取材リポート
市民に慕われる"松戸さん"
地域PRと奉仕活動に活躍中
千葉県・松戸中央ライオンズクラブ
#人道支援
2007年に「ひこにゃん」、10年に「くまモン」が登場して大きな盛り上がりを見せた「ゆるキャラ」ブーム。全国各地の自治体が、地域の名所・名産品などをモチーフにしたご当地キャラクターを生み出した。そんな中、松戸を応援するキャラクターとして世に出たのが、松戸中央ライオンズクラブ(清田修正会長/28人)所属、永遠の49歳の愛すべきおじさん「松戸さん」だ。
松戸市は人口約50万人、江戸川を挟んで東京都葛飾区と接している。都心から10〜20km圏内にあり、市民の4割近くがこの江戸川を越えて都区部へ通勤する。スーツ姿が定番の松戸さんは、そうした会社員をイメージして生まれた。「ゆるキャラ」の名称を考案した漫画家のみうらじゅん氏は、その条件として「郷土愛に満ちあふれた強いメッセージ性がある」「立ち居振る舞いが不安定かつユニークである」「愛すべき、ゆるさ、を持ち合わせている」の三つを挙げる。「ありがとまつどぉ〜」「がんばりまつどぉ〜」が口癖のまじめでお茶目な松戸さんは、これらの条件を兼ね備えたキャラクターだ。
そんな松戸さんには、市を始めとする公的機関からの出動依頼も多く、コロナ前にはイベントなどへの出動が年間80回以上だったほどの多忙ぶり。松戸さんグッズも人気で、市役所の売店に「松戸さんグッズコーナー」が設けられている。
その活躍の場の一つが、松戸中央ライオンズクラブが取り組む献血推進活動だ。JR松戸駅近くにある松戸献血ルームPureでは、毎月第3日曜日が「松戸中央ライオンズクラブ・デー」となっている。この日は午前と午後の2回、献血ルーム近くの商業施設キテミテマツド前の広場にクラブ・メンバーと松戸さんが立ち、道ゆく人に献血への協力を呼びかける。そして、この日献血をした人にはクラブから記念品をプレゼント。缶バッジなどの松戸さんグッズに加え、コロナ禍で売り上げが減った障害者施設の生産品を購入して記念品とし、就労支援にも貢献している。
取材に訪れた9月18日は、西日本に接近していた台風14号の影響で、関東地方でも時折強い雷雨に見舞われた。悪天候のため普段に比べて人出が少なかったものの、松戸さんが広場に姿を現した時には既にファンが待っていて、通りがかりに一緒に記念撮影をする親子連れも相次いだ。大きな顔に思わず手を伸ばして触れようとする子どもに、松戸さんは優しくそっと頬を差し出した。
松戸さんが生まれたのは9年前の2013年12月。松戸中央ライオンズクラブは松戸市の市制施行70周年を記念して「まつど応援キャラクター」のデザインを募集し、全国から617点の作品が寄せられた。クラブ内に設けた「まつど応援ゆるキャラ委員会」による予備選考の後、JR松戸駅前での市民審査(投票)と、クラブ・メンバー全員による審査を実施。最終審査は本郷谷健次市長ら選考委員8人が行い、町づくりへの生かし方や、デザイン・造形面など、さまざまな観点から検討した。その結果選ばれたのが、市内在住の大学生が「働く市民」をイメージして制作・応募した「松戸さん」だった。
実直な松戸さんのキャラクターは、一生懸命に働く松戸市民の姿を連想させる。そんな普通の人を主役とした町づくりを応援していくことがライオンズクラブの活動趣旨に合致していること、そして、市民審査で多くの支持を得たことが選考のポイントになった。クラブはデザインを元に着ぐるみを制作し、翌14年3月、松戸さんは晴れてデビューした。ありきたりの可愛らしさとは一味も二味も違った魅力を持つ松戸さん。当初は「松戸のキャラクターとして認めない」といった冷たい反応もあったという。しかし、次第に味のある良さが伝わったのだろう、やがてファンレターが寄せられるようになった。
「正直、最初はどうなることかと不安もありましたが、今では熱心なファンだけでなく、小さな子どもから大人まで人気があります。クラブの活動でも活躍してくれています」(清田会長)
松戸さんデビューの際、クラブはその後の運営をプロに委ねることも検討した。キャラクター運営には全くの素人だし、そもそもライオンズの奉仕活動になじむのか?という疑問もあった。しかし、他のクラブがやっていないことにチャレンジしたいという思いと、「地域の皆さんに喜ばれること、笑顔になってもらうことが奉仕の目的」との考えから、「松戸さん運営委員会」を設けて独自に運営する道を選んだ。
そんなクラブにとって救世主とも言える存在が現れる。現在、松戸中央ライオンズクラブの事務局員を務める村上由佳さんだ。かつては都内へ通勤する傍ら、県内にあるテーマパークへ通い詰める日々を送っていた村上さん。次第に、地域に根ざした身近なキャラクターに興味を抱くようになった。そして、地元松戸にデビューしたばかりの松戸さんと出会い、その旺盛なサービス精神に魅せられると同時に「なぜ、周りのスタッフの年齢層が高いの?」と驚いたと言う。それまでのテーマパーク通いで得た経験が生かせると確信した村上さんは、松戸さんの活動を手伝わせてほしいとクラブに申し出た。クラブにとっては、まさに「渡りに船」。もともと松戸中央ライオンズクラブは市民に奉仕活動に参加してもらう「サポート会員」の仕組みを設けていて、村上さんにもこれに加わってもらった。以来、村上さんは運営スタッフとして、SNSによる松戸さんの情報発信や衣装作りを含む裏方全般の仕事を担っている。好きこそ物の上手なれというが、季節やイベントに応じて作り上げた衣装は60着以上になるというから驚きだ。
誕生から9年が経ち、松戸さんは市民に慕われ、愛されるキャラクターとしてしっかり定着。松戸さんファンの小学生の中には、学校の授業で紹介された地域を盛り上げるための活動例として、松戸さんのことを知ったという子もいた。コロナの影響で一時は全くなくなったイベントも復活し始め、松戸さんの活躍の場も再び増えてきた。
9月には、JR東日本と常磐線沿線の千葉県柏市、我孫子市、松戸市、茨城県取手市の4市が上野駅で開催した「常磐線産直市」で、松戸名産の梨やあじさいねぎをPR。10月には、松戸中央ライオンズクラブが協賛した地元の公共交通機関、松戸新京成バスの「デジタルスタンプラリー」で、1日乗車券「松戸さんフリーパス」に松戸さんがデザインされるなど、立派にメインキャラクターを務めた。
地域を盛り上げようとがんばる松戸さんとライオンズの今後の活躍に期待し、大きなエールを送りたい。
2022.11更新(取材・動画/河村智子 写真/田中勝明)
<関連情報>*外部リンク
松戸さん公式ツイッター https://twitter.com/matsudosan333
松戸献血ルームPureで献血♪(YouTube) https://youtu.be/lU2t6itcRus
アド松★松戸さんのコスプレ一気見!(YouTube) https://youtu.be/fFvLtD7ZyBw