取材リポート 子どもたちのための
本格グラウンド整備

子どもたちのための本格グラウンド整備

大分県南西部に位置する竹田(たけた)市。西は熊本県、南は宮崎県と隣接しており、周囲を阿蘇山、くじゅう連山など1000m級の山々に囲まれている。一級河川大野川の源流があり、湧水群では一日に数万トンと言われる湧出量を誇る。また、「おんせん県おおいた」をキャッチコピーとしている大分県だけあって竹田市にも温泉は多い。中でも「日本一の炭酸泉」と呼ばれる長湯温泉は、世界でも珍しい天然炭酸泉が湧き出ることでも有名だ。竹田市は炭酸泉の活用研究に端を発し、ドイツの温泉町バートクロツィンゲン市と友好姉妹都市になっている。同市の温泉施設「ヴィタクラシカ」には竹田市直入町の庭師による日本庭園が設置され、日本式建築の休憩所もあるなど、交流が盛んだ。

竹田市の人口は約2万人だが、高校が3校あり、中学校が6校、小学校が11校存在している。小中学校は人口に比して数が多く、小規模校が多いのも特徴だ。市の教育委員会では予算が限られており、学校の環境整備に十分に手が回らないところもあるという。竹田市の未来を担う大事な存在である子どもたちに、少しでも良い環境で勉学に励んでほしいと活動しているのが竹田ライオンズクラブ(甲斐正章会長/55人)だ。クラブでは毎年1校ずつ、市内の公立小中学校のグラウンド整備を行っている。グラウンドは定期的にメンテナンスをしなければ雑草が生えたり地面が硬くなったりして、子どもたちの思わぬケガにつながってしまう。しかし、行政で全てを賄うのは難しい。そこでライオンズクラブがその役目を買って出た。

クラブがこの事業を始めたのは50年以上前。市内有数の建設会社である髙山組社長であったメンバーの髙山曻次郎さんの発案だった。髙山さんが自らの会社の機材を持ち込み、メンバー一丸となって取り組んできた。髙山さんは2019年に亡くなったが、その後もグラウンド整備事業はクラブの伝統として根付いている。

8月ごろに市の教育委員会から学校の指定があり、それから10月の実施に向けて準備を進めるのが毎年のスケジュールだ。今年は市立竹田中学校のグラウンドを整備することになった。現在、クラブには建設業4社の経営者が在籍しており、どのように整備するか専門的な知識から計画を立てる。専門家がいるからこそ行える事業だ。竹田中学校は閉校した大分県立竹田商業高等学校の跡地へ2008年に移転してきたため、中学校にしてはグラウンドが広い。10月8日から10日にかけて整備することを決めた。

今回はトラック4台分の黒土を用意した。土だけで10万円以上かかるが、全てクラブの負担だ。建設業のメンバーを中心にトラクター、ロードローラー、油圧ショベルなどの重機を投入。その他のメンバーも芝刈り機やグラストリマー(電動草刈り機)などを持ち込んで作業する。黒土をグラウンドにまき、トラクターでかき混ぜる。レーキやトンボを使って土をならしていき、ロードローラーで整える。土が平らになっているかを測量し、最後に車の後部につけたブラシで表面をきれいにして完成させる。

並行してグラウンドの周囲の草刈りも行う。特にグラウンド部分に入り込んでしまっていた芝草は中学校側にとっては長年の懸念事項だったという。今回は主に油圧ショベルで草を少しずつ剝ぎ取り、車が作業しにくい細かいところは人力で除去していく。凹凸によって子どもたちがケガをしないように根っこからしっかりと取り除く必要があるため、丁寧に時間をかけて草を剝がしていった。剝がした草の量はトラックがいっぱいになるほどだった。

放っておくとどんどん荒れてしまうグラウンド。以前に実施した学校の中には状態が悪く、土の入れ替えに苦労したところもあるという。学校にもよるが、1日で終わることはほとんどない。金銭的にも労力的にも大変な事業だが、メンバーは楽しんでやっているという。

「子どもたちのために行う奉仕活動としては、こういう形もあるということを全国のライオンズクラブに知ってもらいたいですね。なかなか大変な事業ではあるので、簡単には言えませんが、建設業の方がいらっしゃるクラブは多いと思いますし、ニーズがあるなら取り組んでみてほしいです」
と甲斐会長は語る。子どもたちが喜んでいることが伝わってくるからこその思いだ。
「整備した学校の子どもたちからお礼状が来るんですよね。それがうれしいですし、子どもたちのためになっているという実感が得られるので、メンバーはみんな前向きに取り組んでいます。毎年行っていることなので、自然と役割分担も出来ていますし、それぞれが自主的に考えながら行動しています」

竹田ライオンズクラブは他にも日露戦争のエピソードから軍神とされた広瀬武夫命を主祭神とする広瀬神社の清掃活動や、公共施設のトイレ掃除、障害者施設への農産物寄贈などを行っている。クラブでは地元に密着し、地域の人に喜ばれる奉仕活動を意識している。その中心となっているグラウンド整備。これからも子どもたちが元気いっぱい走り回れる環境を作り上げていく。

2021.11更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)