国際財団
読書の機会を広げる
点字ストーリーブック
アメリカ・ケンタッキー州
5歳のマディは座っている母親の横に何冊かの絵本を置き、彼女の膝の上に乗った。母親が一番上にあった本、『Llama Llama Gram and Grandpa(ラマ・ラマ、おばあちゃんとおじいちゃんのうちへ)』を開いて読み始めると、その声に合わせてマディの小さな指がページの左から右、上から下へと点字をなぞっていく。本には通常の文字の他に点字が付いているのだ。
これは点字ストーリーブックと呼ばれ、目の見える人と視覚障害のある人が一緒に同じ本を読めるように文字と点字で書かれたもの。複数のライオンズクラブが支援しているケンタッキー州ルイビルのアメリカン・プリンティング・ハウス・フォー・ザ・ ブラインド(APH)が2カ月に1回、アメリカ中の約1500人の視覚障害のある子どもたちに無料で発送している。マディの場合は全く見えないわけではないが、眼球運動失行症という遺伝性の病気があり、目を素早く動かして焦点を合わせることが出来ない。しかし点字ストーリーブックのおかげで、親子で読書を楽しめる。マディの家には、APHから届いた点字ストーリーブックが10冊ほどそろっている。
「APHには感謝しています。子ども向けの点字本はほとんどありませんし、あっても高価で買えませんから」
と、母親のクリスティンさん。
APHでは、読み聞かせのスペシャリストが視覚障害のある子どもに合った本を選ぶと、それらをケンタッキー女性矯正施設へ送る。この施設は刑務所内点字プログラムに参加しており、文字を点字に変換する技術を習得した女性受刑者が、本に透明の点字ラベルを貼っていく。この技術は出所後にも大変役に立つのだという。こうして作られる点字ストーリーブックには音声版もあり、APHのウェブサイトから入手出来る。
点字ストーリーブックのプログラムは、視覚障害がある一人の母親が抱いた、晴眼者である自分の子に読み聞かせをしたいという思いから始まった。彼女の子どもには、ドリー・パートン・イマジネーション・ライブラリー(6歳未満の子どもに無料で本を届ける、アメリカやイギリスで人気のプログラム)から毎月本が届いていたが、それらの本を読んであげることが出来なかったのだ。これを知ったAPHは、2011年にドリー・パートン・イマジネーション・ライブラリーなどと協力してプログラムを立ち上げた。以前からAPHを支援していたルイスヴィル・ダウンタウン ライオンズクラブも協力し、翌12年までに200冊の本が発送されたのである。
2022.09更新(文/ジョーン・ケアリー)