奉仕活動果樹園に現れた
1日限りのレストラン

果樹園に現れた1日限りのレストラン

「コロナ禍の影響でこども食堂が苦境に立たされている」
東葛飾ライオンズクラブ(庄司道弘会長/39人)にそんな情報がもたらされたのは、感染拡大で学校が一斉休校した2020年春のこと。東葛(とうかつ)地域6市(松戸・柏・野田・流山・鎌ヶ谷・我孫子)のこども食堂へ企業や家庭から寄付・寄贈された食品などを届ける「とうかつ草の根フードバンク」を通じて、その現状を知ることとなった。寄付も食材も集まりにくくなって提供出来るメニューは限られたものになっていたが、こども食堂を頼りに多くの児童が訪れるという。この話を聞いてクラブはすぐに寄付を行ったが、他にも何か出来ることはないか、と考えた。

クラブには、中国料理に日本料理、肉割烹に焼き肉店など、地域で名店と言われている飲食店を営むメンバーが何人もいる。そんなプロたちが作ったメニューを無料で振る舞い、コロナ禍で制限されがちな「非日常的な華やかな食事」を小学生以下の児童とその家族に楽しんでもらってはどうだろう。名称もこども食堂とは一線を画して「子どもレストラン」に。メンバーは黒のスーツにベスト、ソムリエ・エプロン、蝶ネクタイを身に着けてウェーターに扮し「非日常感」を演出しよう。そんなアイデアを形にした、ライオンズだからこそ実現可能な「子どもレストラン」は、2021年5月29日に初めて開催された。

昨年5月といえば、新型コロナウイルスの感染拡大により自粛ムードが広がり、次々とイベントが中止になっていた時期。ライオンズクラブの活動の多くも中止を余儀なくされていた。そんな中での実施とあって、きっと苦労が多かったに違いない。

「開催するかどうか、最終的には4月末にクラブ内で話し合いました。クラスターが発生したらどうするかなどさまざまな意見が出ましたが、『コロナ禍で困っている子どもや親がいる。だから何が何でも実現する』という昨年度会長の強い意志に従い、予定通り行うことになりました」(庄司会長)

やると決まれば、感染予防対策は万全にしなければならない。密を避けられる屋外の果樹園を会場に選び、同居家族以外は近くに座らないように配席。マスク着用の上、検温と手指消毒を徹底した。メンバーが子どもたちの目の前で牛ステーキを焼き、炊き込みご飯やエビのチリソースをワンプレートに盛り付けて提供。171人の親子にいつもとはひと味違う食事を楽しんでもらった。

2022年度版の子どもレストランはその路線を引き継ぎつつ、よりエンターテインメント性を強く打ち出した企画にした。一つの皿に料理を盛り付けるのではなく、参加者が自ら調理するバーベキューがメインだ。自分で焼いた肉や野菜のおいしさは格別だろうし、何よりも楽しいはずだ。

準備は抜かりなく進められた。昨年10月、ヒアリングのために5家族を招いてバーベキュー料理を振る舞うプレオープン会を開いた。「他にどんなメニューがあったらうれしいか」と尋ねた際、大人からは複数の意見が出たが、子どもは全員一致の「白米」推し。大人の感覚とはまるで違う結果に驚いたが、子どもレストランのメニューに千葉県産コシヒカリを炊いた白米と、ご飯と相性抜群のカレーを加えることにした。

バーベキューを選んだのにはもう一つ理由がある。前回の子どもレストランでは、飲食店経営のメンバーばかりに負担が集中してしまった。仕込みから現場での調理まで、大部分が任せきりになってしまったのだ。その点、参加者が自分で焼いて食べるバーベキューであれば、飲食店メンバーの負担も軽減されると考えた。

今年はまた、頼もしい助っ人の参加もあった。この4月から4年生になった大学生ボランティア17人だ。皆、保育士や幼稚園教諭を目指す学部生というだけあって、子どもとの触れ合いはお手のもの。配膳や給仕のサポート役として力を発揮してもらった。他にも、看護師2人が会場に常駐して万が一の事態に備えた。感染対策も昨年同様に徹底し、今年の子どもレストランは4月2日に開催された。昨年より2カ月近く早い開催となったのは、まん延防止等重点措置が解除されるタイミングを見計らってのこと。午前と午後を合わせて210人の親子が訪れ、牛ロース肉を始め豚肉やソーセージ、野菜のバーベキュー、卵スープとカレーライスに舌鼓を打った。

プレオープン会でのヒアリングの通り、白米は大人気。ライオンズ・メンバーが昼の賄いに食べるはずだった分も参加者に回すことに。コロナ禍で外食もままならなかったこともあってか、参加した家族には年に1度のレストランを存分に楽しんでもらえたようだ。

会場内には祭の縁日のようなお楽しみコーナーも設けた

こども食堂の危機がきっかけで始まった1日限りのレストラン。前回に引き続き、コロナ禍で経済的に苦しくなっている可能性がある家庭には、ひとり親世帯のコミュニティーやこども食堂を通じて参加を呼びかけた。

「特にひとり親家庭の方や、普段からこども食堂を利用されている方に参加していただきたいと企画しました。定期的に開催されているこども食堂とは違って、私たちは年に1度しか開催していませんが、その分この日にかけてメンバー一丸となって準備を進めてきました。昨年経験したのですが、この事業が終わるとメンバーの団結力や士気が一気に上がります。私たちにとってもかけがえのない機会となっています」(庄司会長)

2022.05更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)