取材リポート 子どもたちに伝統継承を
しめ縄づくり体験会

子どもたちに伝統継承を しめ縄づくり体験会

日本では6世紀頃から正月を祝う文化・風習があったと言われている。正月に鏡餅を供える習慣は平安時代には存在していた。田んぼの稲には「稲魂(いなだま)」という神の魂が宿るという考えがあり、その米を用いて作られる丸い餅は、心臓すなわち魂の形を模しているという。神に供え、それを食べることで霊力を授けられると考えられていた。これを割って家族に配るのがお年玉の起源である。

また、門松を家の前に飾るのは年神様が居つく依り代としてもらうため。松が依り代になるのは「祀(まつ)る」と「松」の言葉が重ね合っているためと考えられている。現代ではあまり行われないが、かつては近くの山から松を取ってくる「松迎え」を行い、そこから門松を作った。

しめ縄は、神社や大きな岩など、神様の宿る所に張られるものである。それが、自分の家も神様がいるのにふさわしい場所であると示すために飾るようになり、年神様を迎える場所にはしめ縄を張る文化が生まれた。稲魂の宿った稲のわらで作ることで聖なる空間を作り出すのである。また、近年は厄除けの意味で車やバイクなどにしめ飾りをつける風習も生まれている。

しかし、人々の生活様式が変化し、さまざまな文化が流入してきたことにより、正月の過ごし方も多様化してきた。かつては自作していた正月飾りだが、そうした技術は次第に失われつつある。

徳島県勝浦町立勝浦中学校では、こうした伝統文化を継承したいという思いで毎年「しめ縄づくり体験」が行われている。これは阿波勝浦ライオンズクラブ(喜田和彦会長/24人)が2008年から実施しているもの。21年度は12月22日に行われた。今回で14回目の開催だ。

この体験会の発端は、当時の校長が伝統文化を伝えるふるさと学習の時間を作りたいと考えたこと。その相談が、地域ぐるみで子どもを育てることを目的に活動する学校支援地域本部に持ち込まれ、地元民謡「勝浦音頭」を踊ることと、しめ縄づくり体験を柱とする、ふるさと学習が始まった。

当時、学校支援地域本部でコーディネーターを務めていた阿波勝浦ライオンズクラブの稲井稔さんは、学校の依頼を受けてしめ縄づくりの指導者を集めることになった。しめ縄づくりは手先で細かい作業をするため、指導者1人につき生徒10人程度が限界だ。教えられる人を集める必要があり、周囲でしめ縄づくりが出来る人を探していった。すると、集まった人の半分以上がライオンズクラブに所属するメンバーだった。ならばクラブの奉仕活動として取り組んだ方がより質の高い活動になると稲井さんは感じ、クラブに働きかけて継続事業になったという。

今年度のしめ縄づくり体験会では、ライオンズクラブのメンバー5人を含む地域の人たちが指導に当たった。例年は全校生徒を対象にしていたが、今年度と昨年度は新型コロナウイルス感染症の影響で中学1〜2年生のみを対象にし、体育館で場所を広く取って実施した。

当初、クラブが一番苦労したのが稲わらの確保だ。初めての子が限られた時間でも出来るよう、細くコンパクトなしめ縄の作り方を教えることにしたが、それでも参加する100人分となると相当な量が必要となる。現在は、知り合いの農家にあらかじめ声をかけ、収穫時に取っておいてもらうなどして確保している。

体験会では最初にしめ縄についての説明をした後、ステージの上でデモンストレーションを行う。指導者は慣れたもので稲わらを撚(よ)ってあっという間にしめ縄を作り上げる。中学生たちはその手つきに真剣な眼差しを送っていた。

デモンストレーションの後は指導者に教わりながらしめ縄を作っていく。始めてみて分かったのが、中学生が自発的にやりたいと思ってくれているということだ。中には祖父母などから教わって作った経験がある子が他の子に教えていたり、前年の体験会の内容を覚えていてテキパキと作業をする子がいたりする。自分なりに工夫したオリジナルのしめ縄を作る子もいる。それぞれ分からないところを教え合うなど生徒同士のコミュニケーションの促進になる上、指導者と会話することで世代間の交流にもつながっている。

しめ縄の作り方や飾る背景を共有、継承するこの体験会。昨今は中学生の親世代もこうした伝統文化に触れていない人が増えているため、家庭での会話を通じて保護者にも知ってもらいたいと考えている。今年度は徳島県教育委員会から社会教育活動として視察が入るなど、取り組みが評価されているこの事業。今後もクラブでは継続し、日本の伝統文化を守っていきたいと考えている。

2022.02更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)