取材リポート 田んぼいっぱいの稲を刈る
大野小学校食育事業

田んぼいっぱいの稲を刈る大野小学校食育事業

日本人の主食と言えば米である。一人当たりの年間消費量は53.5kg(2018年)。月に換算すれば約4.5kgの米を消費している計算だ。炊きあがりのご飯は水分を含んで約2.2倍の重量になるというから、月に約10kgのご飯を食べている。茶わん1杯を200gで計算すれば50杯分、1日当たり約1.7杯を消費している計算になる。まさに国民食であり、日本人の生活に欠かせない食糧である。

その米がどうやって出来ているのか、それを食育の一環として子どもたちに伝えようと取り組んでいるのが青森うとうライオンズクラブ(手間本和守会長/37人)だ。毎年、青森市立大野小学校の5年生を対象に春の田植えと秋の稲刈りの体験事業を行っている。

米づくりは種の準備から収穫、精米までに半年強かかる。地域によって時期は変わるが、まず3月ごろに種の選定が、4月に苗を作る作業が行われる。並行して土を耕し、肥料をまいて田んぼを作り上げる。その後、田んぼに水を入れ、ようやく5月半ばに田植えだ。そこから水の管理や除草、害虫対策をしながら稲を育てていく。稲がある程度育った7月ごろには田んぼの水を抜いて稲の根を空気に触れさせる「中干し」という作業を行う。これによって土の中に酸素を供給し、メタンガスや硫化水素などの有害ガスを抜くことが出来るという。

こうして稲が育ち稲穂が実ると、9月の終わりから10月初めに収穫作業が行われる。今年も10月4日に大野小学校5年生による稲の刈り取り体験が行われた。この食育事業は、農業を営んでいるクラブ・メンバーの泉夏樹さんの田んぼの一部を借りて実施している。300坪ほどの田んぼを、食育事業用に整備。通常の農家なら10俵(約600kg)を見込める規模だが、子どもたちが田植えや稲刈りをしやすいように4俵分程度に抑えて稲を育てているという。

クラブがこの事業を始めたのは8年前の2014年のこと。子どもが大野小学校に通っていたメンバーが田んぼを提供。以来、毎年実施し、今年で9年目となる。そのメンバーは残念ながら退会してしまったが、同じく大野小学校に子どもが通っている泉さんが田んぼの提供も含めて引き継いだ。

今年は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、田んぼにロープを張り、クラスごとに稲刈りをする場所を区切った。また、田んぼまでの移動もクラス別に変更し、4クラスを2台のバスでピストン輸送した。

小学5年生は社会の授業で稲作について学ぶ。しかし、教科書の中だけではなく、実際に田んぼで育っている稲に触れることで、毎日食べている米がどうやって作られているか知ってほしいとクラブでは考えている。より深く学んでもらおうと、昨年からは精米所の見学も実施している。子どもたちは実際にもみの状態の米に触れ、古い精米機と新しい精米機の違いなどの説明を受ける。巨大な施設に子どもたちは感嘆の声を上げ、先生たちも興味津々だ。

それが終われば、いよいよ収穫作業。鎌の扱いに関する諸注意を受けた後、2人1組で稲を刈っていく。クラブ・メンバーはそのサポートだ。先生たちと共にケガがないよう注意を払う。子どもたちは元気いっぱいで、勢いよく稲を刈っていく。じゅうたんが敷かれたように黄金色一色だった田んぼの土肌がどんどんあらわになっていった。こうしてみるみるうちに刈られ、積み上がっていく稲を運び、一カ所に集めるのもメンバーの仕事だ。

収穫した米は見学した精米所で精米され、学校を通じて子どもたちに手渡される。持ち帰る米は1人当たり2kgずつ。後日、子どもたちから送られてくるお礼の手紙には「自分たちで収穫した米を食べて食べ物の大切さを感じた」という感想も多い。

子どもたちはこの事業を本当に楽しみにしているという。以前は田植え中に転んでしまった子どもがそのまま泳いで泥だらけになり、先生に「帰りのバスどうするの!」と怒られるほどはしゃいでしまうこともあった。特に今年はコロナの影響で、外で遊ぶ機会も減っているからだろう、稲を刈る子どもたちの心の底から楽しんでいる様子が見て取れた。

今まで、この事業を中止したことはない。以前、天候不良による2度の延期で中止もやむなしと思ったこともあったが、「何としてもやってほしい」という学校側の要望で、スケジュール調整を重ねて実施にこぎつけた。今は田植えや稲刈りを経験したことのない先生も増えているため、先生にとっても良い経験になっているのだという。学校生活の思い出の1ページとして、青森うとうライオンズクラブの食育事業はしっかりと定着している。

2021.11更新(取材・動画/井原一樹 写真/田中勝明)