取材リポート 雪国の子から南国の子へ
純白の贈り物

雪国の子から南国の子へ純白の贈り物

「沖縄の子どもたちにも、雪で遊んでもらいたい」
豪雪地帯として知られる新潟県南魚沼市を活動拠点とする六日町ライオンズクラブ(上村光枝会長/26人)のそんな思いから始まった「雪の宅配事業」が、1月31日に行われた。同クラブのメンバーと共に、市立六日町小学校の5年生が校庭に積もった雪を発泡スチロール製の箱に詰め、沖縄県にある二つの小学校へ贈るこの取り組みは、今年で26回目を迎えた。

午前10時、校舎の前に5年生62人が集合。六日町ライオンズクラブ青少年奉仕委員会の南雲勇路委員長が作業内容を説明し、「沖縄の小学校の子どもたちに喜んでもらえるよう気持ちを込めて、きれいな雪を箱に詰めてください」と話し終えると、子どもたちは一面雪に覆われた校庭へと駆け出した。

この活動は25年前、六日町ライオンズクラブのメンバーが沖縄県の本部(もとぶ)町を訪れて本部ライオンズクラブと交流を持った縁で始まった。今でこそ沖縄の子どもが冬に雪国を訪れるのもそれほど珍しいことではないが、当時は少し事情が違い、本物の雪を見たことがない子も多かった。そんなわけで、本部のクラブ・メンバーから「沖縄の子どもたちに雪を見せてあげたい」という手紙が届いたのだ。六日町ライオンズクラブがその願いに応えて新たな青少年育成事業を立ち上げ、六日町小学校と本部小学校をつなぐ架け橋の役目を果たすことになる。

「雪の宅配事業」と名付けられたこの取り組みは、気候や文化が異なる地域の小学生が交流する絶好の機会。子ども同士の交流がより深まるようにと、ライオンズクラブは当初から事業を陰で支える「黒子」としてサポート役に徹してきた。結果的にこの判断が功を奏し、2004年に本部ライオンズクラブが解散してしまった後も、両校の交流はそのまま継続されることになった。

もう一校、金武町(きんちょう)の嘉芸(かげい)小学校には、2013年から雪を届けている。同校の琉球太鼓クラブは、毎年2月初旬に行われる地域最大の冬のイベント「南魚沼市雪まつり」で演奏を披露するために、以前から定期的に六日町を訪れていた。この琉球太鼓クラブと六日町小学校との交流をきっかけに、太鼓クラブ以外の子どもたちにも雪に触れてもらおうと、雪の宅配を始めたのだ。

校庭に出た子どもたちは、透明のビニール袋にスコップで雪を入れて発泡スチロール製の箱の中に詰めるのだが、袋の中にはどうしても隙間が出来てしまう。何度かやり直してはみるものの、あまり強く雪を詰めてしまうと到着する頃には氷のように固まってしまうので、程良い加減が重要だ。少々詰めが甘いところは、ライオンズ・メンバーが手を貸して詰め直した。

雪を詰める箱の表面は、カラフルな絵や文字で飾られている。1カ月前にクラブが学校に箱を届け、子どもたちが描き入れておいた。よく見ると、どの箱にも「雪を食べないで」という注意書きがあった。何でも、雪を目にした沖縄の子どもはまず「食べてみたい」と思うのだそう。比較的きれいな雪を選んで詰めているとはいえ、「はい、どうぞ」とは言えない。「もちろん、雪は食べないでほしい。ただ、子どもの頃には自分も雪がおいしそうだと感じていたので、沖縄の子どもたちが同じ反応を示すと聞いて、懐かしさとうれしさが込み上げてきた」。メンバーの一人はそう言って目を細めていた。

この日、子どもたちは16箱に雪を詰めた。箱の中には、ラミネート加工で防水処置を施したレポートを1枚ずつ入れた。5年生はこの1年間、総合的な学習の時間で南魚沼の自然の価値を見つける課題に取り組んできた。自分たちが調べて写真と文章にまとめたふるさとの自然のすばらしさを、雪と一緒に沖縄の子たちに届けるのだ。雪国の子どもたちの心を込めた贈り物は、待機していた真っ赤な郵便車に積み込まれて、沖縄の子どもたちの元へと向かった。

今回の事業を実施するに当たっては、一つ大きな懸念があった。今年1月に入り沖縄県の新型コロナウイルスの感染者数は爆発的な増加を見せ、多くの学校が閉鎖を余儀なくされていた。雪の到着予定日に受け取る側の2校で学校が閉鎖されている可能性があったのだ。幸い、雪が届く2月3日までに学校閉鎖は解除され、通常に戻るという知らせに皆で胸をなで下ろした。

クラブではこうした状況下でどのように活動を進めるか、学校側と協議を重ねた。その結果、雪を詰めるのは子どもたち、梱(こん)包はライオンズと、作業を分担して行うことにした。また、ライオンズ側は参加者を絞り、当日朝に抗原検査を行う万全の体制で臨んだ。感染防止対策の徹底によって、県内でまん延防止等重点措置が取られる中でも予定通りに実施することが出来た。

六日町から届いた雪の感触を楽しむ沖縄の子どもたち(写真提供/六日町小学校)

その後、六日町小学校に沖縄の嘉芸小学校からの便りが届いた。2月3日、沖縄本島中部にある金武町の昼の気温は18度。半袖短パン姿の子どもたちは、雪が届くやいなや校庭へ飛び出し、雪遊びに興じたそうだ。

六日町ライオンズクラブはこの活動を通じて、子どもたちにふるさとの良さを感じ、地域を大切にする心を養ってもらいたいと考えている。南雲委員長はこの活動に込める思いを、次のように話していた。
「子どもたちがこの先、中学、高校、大学に進学して大人になっていく過程で、新潟の子は沖縄へ雪を贈ったことを、沖縄の子は新潟との交流を、きっと思い出してくれるでしょう。小学生の時に、気候も違えば歴史も文化も違う他県と交流することは貴重な経験だと考え、活動を続けています」

2022.03更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)