取材リポート
真夏の暑さも吹き飛ばせ!
元気みなぎるカヌー教室
香川県・坂出ライオンズクラブ
#人道支援
午前中から30度を超える暑さとなった8月1日の日曜日、坂出市内の府中湖で坂出ライオンズクラブ(神渡立到会長/40人)が主催するサンライズカヌー教室が開催された。地域の特別支援学校などに通う障害者と保護者の方を対象に、カヌーに乗って自然と触れ合い楽しい時間を過ごしてもらう恒例の催しは、今回で24回目を迎える。
会場の府中湖は、雨が少なく大きな河川のないこの地の水不足を解消するために1967年に作られた人工の湖。1993年に東四国国体が開かれた時に、ここがカヌー会場となったことを機に全国有数のカヌー競技場となった。実は、取材前日まで東京2020オリンピックのカヌー競技に参加するハンガリーの選手団がここで合宿をしていた。また、その後開催されるパラリンピックの新種目であるカヌー競技男子バーシングル200m(運動機能障害VL3)に出場する今井航一さん(広島市出身)もこの湖を拠点に練習を重ねてきた。そんなカヌーを通じて世界を感じることの出来る絶好の舞台で、気軽にカヌーに親しむことが出来るのがこの教室だ。実技指導にはカヌー研修センターの指導員が当たり、ライオンズのメンバーはサポート役に徹する。
教室に先立って開かれた開校式の後、指導員から子どもたちにも分かりやすいように工夫されたカヌーの説明があった。例えば、「ボートとカヌーの違い」のパートはこんな感じだ。
「ボートは後ろ向きに進んでいくけれど、カヌーは自分が向いている方向に進んでいきます。だから『カヌーは前向きな乗り物』と覚えてください」
その後、船体に固定されたオールを使って進むボートに対し、カヌーは独立したパドルを操って進むと説明があり、そのパドルの扱い方が披露された。
新型コロナの影響か、例年に比べ大幅に少ない7人の参加となったが、経験者が大半を占めた。中には今回で4回目となる参加者もいる。軽い準備運動の後、各自が乗りたいカヌーを選んだ。カヌーは初心者でも比較的容易に操ることが出来るレジャー用で、1人用と親子で乗れる2人乗り用がある。
カヌー置き場から湖に突き出した桟橋までカヌーを運び、参加者が乗るまでカヌーを押さえ、出発をサポートする役をライオンズのメンバーが担う。参加者の多くが初めてではないとはいえ、久々の体験なのでこぎ出しに多少は苦労するのかと思いきや、皆が皆拍子抜けするほどあっと言う間にすーっと湖に滑り出していった。初めてだという参加者もパドルの扱いにしばらくてこずっていたが、指導員が付きっきりでアドバイスをすると、勘をつかんだのか自力でカヌーを進ませていた。カヌーの操船は往々にして子どもの方が早く身に着くという。この活動を始めた頃、ライオンズのメンバーもカヌーに挑戦したが、何度も湖に落ちる人がいた。大人の多くはパドルを必要以上に水の中に入れる傾向があるため、重心がずれてバランスを崩すしやすい。この日の参加者はうまくパドルを操って湖に落ちるようなことはなかった。
サンライズカヌー教室が始まったきっかけは、府中湖で開催されていた別のカヌー教室だった。子どものうちからカヌーに親しんでもらおうと坂出市カヌー協会が年に2回開いていた親子カヌー教室に、坂出ライオンズクラブも協賛という形で関わっていた。毎回50人近くの人が集まるにぎやかなこの催しを見て、あるライオンズ・メンバーが「障害者向けに開催することは出来ないだろうか?」と提案し、カヌー協会へ協力を呼びかけたのが始まりだ。
クラブではちょうど、障害を持った子どもたちに自然と触れ合って楽しんでもらえるような場を提供出来ないかと、模索していたタイミングであった。早速、協会の協力を得て、障害者の親子を対象としたライオンズ版のカヌー教室が実現することになった。
親子カヌー教室で勝手はおおよそ分かっていたのでライオンズとしても取り組みやすかったが、以前は協賛として関わっていたためメンバーが直接体を動かすようなことはなかった。これが主催となると、より主体的に関わらなければならなくなる。冒頭で説明したようなカヌーの上げ下ろしや乗船のサポートの他、参加者に万が一のことがないよう湖岸から逐一監視をしたり、休憩の際に用意してきた飲みものを渡したりする役割もライオンズが担うことになる。
湖面を進む参加者の周辺には常にモーターボートが控え、終始カヌー研修センターのスタッフが参加者の動きをチェックする体制も整えている。以前は船舶免許を持っているメンバーもモーターボートで監視を行っていたが、最近は監視に慣れたセンターのスタッフに任せ、ライオンズのメンバーは主に陸から参加者の様子を見守るようになった。
障害者は何かに夢中になるとそのことに集中しがちなので、熱中症などのリスク管理は健常者以上に周りが注意しなければならない。開校式が始まる前に参加者に問診を行っているのも、同じ理由からだ。ライオンズのメンバーには医師もいるので、参加者一人ひとりの健康状態をチェックした上でカヌーに乗船してもらうようにしている。
最高の環境で指導を受けながら安心してカヌーを楽しめるとあって、毎年30人前後が参加する人気の催しだったが、このところ様子が変わってきた。コロナ禍の中開催した昨年は今年と同様に参加人数が少なかったが、減少傾向にあることについては思い当たる点があるという。
「以前はカヌーに乗る以外に、参加者みんなで流しそうめんを楽しんでいました。メンバーが山から切り出してきた竹を割って流し台を手作り。そうめんの他にフルーツを流すと子どもたちは大喜びでしたよ」
と、あるメンバーは話す。他にもカヌーの競争を行い、成績優秀者にはトロフィーを渡していた。流しそうめんはその後お弁当に変わったが、それすらもコロナ禍で中止せざる得ない状況になっている。子どもたちとの交流の機会が著しく減ってしまったため、最近ではカヌーの上げ下ろしのタイミングで意識的に声をかけるように心がけている。「君うまいね」などと話しかけると子どもはとても喜んでくれる。関係性が一気に近くなり、仲良くなれる。ライオンズにとってかけがえのない瞬間だ。
参加人数と交流機会の減少が目下の課題。カヌーを楽しんで帰ってもらうだけでは寂しいので、クラブではカヌーを降りた後も参加者を引きつけ、更に楽しんでもらえる工夫を検討していく考えだ。だが人数の少なさは、参加者にとっては逆に良い面もあったようだ。監視員の目が届きやすいので、いつもは行かない競技用のコースの先まで進むことに。出発した桟橋が点に見えるほどの遠出だったが、皆で元気よくパドルを操り、のんびりと思い思いの時間を過ごしていた。
2021.09更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)