テーマ野鳥の生息環境を守る
サンクチュアリへの支援

野鳥の生息環境を守るサンクチュアリへの支援
ウトナイ湖サンクチュアリにクラブ・メンバーの手で建てた観察小屋を20年ぶりに補修

新千歳空港から車でおよそ20分、苫小牧市の東部に位置するウトナイ湖は、国内屈指の渡り鳥の中継地だ。秋と春には、本州で越冬するガンやカモ、ハクチョウなどの水鳥が飛来し羽を休める。渡り鳥の他にも、初夏にはコヨシキリやオオジシギ、アカハラなどの夏鳥が繁殖し、冬にはオオワシが姿を見せ、年間に確認される野鳥は約130種にも及ぶ。最近では、愛らしい姿で全国的に人気が高まっているエナガの亜種、シマエナガを目当てに訪れる人も多い。1年をここで過ごす留鳥だが、小さくて動きが素早いので見つけるのはなかなか難しいそうだ。

ウトナイ湖は周囲約9km、岸辺の低湿地帯にはヨシ、スゲ、ヒシなどが生え、その外側にはハンノキ林、更にコナラやミズナラの林が広がっている。林の中には湖岸にあるネイチャーセンターを中心に6本の自然観察路が敷かれ、二つの観察小屋もある。一つは環境省が作った「湖岸の観察小屋」、もう一つが苫小牧ハスカップ ライオンズクラブ(出頭万志子会長/34人)が2000年に建てた「草原の観察小屋」だ。

1981年、日本野鳥の会はウトナイ湖とその周辺の510haを日本初の「サンクチュアリ(聖域)」に指定した。その翌年には国指定の鳥獣保護区に、更に91年には湿地の保全に関する国際条約・ラムサール条約の登録湿地になり、調査・研究と保全の対象となった。サンクチュアリを支えるのは、賛助会であるウトナイ湖ファンクラブの会費や、さまざまな組織、団体、ボランティアによる支援と協力だ。苫小牧ハスカップ ライオンズクラブは観察小屋を建設して以来、さまざまな形でサンクチュアリの活動を支援している。

道の駅「ウトナイ湖」にある展望台から湖を一望。写真左の野生鳥獣保護センターの奥に広がる林の中に、ネイチャーセンターや自然観察路がある

今の湖がある場所は元々は海の入り江だった。3000年ほど前から砂嘴(さし)や砂丘が発達し、海と切り離されて淡水湖が形成され、一帯は勇払(ゆうふつ)原野と呼ばれる湿地帯になった。しかし、釧路湿原に匹敵するほどの規模だった広大な湿地は、干拓や都市開発などによって次々と姿を消し、現在はウトナイ湖と北側から流れ込む美々川(みみかわ)の周辺にのみ本来の姿を残している。

苫小牧ハスカップ ライオンズクラブの富田明久幹事は、日本野鳥の会の会長だった俳優の柳生博氏(現名誉会長)と懇談した際、ウトナイ湖について語っていた言葉をよく覚えている。
「(自身が住む)八ヶ岳で野鳥が見られるのは当たり前。工業地帯のすぐそば、上空を航空機が行き交う場所にたくさんの野鳥が生息する自然環境が残っているところに、ウトナイ湖の大きな価値がある」

2000年夏、クラブ・メンバーの手によって観察小屋を再建(写真提供/苫小牧ハスカップ ライオンズクラブ)

日本野鳥の会はこの貴重な環境を守ろうと苫小牧市と土地の借用協定を結び、新しい野鳥保護の形としてサンクチュアリを開設。全国から大勢のボランティアが集まって、活動の拠点となるネイチャーセンターと観察小屋を建設した。ネイチャーセンターにはレンジャーが常駐し、貴重な自然を多くの人に知ってもらう普及・教育と、野鳥の生息地である自然環境の保全を目的に活動している。

