取材リポート 松江城の年末恒例行事
すす払いと天守閣の清掃

松江城の年末恒例行事 すす払いと天守閣の清掃

日本の城の象徴と言えば天守閣。正式には「天守」と呼ばれるが、明治時代に広まった「天守閣」という俗称が定着し使われている。現代でも見られる五重以上の天守閣は、織田信長が1579年に建造した安土城が最初とされている。ただし、それ以前にも似た形の建築物は存在していたと考えられ、起源そのものは不明だという。

現存する天守閣は大きく分けて4種類ある。江戸時代またはそれ以前に建築され、当時の姿を今に残す「現存天守」、当時の設計通りに復元した「復元天守」、当時と同じ場所にあるが、意匠や規模に推定のものがある、もしくは改変されている「復興天守」、そしてもともと天守がなかった、もしくはあったか不明な場所に作られた「模擬天守」だ。

1611(慶長16)年に完成した松江城は、日本に12しかない現存天守の一つである。1935年に国宝保存法によって国宝に指定されたが、50年の文化財保護法への法改正によって国宝から重要文化財に改まった。その後、市を中心に国宝指定への陳情や運動を続けてきたが、再指定は難航。しかし2012年、「慶長十六年」と記された祈祷札が2枚発見され、松江城の完成年が明確になったこと、また構造の分析が進み、優れた技法で建築されたと判明したことなどを理由に15年、国宝に返り咲いた。重要文化財になってから65年目のことだった。

松江城は徳川家康の孫に当たる松平直政が入城し、1638年から約230年にわたって松平家による藩政が敷かれた。こうした歴史背景から徳川の「葵」をクラブ名にしたのが、松江葵ライオンズクラブ(澤真吾会長/70人)である。全国に「葵」の名前を持つライオンズクラブは15あり、どこも同様に徳川家に縁がある地に結成されている。

こうした背景もあり、松江葵ライオンズクラブは松江城にまつわる事業を数多く行っている。2009年には、城の隣にある県庁の敷地での松平直政公のブロンズ像建立の中心となった。戦時下の金属供出で失われた像を66年ぶりに復活させたもので、松江開府400年祭・市制施行120周年事業として市や諸団体と共にクラブが尽力した。松江城を見上げるその勇壮な姿は、新たな観光名所となっている。

松江葵ライオンズクラブでは松江城のある城山公園の清掃を毎月第2日曜日の朝に行っている。クラブ結成から34年にわたって継続。公園だけではなく、天守閣内の拭き掃除なども行う。結成当時の地区スローガンであった「奉仕の心・明るい町」を継承し、観光客に楽しく散策してもらおうという思いで続けている事業だ。月によっては前述の松平直政像周辺も併せて清掃する。

そして、年に一度、年末に行うのが天守閣のすす払いだ。今年度も12月12日に実施した。例年は一般からも参加者を公募して一緒に行うが、昨年と今年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、クラブ・メンバーとその関係者に限定した。コロナ以前の19年は100人程度を募集する大規模な事業だった。天守閣への登閣料が無料になることもあって、大変な人気だったという。

すす払いでは長さ5mほどの竹の先に笹を取り付けた「すす梵天(ぼんてん)」を使用して外壁に付いた汚れを落としていく。クモの巣などを払うのが目的だ。あまり強くこすると外壁を傷つけてしまうため、力の入れ方をうまくコントロールする必要がある。また、見た目よりも重く、バランスを取るのが難しいので、扱うのにはコツがいる。腕の力ではなく腰を使わなければうまく操れない。慣れるまではなかなか大変だという。このすす払いは歳末の風物詩になっていて、多くのメディアが取材に訪れる。感染拡大がいったん落ち着いている時期だったためか、この日は多くの観光客が松江城を訪れており、すす払いの様子を物珍しげに眺めていた。

すす払いの後は天守閣に登り、乾いた雑巾で拭き掃除をする。メンバーは手分けして床、手すり、展示品が置かれているガラスケースなど、さまざまな場所をきれいにしていく。最上階を除いて城内は薄暗く、汚れも見落としやすいが、メンバーは隅々まで丁寧に作業を進めていた。松江城が国宝に再指定されてからは日常的に清掃が入るようになったため、観光客が増加していても比較的きれいな状態が保たれているという。

「国宝に再指定される前は今よりもずっと荒れていました。当時は当クラブの毎月の清掃が松江城の環境を維持するのにかなり寄与していたと思います。花見の季節などは大量のゴミが出て、本当に大変でした。国宝になってからは、そんなことがなくなりましたね。観光客も増えましたし、国宝になるとこんなに違うのかと思いました」とクラブ・メンバーの矢野敏明さん(元336複合地区〈中国・四国〉議長)は語る。

クラブ・メンバーが誇りを持って取り組むこの事業。当時の様子を現代に伝える国宝・松江城を美しく保ち、観光客に気持ちよく見てもらえる環境をクラブで作り続けてきた。2022年もクラブは毎月の活動を続けていく。今年こそ、新型コロナが収まり、観光客が以前のように戻ってくる日を、そして、年末のすす払いを市民と共に実施出来る日を、松江葵ライオンズクラブは楽しみに待っている。

2022.01更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)