取材リポート 身近にある薬物の危険を
正しく理解してほしい

身近にある薬物の危険を正しく理解してほしい

横浜旭ライオンズクラブ(吉田正利会長/31人)は、横浜市旭区内にある十数校の小中学校を対象に「薬物乱用防止教室」を行っている。クラブが主要事業と位置付ける活動で、2022年12月9日には横浜市立南本宿小学校で開催した。この教室の目的は、覚醒剤や大麻といった違法薬物の他、本来とは異なる目的で医薬品を乱用する危険性などについて、子どもたちに正しい知識を身に着けてもらうこと。大半の子どもたちにとって、ニュースなどで報じられる薬物乱用事件は自分とは無縁の話だが、実は身近な所に危険が潜んでいる事実を知り、自らの問題として考えてほしいと期待している。

全国各地のライオンズクラブの多くが、青少年健全育成の一環として地域の小中学校で薬物乱用防止教室を開催。講師を務めるのは、ライオンズと公益財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターが共同で主催し、内閣府・厚生労働省・警察庁・文部科学省が後援する「薬物乱用防止教育認定講師養成講座」を受講し、認定講師の資格を取得したライオンズ・メンバーだ。

横浜旭ライオンズクラブが薬物乱用防止教室を始めたのは2010年。2009-10年度に同クラブの小笠原政憲さんが330-B地区(神奈川県・山梨県)青少年育成・薬物乱用防止委員会の副委員長に就任し、薬物乱用防止教育の重要性を強く認識したことが発端になった。先行して取り組んでいた横須賀北ライオンズクラブの勧めもあり、小笠原さんは自クラブでの実施を提案。ちょうど著名人による薬物乱用事件が相次いだ時期で、当時の松島信之会長が積極的だったこともあり、メンバーの一人がボランティア活動で関わっていた南本宿小学校で薬物乱用防止教室を開催することになった。

横浜旭ライオンズクラブによる教室は、児童・生徒がグループ討議と発表を行うのが特徴だ。開始した当初の教室は、薬物乱用防止の啓発動画と、認定講師のメンバーによる説明を主体とする内容だった。子どもたちはじっと聞いてはいるものの、質問があるわけでもなく、あまり反応を感じられなかった。どこまで理解をしているのか、効果の程を図りかねていたところ、あるメンバーから「グループ・ミーティングで、子どもたち自身の言葉で話し合ってもらってはどうか」というアイデアが出て、取り入れることにした。グループに分かれて課題テーマについて話し合う時間を設けると、教室に活気が生まれた。

「もし薬物の使用を誘われたら何と答えるか」といった具体的な問いについて、クラスメートと意見を交換することで、子どもたちは他人事ではなく自分の問題として考えるようになった。また、グループの意見発表を通して、子どもたちがどう理解したかがその場で分かり、手応えを感じられるようになった。

発表者には、全員で拍手をして褒めたたえるのがルール。もし、発表内容が不十分であったり、賛同出来ないような内容であったりした場合は、講師メンバーは発表者を傷付けないように配慮しながら指摘をする。また、近親者に薬物乱用の当事者がいるなど、現実に困難な問題を抱える子がクラス内にいる可能性もあるので、慎重に言葉を選ぶ必要がある。問題に直面したら一人で抱え込まずに、学校や医療機関、警察に相談して助けを求めることが重要だと、丁寧に伝えるようにしている。

「小学生には難しいかもしれませんが、薬物経験者をただ『悪い人』と捉えるのではなく、薬物の危険性を正しく理解して自分がどう対処すべきかを判断出来るようになってほしいです。それが、自分を大切にすること、家族や友人など周囲の人を大切にすることにもつながるはずです。45分間と短い講習ですが、子どもたちに配布する小冊子を通して家族にも伝えてもらえば、薬物乱用の危険性に対する認識を地域にも広めることが出来ると期待しています」(小笠原さん)

薬物乱用の事件が報道されるたびに、クラブはこの活動の必要性を再認識する。これまで継続してきて、小中学校の校長や養護教諭、PTAの他、薬剤師、警察などが活動に理解を示し、協力してくれることが大きな励みになっている。毎年4月頃に旭区内全ての小中学校の校長宛に教室の案内を一斉送付するが、こうした協力者の後押しもあり、開催を希望する学校は増加傾向にある。中には、過去に実施した学校の校長や養護教諭の転任先から依頼が入ったり、校長会や養護教諭の交流会で話題に上ったのを機に教室開催につながったこともあった。

横浜旭ライオンズクラブがこれまでに教室を実施した学校は、小学校が16校、中学校が7校。毎年実施する学校もあれば、数年に一度の学校もあるが、開催数が増えて苦労するのが認定講師の確保だ。クラス単位で実施するため、クラス数に応じた講師が必要となる。また、実施時期は12月から2月の間に集中するため、多い時には週に3校で開くこともある。それでも、講師を担当するクラブ・メンバーはなんとか時間をやりくりして指導に当たっている。

教室開催の前に打ち合わせをする薬物乱用防止教育認定講師のメンバーたち。この日は6年生の3クラスで教室を開いた

薬物乱用防止教育認定講師の有効期限は3年。その更新のため、横浜旭ライオンズクラブでは毎年何人かのメンバーが養成講座を受講する。2022年11月に330-B地区で行われた養成講座には5人が参加し、クラブの認定講師は13人(12月末時点)となった。中には、PTA活動を通じて横浜旭ライオンズクラブの薬物乱用防止教室を知り、その趣旨に共感して入会、認定講師になったメンバーもいる。吉田会長もその一人で、講師になった当初の気持ちをこう振り返る。
「子どもたちの健全な成長を地域で支えていくために、少しでも力になりたい。その第一歩を踏み出せたと心躍る気持ちでした」

クラブの目下の課題は、薬物乱用防止教室をより広範囲に、より多くの青少年にアピール出来ないか、ということ。子どもたちの活動範囲は成長と共に広がっていく。そこで、対象を薬物事件に巻き込まれる危険性の高い高校生にまで広げられないか、とクラブは考えている。ただ、事業が拡大すればそれだけメンバーの時間的負担も、配布する小冊子などにかかる金額的負担も大きくなる。事業の拡充のため、他クラブや地区の委員会と連携して講師を確保しながら、同時に事業資金獲得の活動にも取り組んでいこうと模索している。

2023.02更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)

●関連情報(外部リンク)
公益財団法人 麻薬・覚せい剤乱用防止センター dapc.or.jp