取材リポート 地域に愛される
美しい河川環境を

地域に愛される美しい河川環境を

大阪府の泉州地域、大阪湾に面する泉佐野と言えば、全国シェアの約4割を占める泉州タオルの製造で名高いモノづくりの町。1994年に関西の空の玄関口、関西国際空港が開港してからは、その対岸に位置する都市として訪日外国人旅行者の受け入れ環境を整え、国際色豊かな都市へと変貌を遂げている。

大阪湾とは反対の山側に目を向けると、大阪府と和歌山県とを隔てる和泉山脈が横たわる。その県境付近を源とする樫井(かしい)川は丘陵地帯を流れ、泉佐野の市街地を横切って大阪湾に注いでいる。全長約24.9km。水量は比較的豊かで、灌漑(かんがい)用の水源に利用されるなど泉佐野のシンボル的な存在だ。だが、20~30年前までは産業用水の流入などによって全国ワースト上位に入る汚い川であった。その後、公共下水道の整備や環境負荷の削減が進み、現在は大幅に水質が改善されている。

この樫井川の美化に多大な貢献をしているのが、泉佐野中央ライオンズクラブ(福井純雄会長/54人)だ。2001年にクラブ結成33周年の記念事業として、樫井川上流の上之郷地区の流域で、両岸に紅梅と白梅450本を植樹。この年度から年に3回の清掃活動を実施し、今年度で継続21年目を迎えた。早春、梅の花の見物に訪れる人は年を追うごとに増え、清掃活動によって美しさを取り戻したその風景からも、「汚い川」というかつてのイメージは払拭(ふっしょく)されつつある。

泉佐野中央ライオンズクラブのこの長年にわたる活動は、大阪府の「アドプト・リバー・プログラム」にのっとって行われたものだ。アドプトとは英語で「養子にする」を意味する「ADOPT」のことで、河川の一定区間を養子に見立て、地域の団体が我が子に注ぐような愛情を持って対象区画の面倒を見て、行政がこれを支援するというものだ。具体的には、団体と行政が互いの役割分担を定めて協定を結び、両者のパートナーシップの下で清掃などの美化活動を進めていく。

元々はアメリカ・テキサス州で1985年に始まったプログラムで、その後、全米、更にカナダやプエルトリコなど周辺諸国へ拡大。日本では1998年に徳島県神山町で初めて導入された。大阪府が導入したのは2001年7月。その頃、地域の開発に伴って河川環境が破壊されていくことに心を痛め、自然を取り戻す活動を模索していた泉佐野中央ライオンズクラブはすぐに参加を表明した。

大阪府との間で結ばれた「アドプト・リバー・上之郷」協定で割り当てられたのは、上之郷地区の川原出橋から長滝井堰(せき)までの両岸、各1kmの区間。このプログラムでは年に3回以上の清掃活動実施が求められ、その他の活動内容については、趣旨が外れてさえいなければ団体側で比較的自由に決められる。泉佐野中央ライオンズクラブがまず考えたのは、「地域住民の皆さんに喜んでもらえる場所にしよう」ということ。そこで、殺風景だった川沿いに紅白の梅を植えることにした。当初は桜も検討されたが、植樹する場所が土手になっているため、斜面に植えるには広い範囲に大きく根を張る桜よりも梅の方が適していると判断した。

植樹をしたことで、クラブは清掃活動に加えて梅の木の維持管理も行うことになったが、木々が育ち、きれいな状態が保たれていれば、ゴミを捨てづらくなるはずだという考えもあった。こうして、清掃とゴミ捨て抑止との両輪を回すクラブの美化活動が始まった。

今年度2回目の清掃活動は11月13日、小雨の降る中で行われた。午前9時に集合して、いつも通り川沿いの下草刈りとゴミ拾いを行ったが、この日はそれに加えて後日間伐する梅の木の選定も行われた。2018年9月、暴風で梅の枝同士が絡み合い、10本以上が根こそぎ倒れてしまったことがあった。関西国際空港の連絡橋に暴風で流されたタンカーが衝突する惨事を引き起こした、平成30年台風21号による被害だ。同様の事態が起こることを未然に防ぎつつ、木の成長を促すために、今期は予算をかけて間伐を行うことにしたのだ。

活動を始めた頃は、水中に冷蔵庫やバイクが捨てられているような状況だったが、毎回少しずつ手をかけていき、川は目に見えてきれいになっている。ひたむきに清掃活動に取り組むメンバーの一人は、「我々が定期的に川の美化活動を行っている姿を見てもらうことで、近隣の住民や通りかかる人の意識もきっと変わるはず」と話していた。

美化活動区間には、泉佐野中央ライオンズクラブのアドプト・リバー・プログラム参加を示すサインボードが設置されている。取り組みに共感した人や組織が別の区間を清掃する動きにつながれば、川全体がよりきれいになっていく、とクラブは期待を寄せる。

クラブが集めたゴミは一カ所にまとめておき、連絡を受けた大阪市が収集する。清掃活動で使用する草刈り機やゴミを拾う火ばさみなどの道具は全て大阪府が用意してくれるので、金銭的な負担は少なくて済む。クラブでは出来るだけ一般参加を募り、一緒に清掃活動を行うことで活動の啓発にも努めている。この日も、クラブの別の奉仕事業のパートナーや、ライオンズ・メンバーの知人2組が参加し、2時間ほど共に汗を流した。

2021年度の年度末に行われたクラブの最終例会では、ここで取れた梅の実で作った梅酒をメンバーらで楽しんだ。今後は、そうした催しを地域の人を巻き込む形で実施出来たらいいと、クラブは活動の新たな展開も構想しているところだ。

現在、梅の木は約360本。この梅並木が市の名所としてより多くの人に認知されれば、市の活性化になり、ライオンズの活動を広く知らしめることにもつながるはずだ。

2023.01更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)