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西日本豪雨被災地に対する
LCIF交付金事業
336複合地区(中国・四国)
2018年6月28日から8日にかけて発生した台風7号と梅雨前線の影響により、広い範囲で未曽有の被害を出した平成30年7月豪雨(西日本豪雨)。広島、岡山、愛媛の3県を始めとする西日本を中心に、大雨による増水や浸水、山の斜面崩壊による土石流、河川の堤防決壊による洪水、貯水の限界に達したダムからの放流量の増加による下流域の氾濫(はんらん)などの災害が広範囲で多発し、230人以上が死亡した。
ライオンズクラブ国際財団(LCIF)はこの甚大な被害への対応として、336複合地区(中国・四国)へ大災害援助交付金(MCAT)30万㌦を交付。更に西日本豪雨のための指定寄付金口座を開設した。被災した地区の申請に応じて拠出される緊急援助交付金が食料や水、衣類、医薬品などの緊急支援物資の提供を目的とするのに対し、MCATはより深刻な大規模災害に際して人々の暮らしの再建という長期的な復興事業を進めるため、国際会長とLCIF理事長の裁量で交付されるものだ。
西日本豪雨災害に対しては、MCATを合わせて総額1億2000万円を超える指定交付金が提供され、336-B地区(岡山県・鳥取県)及び336-C地区(広島県)から交付金事業の申請が出され、承認を受けて実施されてきた。
336-B地区の主な事業には倉敷市中央図書館の移動図書館(約2500万円)、336‐C地区の主な事業には、坂町天地川公園遊具復旧事業(約860万円)、坂町小屋浦消防団消防格納倉庫再建事業(約540万円)、三原市立本郷ひまわり保育所の遊具備品補充事業(約430万円)、大草神楽子ども研究クラブの道具購入支援(約180万円)などがある。
これら一連の西日本豪雨指定交付金の最後に実施されたのが、岡山県・倉敷真備ライオンズクラブが申請した防災標識及び防災碑の設置事業、防災コミュニティハウス及び境地区公会堂の建設事業だ。これら二つの事業が完了し、3月26日、前内閣官房長官の加藤勝信衆議院議員(倉敷ライオンズクラブ)、伊東香織倉敷市長、山田實紘ライオンズクラブ国際協会元国際会長(LCIF理事)の臨席の下、贈呈式と落成式が開かれた。
倉敷市真備町では小田川とその支流の堤防が決壊し、地区の約3割、1200ヘクタールが水につかって、51人が犠牲になった。倉敷真備ライオンズクラブはメンバーの8割が被災し、堤防決壊現場の近くにあったクラブ事務局が水没した。クラブの存続さえ危ぶまれる危機的な状況の中、当時の小野宗次336-B地区第1副地区ガバナーを中心に対策本部を設置。近隣のクラブと協力しながら救援物資受け入れなどを担い、支援の拠点なった。そうした経験を教訓に、クラブは災害に強い町づくりを重要な使命と考え、防災に焦点を当てたLCIF交付金事業を計画した。
災害発生後の報道によれば、真備町の浸水箇所は市が配布していたハザードマップとほぼ一致していたものの、その存在を知っていた人は75%、内容を理解していた人は24%にとどまっていた。そこでクラブは、日頃から防災に対する意識を高め、訓練や教育にも活用出来る標識や碑を設置しようと考えた。防災標識は避難案内の標識を8カ所、実績浸水深の標識を15カ所、避難誘導の標識を23カ所の計46カ所に設置する事業で、交付金約500万円が充てられた。防災標識及び防災碑贈呈式の会場になったマービーふれあいセンターの外壁にも、3.9mの浸水深を示す防災標識が掲げられた。豪雨災害を後世に伝える防災碑は、御影石に真備地区の浸水範囲の地図を配したもので、同センターとまびいきいきプラザの2カ所に設置された。
贈呈式で祝辞を述べた加藤衆議院議員は「ハード面の復旧・復興は進んでいるが、同時に常に防災に対する意識を持っておくことが大切。災害に強い町をみんなが協力して作っていきたい」と、災害への備えの重要性を強調した。式ではLCIF西日本水害復興支援委員会の中村泰久委員長(元国際理事)から伊東市長へ目録を贈呈。終了後は防災碑の除幕式も行われた。
一方、防災コミュニティハウス及び境地区公会堂は、全壊した境地区の地域集会所跡地に建設された。真備町内には82の地域集会所があり、そのうち38カ所が被災したが、その多くは再建の見込みが立たずにいた。そこでクラブは、地域住民のコミュニケーションの場として大きな役割を果たす集会所に、今後起こりうる災害に備える防災拠点の機能を付加した複合的施設の建設を計画。境地区自治会の賛同を得て事業を進めた。完成した施設は、1階が集会室のある公会堂、2階が防災教育施設のある防災コミュニティハウス、屋上は避難場所となる。1階と2階にはそれぞれ備蓄庫を備え、緊急時には住民の避難場所や支援物資の配給場所として利用出来る。この施設建設には交付金約4000万円が活用された。
落成式では倉敷真備ライオンズクラブ・LCIF交付金事業特別委員会の小野委員長(元地区ガバナー)が事業の概要を説明し、「コミュニティハウスには物資を備蓄し、災害が起こった時にはライオンズクラブがすぐに駆けつけて緊急支援に動くようにする。また2階のスペースは子どもたちの防災学習にも活用していきたい」と述べ、境地区の住民と協力しながら将来の災害に備えるために施設を活用していく考えを示した。伊東市長は被害を受けた地域の結集点となる施設の完成に感謝し、「ライオンズの皆さんは会合で『アワ・ネイションズ・セイフティー』と歌われているが、確かに国・地域で多くの人の安心のために活動されている組織だと再認識した」と話した。
式典終了後はライオンズ関係者向けにバスツアーが行われ、倉敷真備ライオンズクラブのメンバーの案内で、真備町の復興状況と防災標識を見学した。西日本豪雨で決壊した小田川では堤防強化工事がほぼ終わり、この日の午前中に記念の式典が行われた。残る区間と、高梁川と小田川の合流点付け替え工事は、2023年度までの完成を目指している。
ハード面の復興が進む中、倉敷市が真備町の住民を対象に昨年末に行ったアンケートでは「住宅の再建が完了した」と回答した世帯が9割を超え、同時に「災害の記憶が薄れているように感じる」とした回答が約8割に上った。真備ライオンズクラブによる二つのLCIF交付金事業は、次の世代への災害の記憶の伝承と防災意識の向上に、大きく貢献していくに違いない。
2022.03更新(取材/河村智子 動画/団英男〈ライオン誌日本語版委員会委員長〉)