取材リポート 手作りフェスタで
子どもたちに体験の場を

手作りフェスタで子どもたちに体験の場を

数え年で7年に一度、絶対秘仏である御本尊と同じ姿をした前立本尊を公開する善光寺(長野市)の御開帳が、4月3日から6月29日の期間で行われている。本来は2021年に開催予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響で延期に。この春、満を持しての開催となった。

御開帳を目当てに長野市を訪れる観光客の多くが歩くのが、JR長野駅から善光寺に至る表参道に当たる中央通り。中でも特に人通りの多い交差点にあるトイーゴ広場で、5月15日、長野グリーンシティ ライオンズクラブ(山本英雄会長/79人)による恒例のイベントが行われた。クラブ名を冠した「グリーンシティフェスタ2022」は、さまざまな体験を通じて子どもたちの想像力と観察力を育てることを目的にしたイベントで、親子で一日楽しんでもらえる内容となっている。毎年、緑が最も映える季節に開催し、今回で6回目となった。

体験ワークショップの一つ、かんなを使った箸作り

このフェスタは、イベント企画会社などの協力に頼ることなく全てライオンズ・メンバー自らが動いて汗をかき、一から作り上げるのが信条。ベースとなる部分は変わらないが、毎年内容をアップデートしている。2022年は、生活雑貨やハンドメイド作品などを販売する約30軒のブースに、信州の食材を使った料理を提供するキッチンカー6台が集結。そして初回からおなじみの、幅広い世代のグループが日頃の成果を披露するステージイベントと各種体験ワークショップなど、盛りだくさんの内容で、多くの人出でにぎわった。

クラブがとりわけ力を入れているのが、体験ワークショップ。子どもたちに実際に手足を動かして体験してもらう豊富なメニューは、グリーンシティフェスタの最大の特徴だ。いすや箸を作る木工、編み物、ステンドグラス作りなどのコーナーが設けられ、子どもたちは真剣な表情で取り組んでいた。

トイーゴ広場のメイン会場に設けられたショッピングブース。道路をはさんだ上千歳広場にはキッチンカーが集合

トイーゴ広場を会場にしたのは今回が初めて。善光寺の御開帳に合わせて長野市でも子ども向けの縁日企画を検討しており、その内容がライオンズのグリーンシティフェスタとうまくリンクするものだった。中央通りにあるトイーゴ広場で開催すれば、偶然ここを通りかかる人たちにも楽しんでもらえるはず。そんな期待がかなって、グリーンシティフェスタ2022は昨年に引き続き長野市と共催で開かれることになった。

昨年は市役所の隣にある屋外スペースを会場としたが、 バケツをひっくり返したような雨に見舞われ、市役所の屋内を使わせてもらい急場をしのいだ。そこで今年はあらかじめ室内スペースを確保。トイーゴ広場のはす向かいにある商業施設「もんぜんぷら座」の地下ホールを体験ワークショップの会場に充てた。ステージやショッピングブースがあるメイン会場とは少し離れてしまうが、主役である子どもたちに体験ワークショップを楽しんでもらうことはこの事業の要で、雨で中止させるわけにはいかない。十分な広さを確保した上で、入場は100人までという人数制限を設け、感染対策も万全にした。

今回ライオンズ・メンバーが最も苦労したのが「感染対策を講じた上で来場者にいかにイベントを楽しんでもらえるか」だった。トイーゴ広場のメイン会場の周囲を柵で囲い、出入り口を1カ所にすることで入場者数をコントロールした。感染症防止対策は、長野市が善光寺御開帳関連事業のために設置した対策チームのガイドラインに沿って行い、来場者の消毒・検温と登録書への記名を徹底。受け付けを済ませた人にはミサンガをつけてもらい、これをつけた人は他の会場と行き来出来るようにした。実際のところ、登録の際に名前を記載することに抵抗感を示す人も少なからずいた。本来ならば、気兼ねなくふらっと訪れてステージベントや体験ワークショップを楽しんでもらいたいところだが、こればかりはコロナの収束を願うしかない。

クラブが結成2年目を迎え、まだこれといった事業がなかった頃、地域性があって、かつ持続性のある目玉事業を作り出そうという話が持ち上がった。協議の結果、子どもたちが目を輝かせるような青少年育成事業が良いと意見がまとまり、善は急げと、その期のうちにグリーンシティフェスタの開催を決定した。日にちと場所(クラブ事務所の隣に出来たばかりの公園)だけが先に決まり、内容も予算もないところからのスタートだった。

当時、クラブ・メンバーの平均年齢が40歳台と若かったこともあり、自分たちで手作りのイベントにすることに決めた。過去に似たイベントを行ったことがあるメンバーの経験をベースに、各自が得意とするジャンルで力を発揮し、試行錯誤を繰り返しながらイベントは着々と形になっていった。自動車学校を経営しているメンバーは、荷室の横側が開閉する大型トラックを用意。そのトラックの荷台をステージにして、テーブルやいすは近くの神社から借りた。商店街を巻き込んで集客などの協力を仰ぎ、なんとか実現にこぎ着けた。

最初の頃はステージイベントが主だったが、回を重ねるごとにいろいろなメニューが追加されていった。それから数年後には市の教育委員会との共催が実現。それによって市内小学校でイベントのチラシを配ってもらえるようになり、保護者にも認知されて集客数が大きく向上した。昨年からは、善光寺の境内で「手作り市」を主催するライオンズ・メンバーが出店者に声掛けし、ショッピングブースに店舗を出してもらえるようになった。

このフェスタはクラブにとって年度の集大成のような機会なので、イベントを作り上げるライオンズ・メンバーも来場する子どもたちと同様に楽しんでいる。この日は長野グリーンシティ ライオンズクラブの下で活動する二つのレオクラブも大活躍した。日本で初めて公立中学校内に結成された長野市の長野東部中学校レオクラブ(髙橋彩綾会長/18人)は、手作り雑貨を用意しブースで販売。客足が途絶える時間が続くと、商品を持ってブースを離れて売りに行くなど、皆が自発的に動いていたのが印象的だった。もう一つの長野Paletteレオクラブ(小野真優会長/17人)は、YCE(ユースキャンプ及び交換)参加経験を持つ大学生・社会人が中心のクラブ。この日、松本市から駆け付けたメンバーは主にステージ周りの手伝いを担当した。 両レオクラブは、この日のフェスタ以外にも日常的に長野グリーンシティ ライオンズクラブと活動を共にしている。

「子どもたちに体験してもらう」ことと「メンバーによる手作り」の2点を不動の軸に、毎回、何か新しいものを加えていくというのが、グリーンシティフェスタのスタイル。メンバーからは、今後はレオクラブのような若い力が主役になれる機会を設けたら面白い、という意見も出ている。クラブは引き続き新しい可能性を探求し、フェスタを進化させていくことだろう。

2022.06更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)