取材リポート 走ることで支援する
介助犬の育成・普及

走ることで支援する介助犬の育成・普及

「介助犬」をご存じだろうか。視覚に障がいがある人を安全に誘導する盲導犬や、耳の不自由な人に必要な情報を知らせる聴導犬と同じく、障がいのある人のために働くよう訓練された補助犬の一種で、手や足に障がいのある人の日常生活を手助けする犬だ。特別な訓練を受けて身体障害者補助犬法に基づく認定を受けた犬が、介助犬として活動する。

介助犬が担う役割は「落とした物を拾う」「指示した物を持ってくる」「緊急連絡手段の確保」「ドアの開閉」「靴や衣服の脱衣補助」「起立・歩行介助」などで、使用者の動作をサポートする。介助犬と暮らすことで、使用者には「一人で外出する不安が軽減された」「(障害者を家に残して)家族が安心して外出出来るようになった」などの二次的効果も認められ、障がいのある人の自立を支える大切なパートナーとして期待されている。

名古屋栄ライオンズクラブ(小木曽知弘会長/64人)が介助犬に注目したのは10年余り前、結成20周年を迎えようとしていた頃のことだ。節目の年にクラブの顔となる新事業を立ち上げたいと模索していた時、メンバーから介助犬を取り巻く状況に関する情報がもたらされたのがきっかけだった。

マラソンのスタート前に行われた、介助犬の役割を紹介するデモンストレーション

社会福祉法人日本介助犬協会によると、国内で介助犬を必要とする人は約1万5000人に上るが、実働している数は70頭余りと大幅に不足している。介助犬の育成にかかる費用は1頭につき約250万円とされているが、その約9割は寄付や募金に頼っていて、頭数を増やすのは困難な状況にある。

介助犬の候補になった犬は、生後約2カ月で里親ボランティアに預けられ、家庭の中で人に対する信頼感や社会性を身に着ける。1歳になると訓練センターに入所し、約1年にわたりさまざまな訓練を受ける。その最終段階で介助犬希望者と共に40日以上の合同訓練を受けた後、使用者とペアで認定試験と審査を受け、それに通過すれば認定を受ける仕組みだ。使用者のニーズによって訓練項目や難易度も異なるため、その内容によっては更に育成費用がかさむ場合もある。

メンバーから情報を得たクラブは、介助犬に関する支援のニーズを把握するため、例会に日本介助犬協会のスタッフと介助犬を招待。前述のような現状の他、愛知県内にわずか3頭しかいないことや、認知度が低いために商業施設などでの同伴拒否が絶えないことなど、多くの課題があることを知った。

そして、介助犬の育成・普及支援を新事業にすることを決めたクラブが打ち出したのが、「チャリティマラソン in 庄内緑地」。2013年に20周年記念事業として第1回を実施し、以来、名古屋市と中日新聞社の後援を得て毎年開催している。

会場の庄内緑地公園は名古屋の定番ジョギングコースの一つで、園内には約2.3kmの周回コースが整備されている。参加費は10kmの部が3500円、3kmの部が3000円で、集まった参加費から大会運営費を除いた額が日本介助犬協会に寄付され、介助犬育成のために活用される。過去7回の大会には延べ3493人の市民ランナーが参加し、寄付額は累計800万円に上っている。

給水の準備をするライオンズ・メンバーとボランティア

2020年からの3年間は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となり、今年は4年ぶりに第8回となる大会が開催された。当日の4月16日は晴天に恵まれ、絶好のマラソン日和。スタート前には介助犬のデモンストレーションが行われ、車いすに乗った使用者が落とした鍵を、介助犬が口を使って拾い、差し出す様子などが披露された。介助犬の賢さを目の当たりにして、その様子をスマートフォンで撮影する人の姿が多く見られ、関心の高さがうかがえた。

クラブ結成30周年に当たる今年の大会は記念事業を兼ねて行われ、チャリティマラソンによる寄付に加え、介助犬の移動などに利用する日本介助犬協会の車両購入を補助する資金も贈呈した。
 

 
マラソンがスタートしたのは午前10時30分。来賓として出席した河村たかし名古屋市長の合図で、10kmの部の参加者が一斉に駆け出した。その5分後にスタートする3kmの部の参加者の中には、名古屋栄ライオンズクラブの小木曽会長の姿もあった。

走り終えた小木曽会長に、チャリティマラソンに参加する意義についてうかがった。
「ただお金を渡すという寄付と違って、チャリティマラソン出場はチャレンジでもあります。事前に走る練習もするでしょうし、当日の目標タイムを設定するなどそれぞれにとってのハードルがあります。それをクリアして成果を得て、更には介助犬育成を通じて障がいのある人への支援にもなりますから、参加者の皆さんの達成感は格別なものがあると思います」

各部門で男女別に1位から3位を表彰。豪華景品が当たる抽選会も行われた

クラブの奉仕活動に広く市民を巻き込むには、このチャリティマラソンのように、興味のある分野で自ら主役となって参加してもらえるイベントが有効だと小木曽会長は話す。

今回の出場者は421人。その中には、趣旨に賛同した企業からCSR(企業の社会的責任)の一環として参加した人や、走るだけでなく進んで大会運営に協力してくれる人もいた。クラブが掲げる介助犬の育成・普及というメッセージは、着実に市民に届いているという印象を受けた。

とはいえ、チャリティマラソン開始から10年が経った今も介助犬に対する認知は十分とは言えず、実働する介助犬もまだまだ足りない。名古屋栄ライオンズクラブではこの大会の継続はもちろんのこと、機会あるごとに介助犬の必要性を訴えていこうと考えている。

2023.05更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)