フォーカス 障害のある子に
チアで元気と成長を

障害のある子にチアで元気と成長を

「チアで関西から日本を元気に!」という目標を掲げて、2016年に「チアリーダーズクラブJUMPS(ジャンプス)」を設立した石原由美子さん(46歳)は、年齢や性別、障害の有無を超えてさまざまな特性を持った人たちにチアダンスの指導を行っている。4年前には発達障害や知的障害のある子どもたちを対象にした児童放課後等デイサービス「スマイルジャンプス」を設立。チアの精神を生かして、さまざまな特性を持つ子どもたちに居場所を提供する事業について話を聞いた。




11月5日に開催した発表会「ジャンプス・カーニバル」は今回が16回目になりましたが、最年少4歳のキッズから最高齢84歳の「オトン・オカンチアリーダーズ」、そして今回初めて放課後等デイサービスの子どもたちも参加し、ジャンプス・ファミリーが大集結しました。

29歳でチアリーダーズクラブ・ジャンプスを設立した当初から、老若男女、障害の有無を問わず、チアで生き生きと毎日を過ごしてほしいという願いを持って活動してきました。今回のカーニバルでそれを一つの形に表すことが出来たと思います。

「自分の元気で周りの人を元気付ける」というのが、チアの根幹を成す精神です。私は営業の仕事を通じて、チアの精神が社会にも通用するもの、求められているものだと確信し、それがジャンプスの活動へとつながりました。

私は高校時代までは勉強したり文章を書いたりと机に向かうのが好きな方だったんですが、大学に入ってすぐにチアリーディングに出会い、夢中になりました。卒業後に入社した会社で東京勤務になり、一時はチアから離れましたが、やはり続けたいという思いが強かった。転職して大阪に戻り、同時に社会人アメリカンフットボール・チームの専属チアリーダーになりました。

転職した先はリクルートの大阪支社で、営業職だったのでものすごく忙しかったんです。チアとの両立は大変でしたが、仕事は楽しかったしけっこう成績が良くて、何度か表彰もしていただきました。よく「どうしてそんなに成果が上がるの?」と尋ねられて、自分なりに考えてみたところ、私は常にお客様である中小企業を応援したい、元気になってほしい、というチアリーダーの気持ちで接していたのだと気付きました。だからこそ良い提案が出来て、それによって企業の業績が上がり、私の成績も上がるという関係を作り出せていた。私の強みはチアにあるんだ、と分かりました。

リクリートには6年勤めましたが、4年目にキャリア研修で自分がやりたいことを発表する機会があり、私は「チアで関西を元気にしたい」と言ったんです。すると、同じチームのみんなから「やったらええやん」と言われて、「そっか、やったらええんや」と。それで、初めは副業として、チアリーダーズクラブ・ジャンプスを立ち上げました。

まずは子ども向けのスクールを開き、同時に福祉施設に出向いてチアを披露する活動も始めました。初めて障害者施設の催しでチアを披露した時は、登場した途端に大歓声が沸き、中にはステージに上がって一緒に踊り出す人もいて、さながらダンスホールのような盛り上がりでした。その経験から、チアを通してコミュニケーションが円滑になることを発見し、障害のある方や支援を必要とする方に私なりの方法で貢献出来るんじゃないか、と考えるようになりました。そして、チアリーダースクラブ・ジャンプスとして、教育と福祉、地域貢献の三つの分野でチアを生かした活動に取り組んでいこうと決めたんです。

5年前に始めた発達障害や知的障害のある子どもを対象にした放課後等デイサービス事業は、スクールの運営とは全く勝手が違って、膨大な申請書類を提出しなければなりません。せっかくなら挑戦してみようと、書類は専門家の手を借りずに全て自分で書きました。何度も差し戻されながらやっと認可が下りましたが、福祉事業に携わる大変さと責任の重さを身をもって実感しました。

こうして立ち上げた放課後等デイサービス「スマイルジャンプス」に通ってくる子は、体に重い障害のある子や、特別支援学校に通っている子、学校に行きづらくなったといういわゆるグレーゾーンの子などさまざまです。ここを大事な居場所にしている子、ここなら来られるという子もいて、家庭でも学校でもない第3の居場所として、私たちなりのやり方で寄り添えていると思います。幸い、すばらしいスタッフにも恵まれたので、子どもたちに「こんなすてきな大人がいるんやな」とか、「社会って信頼出来るんやな」と思ってもらえたらいい。

以前、他の事業所の方と情報交換した時、運動療育をやっている方から、「一人ひとり障害の程度が異なるので個別指導でないと難しい」という話を聞きました。でもうちでは、さまざまな特性を持った子が一緒にチアに取り組んでいます。同じ一つの目標に向かってぞれぞれにがんばり、お互いに認め合うという体験が、ここでなら出来る。下半身にまひのある子はポンポンを持つと目がキラキラして、両腕を目いっぱい使って踊ります。自閉症の子が「〇〇ちゃん大好き」と言って、喜んで通ってくるようにもなりました。

私は健常の子にも、障害のある子にも、「チアリーダーの役割は人に元気を与えることだから、まず自分が元気で、笑顔でいようね」と話しています。チアの精神が、日常生活にも浸透していくようになればいいと願っています。

2022.12更新(取材・撮影/河村智子)

いしはら・ゆみこ:1976年、大阪市生まれ。神戸女学院大学卒業。株式会社JUMPS代表取締役。大学でチアリーディングに出会い、卒業後はユニ・チャーム、リクルートに勤務した後、「チアリーダーズクラブJUMPS」を設立。年齢や性別、障害の有無を問わず多くの人にチアを紹介し、17年間でおよそ5000人のチアリーダーを育ててきた。2018年9月には児童放課後等デイサービス「スマイルジャンプス」を立ち上げた。2019年1月、大阪はなみずきライオンズクラブ入会、2021-22年度会長。