取材リポート 大学生による吹奏楽指導が
コロナ禍を乗り越え再開

大学生による吹奏楽指導がコロナ禍を乗り越え再開

新型コロナウイルス感染症対策のため、2020年、21年と2年連続で実施を見送った伊賀北ライオンズクラブ(植田泰永会長/24人)主催の「三重大学吹奏楽団によるレッスンとコンサート」が、3年ぶりに開催された。この事業は、クラブの奉仕エリアである旧阿山郡内の中学校の吹奏楽部へ、国立三重大学(津市)吹奏楽団の大学生を派遣して楽器パート別に指導を行い、その後、合同コンサートを開くというもの。27年前に始まった継続事業だ。

いまだ終わりの見えないコロナ禍の中、今年は学校側と協議していくつかの変更を加え、再開にこぎ着けた。9月23日と10月1日の2度にわたる3中学校合同レッスンの後、10月10日にあやま文化センターさんさんホールで、25回目のコンサートを開いた。

10月1日、合同レッスンが行われた霊峰中学校で、練習場所を確認するライオンズ・メンバー

「自分で演奏したことがない楽器を、的確に教えることは難しい」
これは、吹奏楽部の顧問によくある困りごと。中には、どんなパートの指導もお手のものという教員もいるようだが、そう簡単なことではない。例えば、クラリネットの演奏経験がある顧問の後任に、打楽器を専門とする教員が就き、指導方法が大きく変わって部員たちが困惑する、といったことが起こる。

今から30年近く前、地元中学校の吹奏楽部がそんな問題に直面しているという話を、伊賀北ライオンズクラブのメンバーが耳にした。吹奏楽部に楽器パートごとの指導を受ける機会を提供出来れば、部員たちの技術向上につながり、ひいては地域に喜ばれる事業になる。そう考えたクラブは、問題解決に向けて動き出した。そして、三重大学吹奏楽団が全国大会や東海大会で優秀な成績を収めていると知り、ライオンズ・メンバーが同大学へ出向いて担当教授に協力を仰ぐ。すると、「こちらからもぜひお願いしたい」と快諾され、話はトントン拍子に進んだ。

クラブからの提案は、大学側にとって願ってもない話だった。自らの持つスキルを生かして中学生を指導することは、大学生にとってかけがえのない経験だ。特に教育学部の学生にとっては、近い将来、教壇に立つ自分をイメージしながら実践する機会となる。こうして、旧阿山郡内にある中学校4校(現在は3校)での指導と、大学生と中学生が同じ舞台に上がる合同コンサートが始まった。

コンサートまでの流れはこうだ。4校合同のパート別レッスンを2度行い、合同で演奏する楽曲を中心に大学生から指導を受ける。中学生はそこで教わったことを踏まえて、その後の部活動で練習を重ねる。そしてコンサート当日の午前中にもパートごとに大学生の指導を受け、午後の合同演奏に臨む。会場となるホールの確保や、三重大学がある津市からの送迎は、伊賀北ライオンズクラブが手配。トラックへの楽器の積み込みや運搬などの裏方も担う。

大学生によるパート別レッスンの効果はてきめんだった。中学校の吹奏楽部顧問の指導ではうまく出せなかった音を、同じパートの大学生からコツを教わって出せるようになり、明らかに音の質が変わった生徒もいた。中学校ではこうした変化を高く評価し、継続的な支援に取り組むクラブに大きな期待を寄せている。

伊賀北ライオンズクラブ・青少年健全育成推進委員会の中井洸一委員長は、そんな学校側の期待に応え、地域の青少年により良い環境を提供したいと考えている。

「中学校の吹奏楽部の大会には、中編成の部、小編成の部といった少人数でエントリー出来る部門もありますが、人数がそろわずにそれにも出場出来ないのが、我々が奉仕対象としている中学校です。そもそも舞台に上がる経験が少ない子たちなので、クラブとしてはコンサートでの演奏経験をさせてあげたいという思いが強いのです」

これまでにレッスンを受けた生徒の中から、三重大学に進学して吹奏楽団に入団した例や、卒業後も吹奏楽を続け、教員になってこの地域の中学校に赴任して楽器演奏を教えている例もある。長く続けてきた事業だからこその好循環が生まれているのだ。

そうした有意義な事業が、コロナ禍によって苦境に立たされることになった。各中学校では部活動が制限され、吹奏楽部も練習が出来ない状況が続いた。そんな状態では大学生によるレッスンを受けても効果は望めない上、合同コンサートの開催も難しいと、2年連続で実施が見送られた。クラブでは毎年、三重大学吹奏楽団の協力に対する謝礼の意味を込めて支援金を贈呈していたが、事業を中断しても支援は継続。そうして楽団との関係を維持しながら、中学校から要望があればいつでも動けるよう準備を怠らなかった。

風向きが変わり始めたのは、2022年に入ってから。依然制限はあるものの、部活動は少しずつ再開されていた。そんな中、中学校からクラブへ「生徒たちに生の音を聞かせたいので、大学生が演奏するコンサートだけでも開けないか」という要望が寄せられた。生徒たちはほとんど練習が出来ていないため、大学生と合同で演奏出来るレベルには至っていないという。ならば、大学生が基礎を教えるレッスンも行おうと、これまでとは少し異なる方法でやってみることにした。

こうして2022年度版の事業は、中学生に基礎的な演奏技術を指導する2度のレッスンと、三重大学吹奏楽団によるコンサートを開催。中学生を観客として招待し、大学生が披露する演奏を鑑賞してもらった。

10月10日、あやま文化センターさんさんホールで開かれた三重大学吹奏楽団コンサート(写真提供/伊賀北ライオンズクラブ)

「コロナ禍でまともに部活動が出来なかった生徒のことを考えると気の毒で、歯がゆい思いですが、今年は何とかこういう形で再開出来ました。結果ばかりに目が行きがちですが、我々は中学生たちが音楽に取り組む過程を大事にしたい。吹奏楽を通じた成長を支援出来ることにやりがいを感じています」(中井委員長)

地域の中学校のニーズに応えたこの事業は、大学生たちにとっては「楽しみながら基礎を見直すことが出来る場」となっていて、クラブには感謝の言葉が寄せられる。次回の事業の形がどうなるかはまだ分からないが、以前のような合同コンサートの開催も含め、中学校や三重大学吹奏楽団と足並みをそろえて検討することにしている。

2022.11更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)