取材リポート サッカーとパラスポーツで
相手を理解する心を育む

サッカーとパラスポーツで相手を理解する心を育む

2021年8月24日から9月5日までの13日間にわたり、東京2020パラリンピック競技大会が開催された。これを「絶好の機会」と考えたのは、龍野ライオンズクラブ(西川光明会長/61人)。1962年6月に結成された同クラブは、東京でパラリンピックが行われる年度(ライオンズクラブの年度は7月から翌年6月)に晴れて60周年を迎えるからだ。

障害者スポーツの発展に可能性を感じていたクラブが結成60周年記念事業として企画したのは、サッカーのイベント。近隣の市町のサッカーチームに所属する小中学生と、パラアスリートや障害を持った子どもたちが共に楽しめる機会を作るという企画だ。パラリンピック開催で障害者スポーツに世間の関心が高まっている時だったこともあり、クラブは意気込んだ。

記念事業の開催日は、パラリンピック会期中の8月29日と決まった。クラブは各種関連団体や市町へ協力を求めて準備に着手したが、猛威を振るう新型コロナウイルス感染症の拡大により出鼻をくじかれる。兵庫県は8月20日から緊急事態措置を実施したため、周年行事は延期せざるを得なくなった。肩透かしを食った形になったが、解除後に開催しようと様子をうかがうことにした。結局、次の開催予定日の2022年3月12日もまん延防止等重点措置のため延期に。措置が解除された3月21日以降で開催可能な日は、ゴールデンウィーク中の5月3日だけ。クラブはこの日の開催に向けて、新たに始動することになる。

足や腕に切断障害のある人による7人制サッカー、アンプティサッカーの選手と対戦する中学生選手

記念事業にサッカーを選んだのには理由がある。龍野ライオンズクラブの活動エリアである西播磨地域はサッカーが非常に盛んで、プロサッカー選手も数多く輩出している。

「西播磨は、地元のサッカー大会を始めとする各種イベントを通じて、大人と子どもが交流する機会が頻繁にある土地柄です。こうした地域の特性を何かに生かせないかと常々考えていました」
そう話すのは龍野ライオンズクラブの西川会長。しかしコロナ禍になって以降、サッカー大会の多くは中止になり、交流の機会も失われた。

そんな状況なので、西播磨地域の上郡町にあるサッカー場も利用されない日々が続いていた。ここにはJリーグ規格のコートが3面あり、大小さまざまな規模の試合に対応出来る。
「こんなすばらしい競技場で試合をしてみたい」
障害者サッカーチームがそんな要望を持っていることを知った西川会長の脳裏に、60周年記念事業のアイデアがひらめいた。

「本来ならば2020年に終わっているはずの東京五輪の開催が1年遅れ、クラブにとって記念すべき年と重なったのはきっと巡り合わせに違いない。クラブ内でも『周年行事はパラリンピックに関連した内容で検討してはどうか』という意見が出ていました。そこで障害者サッカーに焦点を当てることになりました」(西川会長)

健康増進を目的にイギリスで生まれた「ウォーキングサッカー」に挑戦するライオンズ・メンバー

そこで情報収集のために、たつの市サッカー協会を訪れ、播磨科学公園都市にあるダイセル播磨光都サッカー場の運営者も交えて実現に向けて意見を交換するうち、事業のアイデアは大きく広がった。

「障害の種別ごとの大会や、健常者の少年サッカー大会はそれぞれ個別に開かれているが、これを同日に同じ場所で開催し、交流の機会を設ければ、パラスポーツへの理解も一気に進むはず」
「すばらしい会場があるのだから、障害者のチームは県内全域から集めて大々的に行いたい」

そんなアイデアを詰めていった結果、コロナ禍で実施出来ていなかった「HYOGO PARA FOOTBALL FESTIVAL(兵庫パラ・フットボールフェスティバル)」をベースに、少年サッカー大会やサッカー教室など各種イベントを追加した拡大版を、龍野ライオンズクラブが全面的にサポートする結成60周年記念事業「パラ・フットボールフェスティバル」として開催することとなった。

会場内では子どもたちにさまざまなスポーツを楽しんでもらうと共に、手話や車いすの体験コーナーも設けた

2度の延期を経て迎えた当日の5月3日、小中学生の学年別サッカー大会と障害者サッカーの大会を合わせて五つ実施。その他に、ゲーム感覚で参加出来る各種イベントが行われ、選手や保護者、関係者を合わせ1000人近い人が会場のダイセル播磨光都サッカー場に集った。

障害者サッカーには、七つの障害種別(切断障害、脳性麻痺、精神障害、知的障害、重度障害等、視覚障害、聴覚障害)ごとに競技がある。今回のフェスティバルでは龍野ライオンズクラブの思いを反映して、視覚障害のある選手によるブラインドサッカーの練習風景を間近で見たり、足や腕に切断障害のある人が、松葉杖で身体を支えながらプレイするアンプティサッカーに、障害のない人が体の動きを制限する装具を着けて挑戦したりする機会が設けられた。ライオンズクラブのメンバーもアンプティサッカーにチャレンジ。実際に装具を着けてプレーしたメンバーは、片足で行うサッカーのハードさ、難しさに驚いていた。競技以外でも、車いすの試乗や手話体験など、子どもたちが障害のある人たちへの理解を深める機会が用意された。

また、午後には元サッカー日本代表で、姫路市出身の播戸竜二さんによるサッカー教室も行われ、子どもたちは共にゲームを楽しんだ。

サッカー教室では元日本代表のダイナミックなプレーに間近で接した

「数面のサッカーコートを有する会場で、障害別のサッカー競技と少年サッカーの大会が同時進行。障害のある方と子どもたち、そして私たちライオンズも一緒になって楽しめる機会というのは、これまでありそうでなかったこと。実際にパラアスリートとゲームをすることによって、そのすごさを、身をもって知ってもらうことが出来ました」(西川会長)

ニーズに耳を傾け、人と人をつなぐ架け橋になるのはライオンズクラブが最も得意とするところだ。今回の周年事業での出合いを機に、サッカーを通じて健常者と障害者の垣根を越えた交流が今後ますます盛んになってくれることをクラブは願っている。

2022.06更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)