが単独で開催出来るまでになった。支援対象となるひとり親家庭への告知は、公益財団法人富山県母子寡婦福祉連合会を通じて行っている。来場希望者にはメールアドレスなど必要な情報を登録してもらい、事前アンケートへの回答を依頼。このアンケートが、フードパントリーの品ぞろえに役立っている。

始めたばかりの頃は、ライオンズ・メンバーや、メンバーの知り合いの企業に頼んで食料品を確保し、不足分を購入して補っていたが、残ってしまう品物があった。また、バザーの要領でクラブ・メンバーが持ち寄った子ども用衣類なども用意したが、人気がなく引き取り手がいなかった。こうした経験を踏まえて、あらかじめ利用者のニーズを探ることにしたのだ。事前アンケートの結果、缶詰や米といった保存が効く食品の他、キッチンペーパーやティッシュペーパーなどの消耗品が喜ばれると分かった。現在は、責任の所在を明らかにするために品物の寄付は受け付けておらず、これまでの傾向とアンケート結果を踏まえてニーズに合った品物を購入し配布している。

とはいえ、クラブの事業予算は限られるので、アンケートの回答にあった品物を全て用意出来るわけではない。そこで少しでも多くの要望に応えるため、地域の企業や団体に出資を依頼する他、この事業に特化した期間1年の「協力会員」を募って1口5000円の協力金を拠出してもらい、品物の購入費用に充てている。趣旨に賛同する協力会員企業は現在14社で、回を重ねるごとに増えている。

「開催の都度出資していただく協賛企業とは別に、『協力会員』という枠組みを設けることで、より多くの人や団体に深い関わりを持っていただけると考えました。協力会員の中には、フードパントリー会場に足を運んでくださる方もいます。中には我々の取り組みを目にして賛同し、クラブに入会した人もいます」(大山会長)

初めて7クラブ合同事業として実施した今回は、各クラブから協賛金を出してもらい、当日参加したメンバーが品出しや荷運び、駐車場での交通整理などを担当。富山国際大学の学生ボランティアによる若い力の助けもあって、富山東ライオンズクラブが単独で実施していた時の課題だった人手不足が解消出来た。また今回は、地元信用金庫が用意したひとり親向けの金融商品を紹介するブースを設置。ただ品物を配って終わるのではなく、生活状況を改善するために資金面の相談も出来るようにした。

品物を選び終えた来場者には事後アンケートの用紙を渡して、「次回あったらうれしい」品物を書き出してもらう。ここまで徹底して調査を行い、ひとり親家庭のニーズを探る努力をするのには理由がある。

「一番大きな理由はコロナ禍の影響です。ひとり親家庭の経済的困窮が一層深刻化したのに加え、人と会うことが制限されたために『自分だけが孤立してつらい思いをしている』と感じていた母親が多かったように思います。このフードパントリーに来場する時も、警戒心からか見るからに暗い表情の方も見受けられます。でも、会場では来場者同士で会話が弾む様子も見られ、皆さん明るい表情で帰っていかれます。だから、ここには安心して来られるし、自分が必要とするものがある、と思ってもらえる場にしたいのです」(高田ゾーン・チェアパーソン)

初回は65家族の来場でスタートしたフードパントリーは、今では毎回、150家族が来場する場となった。リピーターも多い。前回に続いて来場した子どもから「いつもありがとう」と声をかけられた、というメンバーは、「地域のためになっていると、やりがいを感じる」と話していた。今後も協賛企業や協力会員を増やし、ライオンズの奉仕活動を肌で感じてもらいたいと言う大山会長は、この活動がクラブの仲間を増やすことにもつながればと期待している。

「ライオンズクラブに興味を持ってくださった協力会員には、同じクラブの一員となって一緒にこの事業に取り組んでもらえるようにしたい。そして、我々の事業に参加した子どもたちが大人になった時に、ライオンズに興味を持ってもらえる、そんな循環を作っていくのが私の願いです」(大山会長)

2023.06更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)