フォーカス フードバンクの枠を超え
生活困窮者に寄り添う支援

フードバンクの枠を超え生活困窮者に寄り添う支援
企業から米の寄贈を受ける新潟県フードバンク連絡協議会の高見理事長(右)

フードバンクの役割には、支援を必要とする生活困窮者に食料を届けてその生活を支えること、そして無駄に廃棄される食品ロスを削減することがあります。しかし新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、より幅広い役割が求められるようになりました。

2020年3月に学校休業が始まると、ひとり親家庭などもともと苦しい状況にあった人の経済状況が急激に悪化し、生活費が枯渇して窮状に追い込まれる人が続出しました。そんな状況で4月には緊急事態宣言が出て、支援機関の約8割が活動を自粛しました。私が理事長を務めるNPO法人フードバンクにいがたを含む全国のフードバンクのほとんどは、集めた食品を社会福祉協議会や福祉施設など対人支援の専門機関に提供し、個人への直接支援は行っていません。ところが、私たちが支援機関に渡した食料の多くが、必要な人に届かなくなってしまったのです。その一方で、各地のフードバンクには食事に事欠く人から直接、問い合わせが寄せられるようになっていました。

そこで、新潟県内の10のフードバンクに呼びかけて新潟県フードバンク連絡協議会を設立し、5月から個人に直接食料を提供する新型コロナ緊急対策「子どもの未来応援プロジェクト」を開始しました。個配を行うには大きなエネルギーが必要でリスクもありますが、緊急のニーズへの対応が最優先と考え一歩前に踏み出しました。

家庭で余った食品を持ち寄って必要な人と分かち合うフードドライブ

県内のフードバンクが団結し個人に密着した支援機能を果たす取り組みは独自のもので、全国でも他に例がないようです。当初は半年の予定でスタートしましたが、延長を重ねて現在も続いています。プロジェクトの支援対象の9割を占めるのがひとり親家庭の母親です。「関係性の貧困」と言われていますが、その多くはさまざまな事情で人間関係が希薄になり孤独・孤立の状態に陥っています。例えば家庭内暴力や虐待によって離婚した人では、養育費を受け取るために「性格の不一致」といったあいまいな離婚理由にせざるを得ず、周囲から単なるわがままと見なされて関係が悪化する、といったケースが見られます。

私たちの支援につながった人は開始から1年間で3500人、2年目は現在(22年1月)までに5000人を超えました。支援を必要とする人が増え続けると同時に、相談内容の深刻度が増しているのを感じます。報道されている通り、20年7月以降、全国的に自殺者数が増加し、中でも子どもや若者と、子育て世代の女性のうつと自殺が急増しました。そこで自殺者が多くなる年末に向けて、政府や弁護士会、大学などが相談窓口を増やすなど予防の取り組みを始めました。フードバンクとしても精神的なケアにも取り組もうと新たに行ったのが、ホールのクリスマスケーキを贈る活動です。ケーキを通じて社会的なつながりや励ましを感じ、無事に年末を乗り切ってもらいたいという願いを込めた支援です。

フードバンク・アンバサダーとして活動に協力するJ2アルビレックス新潟のチアリーダーズ

こうして個人と直接つながるようになると、さまざまな支援のニーズがあり、それに応えるうちに支援のメニューが増えていきました。現在、連絡協議会の取り組みの中で、食品を集めて渡す事業は半分程度で、残りは虐待防止、自殺防止、子どもと母親の居場所づくり、外国人に対するサポートなど食以外の支援です。フードバンクは専門の相談機関ではないからこそ、気軽に悩みを話しやすいところがあるようです。今では私たち連絡協議会がハブの役割を担うようになり、行政や弁護士、臨床心理士などの専門家と支援対象者をつないでいます。また、約5000人が登録する連絡協議会のLINE公式アカウントでは、自殺対策で文字通り「命の門番」の役割を果たすゲートキーパー、母子福祉連合会、NPOなどさまざまな支援機関から依頼を受けて、ひとり親家庭向けの情報を発信しています。

援助を求める人が増えると同時に支援に乗り出す人も増えて、連絡協議会に参加する団体は設立時の2倍を超える23団体になりました。個人からの寄付も増加し、食品の生産者や企業、共同募金会、ライオンズクラブ、ロータリークラブなどの諸団体からも支援が寄せられて、食品だけでなく学用品、日用品や家具・エアコンまでも提供出来るシステムを作り上げることが出来ました。

333-A地区(新潟県)では2021年春の地区年次大会でもフードドライブを実施し、集めた食品を最寄りのフードバンクに寄贈してくれました。新潟市内のクラブも全面的に支援してくれ、中には自社のトラックで食品運搬に協力してくれるライオンズ・メンバーもいます。フードバンクにとって企業からの食品提供は非常にありがたいのですが、「取りに来てほしい」という申し出が大半です。1トン、2トンといった規模の食品を運ぶ車両やそれを運転する人員を確保するのは容易ではなく、非常に助かっています。運搬に関わらず、全国のライオンズ・メンバーそれぞれが自分の仕事の延長線で何か出来ることはないかと考え、地域のフードバンクに気軽に声をかけていただけたらうれしいです。

2022.03更新(取材/河村智子 写真提供/新潟県フードバンク連絡協議会)

たかみ まさる:1947年9月、京都市生まれ。ささえあいコミュニティ生活協同組合新潟理事長、新潟県フードバンク連絡協議会会長。2013年7月、生活困窮者の孤立・孤独が社会問題として表面化する中で米どころ新潟でも米を食べられない人がいる状況を憂い、フードバンクにいがたを設立。20年4月にはコロナ禍で苦しむ人へ支援を届けるために新潟県フードバンク連絡協議会を立ち上げ、食だけでなく子育て支援や自殺防止など幅広い活動を展開している。18年1月、にいがた水都(みなと)ライオンズクラブ入会、2021-22年度クラブ会長。