取材リポート 野生大麻抜き取りで
薬物乱用防止

野生大麻抜き取りで薬物乱用防止

全国各地のライオンズクラブの多くが取り組む活動に、地域の学校で開催する薬物乱用防止教室がある。子どもたちを薬物の危険から守るのが活動の目的だ。その同じ目的のために、野山で汗を流して取り組むのが、美幌ライオンズクラブ(桐山国夫会長/41人)。クラブは毎年7月、美幌町と協力して野生大麻の抜き取り作業を実施している。

広く「麻」と呼ばれる繊維のうち、夏に重宝されるのは「亜麻(あま/リネン)」だが、日本で古くから用いられてきたのは「大麻 (たいま・おおあさ/ヘンプ) 」。その繊維は衣類や縄、紙などの材料として人々の生活を支え、さまざまな神事にも用いられてきた。その一方で、大麻の花や葉には「テトラヒドロカンナビノール(THC)」という有害な成分が含まれ、脳に作用してやる気の低下、幻覚作用、記憶への影響等を引き起こす。そのため戦後は大麻取締法で厳しく規制され、免許を受けた人以外の栽培や所持は禁止されている。しかし残念なことに、全国の警察による大麻関連事件の検挙者数は5年連続で過去最多を更新。特に20代以下の若年層を中心に拡大しているのが現状だ。

美幌町は人口1万8000人。日本最大のカルデラ湖、屈斜路(くっしゃろ)湖と周囲の山々の雄大な景観が一望出来る美幌峠には、多くの観光客が訪れる

厚生労働省と都道府県は、不正に栽培されたり、自生している大麻やケシを一掃するため、毎年5月から6月にかけて「不正大麻・けし撲滅運動」を展開している。2018年度に全国で除去された大麻の本数は72万6993本、コロナ禍の影響で減少した2021年度にも49万7463本に上った(厚生労働省・平成30年度、令和3年度都道府県別除去状況)。その大半は北海道、青森、岩手で除去されたもので、中でも断トツに多い北海道が全体の9割近くを占める。その背景には、かつて繊維を取るために道内各地で栽培されていた大麻が野生化したという事情がある。

北海道では明治の開拓時代に養蚕と大麻栽培が奨励され、それに続いて亜麻(リネン)の栽培が始まって、道内各地に亜麻工場が設立された。日露戦争や第一次、第二次世界大戦時には、軍服やテント、ロープなどの軍用物資として亜麻や大麻の需要が高まった。オホーツク地方の空の玄関口、女満別空港に近い美幌町でも、1920年から62年まで亜麻工場が操業していた。

野生大麻による薬物乱用を未然に防ぐため、北海道では6月から9月まで「野生大麻・不正けし撲滅運動」を展開して、発見と除去に力を注いでいる。美幌ライオンズクラブの抜き取り作業も、この運動期間中の7月上旬、大麻が花を咲かせる前に実施される。

集合場所に集まった役場職員とライオンズ・メンバー

7月13日午後2時、美幌ライオンズクラブ事務局に近い駐車場に集合したのは、ライオンズ・メンバー16人と美幌町職員7人。ここで町の担当者から説明を受けた後、作業場所へと向かった。今回は中心街から離れた場所にある広々とした草地のへりがその現場で、昨年と同じ場所だ。

厚生労働省が撲滅運動のために配布している資料「大麻・けしの見分け方」には、大麻の特徴が次のように説明されている。春から夏にかけて生育し、成長が早く、大きいものは草丈が3mにもなるが、種子をつけた後は枯れる。葉は細長い柄の先に3〜9枚の小葉が集まって手のひらのような形。花は夏に咲き、雄花と雌花が別々の株につく。

作業場所に到着すると、そこには背丈を超えるほどの雑草が繁茂していて、上部にはその特徴通りの草が葉を広げていた。メンバーと町職員は、草むらに分け入って大麻を抜き取る。中には似たような葉の形をした草もあるが、見間違うことなく手際良く作業を進めていった。高く伸びて目に付きやすいものはもちろんのこと、足元の草むらをかき分けて丈の低い草も見逃さない。抜き取った本数は各自が数え、役場が用意した回収用トラックに積む際に記録。抜き取り場所と本数は、役場から北見保健所に報告されることになっている。

美幌ライオンズクラブは今年度、結成60周年を迎えた。クラブの記録では、野生大麻抜き取り活動は40年前から行われてきた。途中で3年ほど中断した時期もあったが、10年前に再開してからは毎年継続している。役場の担当者によれば、町内で定期的に実施しているのは、保健所の他には美幌ライオンズクラブだけだと言う。

「40年前のメンバーがどういう思いで始めたかは分かりませんが、私たちは今、子どもたちを危険な薬物から守りたいという思いで取り組んでいます」
この活動に込める思いを、桐山会長はそう説明する。

クラブでは4年前、子どもたちに直接、薬物乱用の危険性を伝える活動にも取り組もうと、会員7人が薬物乱用防止認定講師の資格を取得した。新型コロナの感染が広がった影響で学校での講習会はまだ行えずにいるが、今後の状況を見て開催したいと考えている。

桐山会長はまた「町内で野生大麻が生えている場所は10年前に比べて減っていて、長年の成果が目に見える形で現れていることにやりがいを感じる」と話していた。

活動の成果は、今回の作業でも確かに実感出来た。抜き取りを始めて間もなく、メンバーたちは口々に「だいぶ少ないな」「去年はこんなもんじゃなかった。もっと大変だった」と言い合っていた。昨年抜き取った本数は3800本だったのに対して、今年はその3分の1にも満たない1104本。クラブの担当委員長である大原功一さんは、作業を終えて次のように話していた。
「例年に比べて抜き取った本数はだいぶ少なかったのですが、去年この場所で作業した結果が出たのかなと思います」

この日は日中の気温が30度まで上がり、梅雨のない北海道にしては湿度も高め。1時間弱の作業で汗を流したメンバーたちは、冷たい飲み物でのどを潤し、爽快な笑顔で活動を終えた。

2022.08更新(取材・動画/河村智子 写真/田中勝明)