取材リポート 小学生の認知症サポーター
養成と高齢者疑似体験

小学生の認知症サポーター養成と高齢者疑似体験

手首と足首に重りを装着し、白内障や視野狭窄の人の見え方を体感出来る特殊な眼鏡をかける。こうした装具によって、子どもたちは75歳〜80歳の高齢者の体の不自由さを疑似体験出来るという。杖を片手に歩き出した児童からは「重くて歩きにくい」「よく見えなくて怖い」といった声が上がった。体験を終えた5年生児童の一人は、「おばあちゃんはよく床に落とした物を拾うのが大変と言っているけど、大変さがよく分かった」と話していた。

ふくいピュア ライオンズクラブ(河野永三子会長/31人)は昨年度から、市立順化小学校の5年生を対象に「認知症サポーター養成講座」を開催し、同時にこの「高齢者疑似体験学習」を実施している。今年度は9月13日に行われた。

認知症サポーター養成講座を前に、ライオンズクラブについて児童に説明

「認知症サポーター」の制度は、2005年に厚生労働省の呼びかけで始まった。高齢化の進行に伴い、認知症を患う高齢者も増加している。認知症高齢者の数は2012年に462万人を数え、65歳以上の高齢者の約7人に1人となった。25年にはこれが約5人に1人になると推計されている(内閣府「平成29年版高齢社会白書」)。認知症サポーター制度が出来た背景には、認知症高齢者の増加と、医療・介護の人材不足という深刻な問題がある。認知症に対する正しい知識を身に着け、地域に暮らす当事者やその家族を見守る「サポーター」を養成することで、認知症になっても安心して暮らせる町づくりを進めようというのが、その狙いだ。各自治体が養成に努め、21年現在、全国の認知症サポーターは約1300万人に上っている。

ふくいピュア ライオンズクラブが認知症サポーターに着目したのは、2年ほど前のこと。新型コロナウイルス感染症の影響で通常の活動が出来ない中、当時、青少年指導委員会の委員長を務めていた大家修子さんが、クラブ・メンバーで認知症サポーター講座を受けることを提案。21年2月のクラブ例会に講師を招き、会員全員で受講した。この時、認知症について多くを学ぶと同時に、福井市福祉保健部や福井不死鳥包括支援センターの職員から「小学生にもぜひ受講してほしいが、学校への働きかけが難しい」という話を聞いた。クラブは早速、福井不死鳥包括支援センターの担当地区にある順化小学校の校長に話を持ちかける。そしてその年の7月、小学5年生の総合学習の授業で認知症サポーター養成講座を行うことになった。

クラブからは、講座と同時に高齢者疑似体験学習を行うことを学校に提案した。認知症について理解すると同時に、加齢による体の変化や不自由さを体感することで、子どもたちに高齢者への接し方を考えてほしいという思いがあった。こうして、90分授業の前半は福井不死鳥包括支援センターの職員による講座、後半はライオンズ・メンバー主体で行う体験学習という構成で、初回の授業が行われた。

授業を受けた児童の感想文の中には、「私の祖母も認知症でした。本当に今日、学んだことが起こりました。これからは認知症の人の話を聞いてあげ、優しく接してあげたい」「こんなに不自由で気持ちが不安になることにびっくりした」といった感想があった。保護者からも、「子どもに『 認知症と物忘れは違うんだよ』『認知症の人と話す時は驚かせない、急がせない、心を傷付けないことが大切』と教えてもらい、成長を感じた」という声が寄せられた。

こうした声に、クラブはこの取り組みの意義を確信。学校側の評価も高く、今年もぜひ開催してほしいという希望がクラブに寄せられた。

9月13日午後に行われた「認知症サポーター養成講座・高齢者疑似体験学習」の授業を受けたのは、5年生27人。教室での講座は、包括支援センターの保健師、加藤けいこさんが講師を務め、認知症が起こる仕組みや症状、接し方などを説明。続いて、ふくいピュア ライオンズクラブ・青少年指導委員会の嶋田慶子委員長がクイズを出題し、子どもたちの学びの振り返りを行った。ライオンズクラブからは青少年指導委員会の委員ら7人が参加。ワークショップ用の広い教室へ移動して行われた高齢者疑似体験学習は、準備から進行までライオンズ・メンバーが担当した。

嶋田委員長から手順の説明があった後、児童全員が一人ずつ順番に体験する。まず、ライオンズ・メンバーが児童の体に高齢者疑似体験用セットを装着。重りと眼鏡の他に、ひじとひざを曲げにくくするサポーターや、指先の感覚を鈍らせる軍手を身に着ける。装置を着けた体験者1人に介助者役の児童2人が付き添って、体験がスタート。段差のあるマットレスの上を歩いた先には、封筒を置いた机がある。軍手をはめた手で封筒からトランプのカードを取り出し、その先に並んだカードの中から同じ数字を探す、というのが一連の流れだ。

体験用の眼鏡には白内障の症状を模す黄色いフィルムと、視野を狭くする黒いフィルムが貼られている。足元も手元も見えにくい状態の体験者のために、介助役の児童は声をかけたり、封筒を開けるのを手伝ったりしていた。

体験を終えた児童からは、高齢者疑似体験で気付いたこととして、次のような発表があった。
「僕たちは少しの時間しかやらなかったけど、本当の高齢者は一日中これで生活しているから大変だと思った」
「今日の体験では段差はマットで柔らかかったけど、本当の階段はコンクリートとかだし、一段がもっと高い所もある。町で困っている人を見たら声をかけたり、助けたりしたいと思った」

授業の最後には、認知症サポーター養成活動のシンボルである「ロバ隊長」のマスコットと、講座の修了証を児童全員に配布した。このマスコットは昨年、メンバーが手作りして市福祉保健部に200個を寄贈したもの。子どもたちが講座で学んだことを家族や友人と話し合うきっかけになれば、との願いが込められている。子どもたちは可愛いプレゼントに目を輝かせた。

この日の講師を務めた包括支援センターの加藤さんは、「順化小学校の講座はふくいピュアライオンズクラブさんが働きかけて実現し、主体となって取り組んでおられます。ここまでのサポートをしてくださるところは少ない」と話していた。センターでは通常の講座は複数の職員で担当するが、ライオンズ・メンバーの働きによって、職員一人で対応出来るのでとても助かっているとのこと。その言葉通り、メンバーは授業を前に体験用装具の確認や、手順の打ち合わせなど念入りに準備を行い、本番では子どもたちの動きに細やかに目を配りながら、手際良く体験授業を進めていた。

ふくいピュア ライオンズクラブは1999年3月、県内では初めて、女性会員だけで構成するクラブとして結成された。結成時にクラブ名に込めた思いの通り、奉仕活動に対するピュアな気持ちで地域のニーズに応え続けている。

2022.10更新(取材・動画/河村智子 写真/田中勝明)