取材リポート
ひとり親の負担を減らし
子の成長を見守る食の支援
福岡筑前ライオンズクラブ
#食料支援
第4土曜日の3月26日は、月に2回のこども食堂と、月に1度の食料支援活動「Food Support(フードサポート)」が同時に開かれる日。朝からあいにくの雨で多少出足は鈍ったが、会場となる福岡市中央区の簀子(すのこ)公民館には多くの親子が訪れた。この取り組みは、福岡筑前ライオンズクラブ(中村孝浩会長/24人)と、公民館のある区域で活動する任意団体、港地区まちづくり協議会の有志で運営する「こども食堂・絆」が共同で行っているもの。公民館の3階でこども食堂が、入り口脇の駐車場ではフードサポートが行われる。ライオンズ・メンバーが担当するフードサポートは、事前に予約したひとり親家庭に食料品を無償で提供する活動だ。
二つの取り組みが始まったきっかけは、5年前にライオンズが手探りで始めたこども食堂だ。港地区まちづくり協議会と協力し、毎月第2・第4土曜日に大人300円、子どもには無料で食事を提供。会場におもちゃを用意して一緒に遊ぶなど、子どもが安心して過ごせる居場所を創出した。この活動が呼び水になり、港地区まちづくり協議会の女性たちを中心にこども食堂・絆が発足し、共に活動を続けてきた。ところが2020年の春、コロナ禍で公民館が閉鎖になりこども食堂が続けられなくなってしまった。月に2度とはいえ、必要とされていた食事の機会が失われたままではいけない。「ならば食料支援をしよう」と言い出したのが、当時クラブ会長だった林谷誠幹事だ。
クラブはまず、特定非営利活動法人(NPO)フードバンク福岡の協力を取り付けると、自クラブのウェブサイトや福岡市のSNSを通じて食品の無料配布を告知。試行錯誤の末に実施した初回のフードサポートでは、8世帯に食品を渡すことが出来た。その後、フードバンク以外の食材調達先を独自に開拓した他、ひとり親を支援するNPOとも連携して告知に協力してもらった。地元小学校の通学区域内の親子を対象とするこども食堂とは違い、フードサポートは制限を設けなかったこともあって、利用者は回を重ねるごとに増えていった。
人気の秘密は用意する食品のバリエーションと量の豊富さにもある。今回は米、冷凍シシャモ、豚ロースステーキ、ギョーザ、おでん、即席のみそ汁に焼きそば、鍋つゆ、だしの素、各種缶詰などを用意。これらの食品は予約した人の家族構成に合わせて仕分けしておき、野菜類は上限を設けて欲しいものを持ち帰ってもらう。優に1週間分はありそうな量だ。
「最初はやり方も分からない中、フードバンクから提供されたものをそのまま渡していましたが、活動に賛同してくれる企業が次第に増え、配布する食品も充実していきました。回を重ねるごとに品数が多くなっているので、継続利用されている方は驚いているかもしれません」(林谷幹事)
企業などから提供を受ける食品は月によって内容がガラッと変わる。そのためクラブでは、偏りが出ないように足りない品目を自分たちの出来る範囲で調達する。利用者のためにたくさんの食品を集める努力をしつつ、保管しておく場所がないので、提供された食品はこども食堂へ回す分を除いてその都度全てを配り切るようにしている。
予約者向けのフードサポートに対して、こども食堂は当日思い立ってふらっと訪れた人も迎え入れる。この日、こども食堂・絆が用意したのは、カレーライスとニンジンしりしり、白身魚のフライの3品。カレーライスは前日に仕込んだものを寸胴鍋で持ち込み、ご飯とニンジンしりしりは公民館の厨房(ちゅうぼう)で調理した。白身魚のフライはフードサポートから提供されたものだ。大人の利用者から徴収した300円は、次回の食材購入に充てている。
コロナ禍を機に、多くのひとり親家庭が生活に困窮している状況が注目を集めた。福岡でもこども食堂の数は増えてきているが、支援はまだまだ十分とは言えない状況だと林谷幹事は話す。
「こども食堂の運営にはいろいろなハードルがあります。場所と設備はもちろん、食事を作るボランティアも必要です。限られた予算内でバランスの良い食事、子どもが満足してくれる食事を提供しなければなりません」
この日は、大人45人、子ども12人がこども食堂を利用し、フードサポートでは、25世帯61人(うち子ども36人)に食料を渡すことが出来た。クラブには利用者から感謝の言葉が届いている。
「中には『(もうだめだと思っていたが)フードサポートがあったおかげでもう少しがんばってみる気になった』という胸を打つ声もあり、継続的な支援が必要だと実感しています」(林谷幹事)
ライオンズクラブ国際協会では「食料支援」をグローバル重点分野の一つに掲げており、支援を必要とする人が栄養のある食べ物を手に入れられるよう世界中のライオンズが取り組んでいる。日本でも潜在的な食料支援のニーズは決して少なくないことが、コロナ禍で明らかになった。福岡筑前ライオンズクラブでは、利用者が1カ所に集中すると対応しきれなくなる懸念も感じており、ゆくゆくは福岡市内で同じ取り組みが出来る仲間を増やして包括的に対応することも模索してみたいと、今後の活動の行方を見据えている。
2022.05更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)