サンクチュアリ開設から20年を経た2000年、ボランティアが建てた観察小屋が老朽化で閉鎖されていると知った苫小牧ハスカップ ライオンズクラブは、結成10周年の記念事業としてその再建に取り組むことにした。10周年に会計を務めることになっていた加藤孝治さんは、雪の中で今にも倒壊しそうな小屋の様子を確認し、何とかしなければと強い使命感にかられたと言う。設計を担当した建設業の岡部喜代司さんと、建築板金を手がける加藤さんの2人を中心に、クラブ・メンバーの力を結集して工事を進めることになった。

2005年9月にはネイチャーセンターの外壁を補修。動植物への配慮から薬剤は使わず、板材の表面を焼いて自然劣化に耐えられるようにした(写真提供/苫小牧ハスカップ ライオンズクラブ)

建設工事は野鳥の繁殖期である初夏と秋の渡りの時期を避けて、7月末から8月初旬にかけて実施。暑さとヤブ蚊に悩まされながら、体力勝負の作業となった。ネイチャーセンターの駐車場から現場までの散策路には車両や重機が入れない。そのため、解体した小屋の廃材や建設資材の運搬は人力に頼らざるを得ない。リヤカーを引き、角材を肩に担いで、片道約800mの距離を運んだ。また、建設地は地盤が軟弱なため、地中に1mの穴を掘り古電柱を埋めて基礎を固めた。準備段階を含めておよそ20日間で、高さ3mの高床式の「草原の観察小屋」が完成した。

クラブではその後も観察小屋の補修や整備を続け、5年ごとの周年に合わせてさまざまな記念事業を実施してきた。サンクチュアリ側の要望を聞いて事業を計画し、これまでに案内看板の設置、木道やネイチャーセンター外壁の改修、観察路の照明設置、パンフレット作成などを行っている。

20年ぶりの大規模補修のために資材を運搬。自然観察路には車椅子でも利用出来るように一部に木道が設けられているが、道幅が狭いため一度リヤカーから木材を下ろして運ぶ

ウトナイ湖サンクチュアリには、札幌を始めとする道内、道外からバードウォッチングを目的とする人や観光客が訪れる他、苫小牧市民の散策コースにもなっている。自然観察路にはハスカップの小径、イソシギの小径などの名前が付けられ、湖に面したハクチョウのデッキ、マガンのテラスからは水鳥の姿が観察出来る。サンクチュアリを訪れる人は、散策しながら鳥の声を聞いて姿を探したり、観察小屋の細長い小窓から樹上の鳥を観察したりして、ウトナイ湖の自然と野鳥に親しむ。キタキツネの小径とシマアオジの小径の終点にある草原の観察小屋も、多くの人に利用されてきた。

2021年11月6日、苫小牧ハスカップ ライオンズクラブは、建設から20年余りで土台の腐食が進んだ観察小屋の大規模な補修工事を行った。ウトナイ湖では近年乾燥化が進んでおり、観察小屋の建つ場所の地面も乾き、周辺の木々が大きく育っている。20年前のようにぬかるみで難儀することはなかったが、再建の時と同様に資材運びには苦労した。今回も岡部さんと加藤さんが先頭に立って作業を進めたが、柱の入れ替えは本職の大工に任せ、メンバーは資材の運搬や廃材の片付けなどを担当した。新しくなった柱には動植物に害のない防腐剤を施し、後日、修復した看板を設置して作業を完了した。この補修事業には、ライオンズクラブ国際財団(LCIF)の地区およびクラブシェアリング交付金60万円を活用した。

早朝から夕方まで現場に立って補修工事の指揮を執った岡部さんは、「観察小屋には子どもたちもやってくる。これで安全に利用してもらえる」とほっとした表情を見せた。貴重な野鳥の楽園を守り、自然環境を大切にする心を育むために、クラブの支援活動は大きな役割を果たしている。

2022.01更新(取材/河村智子)