取材リポート
平和を願う心に気付く
ライオンズの出前授業
京都紫明ライオンズクラブ
#青少年支援
ライオンズクラブ国際協会の「国際平和ポスター・コンテスト」は1988年に始まって以来、世界中の子どもたちにポスター制作を通じて平和について考える機会を提供している。コンテストは世界各地のクラブがそれぞれの地域で開催し、日本でも毎年8万人以上の子どもたちから作品が寄せられる。京都府を含む335複合地区はこのコンテストが盛んで、京都紫明ライオンズクラブ(秋山洋一郎会長/48人)では2000年から、地域の小学校でコンテストを実施してきた。
更に17年からは、コンテストの参加対象である5、6年生の児童に平和についてより深く考えてもらおうと、「平和授業」の出前も行っている。
クラブは当初、コンテストへの興味を高めるために、子どもたちが描いたポスターをTシャツにプリントして各自に贈るという付加価値を付けた。このアイデアはとても喜ばれたが、「平和」をテーマに描かれた絵はどこか漠然として抽象的なものが多かった。
「平和への思いを込めてポスターを描くという根幹の部分を、子どもたちに伝えきれていなかったのかもしれません」と話すのは、平和授業を開始した時にクラブ幹事を務めていた秋山会長。当時、このコンテストはクラブ・メンバーの間で「Tシャツ事業」と呼ばれていた。
「実施する側が本旨をはき違えていては、伝わるものも伝わらないと危機感を覚えました。平和への思いを持って制作に取り組んでもらうためには、何かを変えなければいけないと思いました」(秋山会長)
こうした背景があって、コンテスト実施校での平和授業がスタートした。
子どもたちがポスターを制作するのは夏休み中。そこで、平和授業は夏休みに入る直前に行うことにした。平和について具体的に考えてもらった上で、制作に取り組んでもらおうというのがクラブの狙いだ。授業を担当するのは、国際平和の問題や世界各地の紛争の現場に詳しい関西NGO協議会の栗田佳典事務局長。栗田さんは平和授業の第1回目から講師を担当している。
今年度も例年通り、小学校3校での実施を計画(うち1校は直前に中止)。その中の1校、7月19日に行われた京都市立元町小学校での平和授業を取材した。同校では昨年、アフリカの少年兵を題材にした授業を行っており、学校側からは今回は別の話題を取り上げてほしいと要望があった。そこで選んだのは、カンボジアの地雷の問題。授業内容は、対象となる小学生の関心事やこれまでの学習状況などを事前にヒアリングして決めている。この日は5年生と6年生のクラスで授業が行われたが、内容は学年によって少しずつ異なっていた。
栗田さんの話の多くは、さまざまな国で見聞きした実体験。出来るだけ身近なエピソードから始め、徐々に本質へとアプローチしていく。例えば、今年はウクライナ関連の話など時事問題も交えて話を進める。一つひとつオーダーメイドで作る授業だが、その基本姿勢は一貫している。
「例えば、地雷の話をする時は誰が埋めたかにまで言及しないと、結局分かったようで分からない話になってしまう。そのため、そうした状況が生じた背景や歴史、現状もしっかり伝えます」(栗田さん)
時間が限られているので、ポイントを絞ってその先を考えてもらえるように、事前準備には余念がない。栗田さんは、難しくなりがちな話を分かりやすく伝えるために内容を練り、具体的なイメージが湧きやすいように写真を豊富に使ったスライドを準備。また、この日は本物と同じ大きさの地雷のレプリカや地雷探知機、除去作業時に身に着けるヘルメットと防護服を用意し、子どもたちの関心を引き付けていた。
平和授業を実施するに当たって最も注意しているのは、一方的な押し付けにならないようにすること。全体を通して、子どもたちが自発的に平和について考えるよう導くことを心がけている。始めたばかりの頃は、学校と講師、ライオンズクラブの3者でこの点を協議しながら台本を用意し、細心の注意を払って伝えるべき内容を精査した。そうした積み重ねを経て、最近ではどんな話題を取り上げても安定してメッセージを伝えられるようになっている。
授業を行った学校の中には、終了後、児童の感想文を集めてクラブに送ってくれるところもある。その文章からは、子どもたちがそれぞれの着眼点で平和について深く考えたことが伝わってくる。以下は、アフリカの子ども兵をテーマにした平和授業を受けた児童3人の感想文の一節。
「アフリカと日本では、いろんなことがちがっていて同じことのほうが少ないと思いました。地形や家もちがったし、子どもを働かせ、しかも軍隊に行くという常識までちがいました。それは周りが生まれたときからそうで、むりやりその考えがしみこまされ、たたきこまれたと思います。自由なことは大事なことだと思いました」
「今、私たちが勉強できているのは当たり前じゃないことを知りました。私が考えたことは、子ども兵や少年兵はいなくならないんじゃないかということです。理由は、世界にはさまざまな考えの人がいて、一つの考えにしようと思ってもけんかになったり争いになったりする。このループが続くと思うからです。今の私たちにはぼきんをしたり現地にいくことはできないけど、このことを知らない人に伝えることは子どもでもできると思いました」
「『気持ちを行動に移す勇気』を持っている人のおかげで、いろいろな人が助けられていることを知りました。人々を笑顔にさせるまでには、きっと実行するための勇気が必要だと思います。そのかべをのりこえられるのは、その人にそうとう強い意志があるからです。私にはそんなに強い意志や興味を持つものがないので、すごいとも、うらやましいとも感じました」
平和を願う気持ちが込められてこその「平和ポスター」。事前に平和授業があるかないかで、作品の仕上がりは全く異なる。平和授業が始まってからは子どもたちが描くテーマがより具体的になり、平和への願いが伝わるポスターが増えてきたと、学校側の評価も高い。コンテストの一環として行われている平和授業だが、単独でこの授業をやってほしいと声がかかるようにもなった。
クラブはコンテスト参加児童へのプリントTシャツの寄贈も継続しているが、5年前に平和授業を始めてからは、クラブ・メンバーの心にも「平和授業こそがこの活動の肝」という意識が芽生えている。
「この授業には、平和の尊さを学んでもらうだけでなく、弱者への支援に取り組む人材を育成するという側面もあります。授業を受けた子どもたちの中から、高い志を持って活動する人間が育ってくれることを期待しています」(秋山会長)
クラブとしては、ゆくゆくはこの平和授業を京都市内の小学校の公式教育プログラムに組み込んでもらうことを目指して、教育委員会へ働きかけていきたいと考えている。
2022.09更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)
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国際平和ポスター・コンテスト(国際協会ウェブサイト)