取材リポート 釣って、食べて、笑顔に
忘れられない初夏の一日

釣って、食べて、笑顔に 忘れられない初夏の一日

関越自動車道の高崎インターチェンジから軽井沢方面へ1時間ほど車を走らせ、木漏れ日の下、所どころ幅の狭まる山道を慎重に進むと、次第に視界が開けてきた。わらび平森林公園キャンプ場は標高約1100mの高地にあり、その見晴らしの良さはさしずめ「天空のキャンプ場」といったところ。群馬県内で最も人口が多い高崎市内にあるとは信じられないほど、山深い場所だ。

木々の緑が色濃さを増してきた5月28日、高崎三山ライオンズクラブ(石川道行会長/64人)はこのキャンプ場で恒例の「希望館アウトドア教室」を実施した。高崎市内の児童養護施設・希望館の子どもたちを招いて、釣りやバーベキューを楽しんでもらうこの催しは、コロナ禍による中止を挟んで3年ぶりに開かれた。

アウトドア教室が始まったのは、クラブが結成された翌年の1986年。養護施設の子どもたちがそろって気軽に出かけられる機会は少ないと知り、外に連れ出して楽しんでもらおうと考えたのが始まりだ。クラブには釣り好きが集まる「釣り部会」があり、「釣り堀に連れて行くのがいいだろう」という話になった。以来、実施場所を変えながら今日まで続けられている。

過去には60人近い子どもたちが参加したこともあったが、近年は減少気味で、今回はコロナ禍ということもあって参加人数を絞り、子ども11人と職員8人が参加した。

午前11時からの開会式が終わると、早速釣り池へと移動。メインイベントの一つ、ニジマス釣りが始まった。

釣りに慣れていない子どもたちに、ライオンズ・メンバーが付きっきりで指導したのだが、開始してからしばらく経っても誰も釣れない。開始前には、入れ食いに近い状態になるので、ある程度釣れたら早々に切り上げるという話だった。想定外の事態に、釣り部会のメンバーが釣り池の管理人にかけ合うと、今度は次々に当たりが出始めた。どうやら、原因は用意されていた釣り餌のイクラにあったようだ。 イクラはニジマスの大好物だが、養殖池で育ったニジマスにはイクラに刺した針が透けて見えていたらしい。そこで、養殖場で普段食べている練り餌に変えてもらったところ、面白いように釣れ始めた。

さっきまでとは打って変わり、針を入れた瞬間に釣り竿が弧を描き、糸を引く振動が伝わってくるので、池の周囲のあちこちで子どもたちの歓声が上がるようになった。結局、子どもたちは予定していた時間をいっぱいに使って釣りを楽しんだ。

釣りが終わると、もう一つのメインイベントであるバーベキューの時間だ。釣った魚はキャンプ場に頼んで、串に刺して塩焼きにしてもらう。ライオンズは鉄板で肉や野菜を焼くために炭火をおこし、食事の準備を始めた。中には進んで調理を手伝う子どももいて、食べるだけではなく準備段階からバーベキューを楽しむ様子が見られた。

焼き肉の他には、焼きそばやメンバー夫人お手製の豚汁も提供。最後にお待ちかね、炭火でじっくり塩焼きしたニジマスが運ばれてくると、子どもたちは自分で釣った魚の味をしっかりとかみしめていた。

昼食の後には、クラブ・メンバーの後閑賢二さんがストーリーから作画まで全て手作りした紙芝居が2話披露された。いずれも「みんながんばろう」というメッセージが込められた話。アウトドア教室ではこれまでに5回ほど披露し、毎年喜んでもらっている。

年に1度とはいえ、このアウトドア教室は子どもとライオンズが互いに顔見知りの関係になる機会である。ライオンズのメンバーは年々子どもたちが大きくなっていくのを実感し、 子どもたちの方も1年前に声をかけられたこと、注意されたことをちゃんと覚えている。

「希望館の子どもたちが施設を出て社会人になった時、親になった時に、ライオンズと一緒に釣りやバーベキューをして楽しんだことを思い出し、自分の子どもと過ごす時間を大切にしてもらえたらいいと思います」(石川会長)

最後に、クラブから希望館へ菓子や洗濯洗剤のプレゼントが渡された。大勢の子どもが生活する児童養護施設では、洗濯洗剤の寄贈はとても助かるのだそうだ。食べ切れなかったニジマスの塩焼きも、お土産として持ち帰ってもらった。

この日参加した子どもたちは低学年の子が多かった。以前は高学年や中学生の参加もあり、低学年の子たちの面倒を見る姿が印象的だったと話すメンバーもいた。しかし今回、コロナ禍で3年ぶりの開催となったことから初めて参加する子どもが多く、顔見知り同志の関係が途切れてしまったことが残念でならないという。その上、マスクのせいで顔を見分けるのが難しくなってもいる。とはいえ、もともと集団で遊びに行く機会が少なく、更にコロナ禍で外出しにくい日々が続いた希望館の子どもたちにとって、自然の中で思う存分遊べるこの日の経験はかけがえのないものになったはずだ。

「子どもたちが楽しんでいる姿を見れば自分たちも楽しいし、それが一番」
そんな石川会長の言葉が印象的だった。

2022.07更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)