取材リポート 総合運動公園来場者を
花壇で出迎え

総合運動公園来場者を花壇で出迎え

岩手県北上市の南部に、1973年に都市計画で整備された大堤公園がある。冬季には約1000羽の白鳥が飛来する大堤にはキャンプ場もあり、市民の憩いの場として親しまれてきた。

1997年、その大堤公園を拡張する形で陸上競技場、総合体育館などを有する北上総合運動公園が完成した。岩手県で開かれた99年の全国高等学校総合体育大会(インターハイ)の主会場として計画・建設されたものである。インターハイでは総合開会式、陸上競技などが行われた。2011年にも再度インターハイの会場として使用され、16年には46年ぶりに岩手県で開かれた国民体育大会「希望郷いわて国体」の会場となるなど、県内屈指の陸上競技場である。17年以降はサッカーJ3リーグに所属するいわてグルージャ盛岡の公式戦が年に数回行われてきた。今年も11月に2試合が予定されている。01年に「スポーツ都市宣言」をし、アジアマスターズ陸上競技選手権大会や北上市ラグビーフェスティバルなどスポーツ大会やイベントを誘致してきた北上市の顔とも呼べる存在である。

こうして北上市民だけでなく、県民に愛されている北上総合運動公園の入り口には「ウェルカムボード」がある。英語と中国語、韓国語で「ようこそ北上市へ」と書かれた高さ3mほどの看板だ。このウェルカムボードを寄贈したのが北上ライオンズクラブ(田鎖智也会長/83人)である。

北上総合運動公園の完成に際し、北上ライオンズクラブとして何か出来ないかと検討して寄贈を決めた。これが好評だったこともあり、16年の国体の際にはクラブ結成50周年記念事業としてボードを一新した。海外から訪れる人が増えてきたため、より多くの人に親しんでもらおうと上記のように各国語の表記を入れた。更に近日実施されるイベントを掲示出来るスペースを作り、より多くの人に興味を持ってもらえるよう工夫をした。

このウェルカムボードを寄贈してから、クラブが実施している事業がある。それがボード前に花壇を作る事業だ。寄贈の際、せっかくなら金銭奉仕だけではなく、メンバーが労力奉仕する事業も出来ないかという意見が出たのが発端。ウェルカムボードに加えて、咲く花が移り変わる花壇でも公園を訪れる人に歓迎の気持ちを伝えようと、5月から11月頃にかけて実施している。花の苗は毎年、北上市の花いっぱい運動推進協議会から提供してもらったものを植えている。

花いっぱい運動は、花を植えることで町の景観を良くすることを目的に長野県松本市で始まった運動だ。その後全国に波及し、北上市でも1970年の岩手国体をきっかけに取り組まれるようになった。選手団を花いっぱいの町で出迎えようという目的で始まったこの運動は、その後も市民や団体によって継続されている。北上ライオンズクラブのウェルカムボードの花壇もまさにこうした目的に沿ったものだ。

花の苗は花いっぱい運動推進協議会から提供されるが、レイアウトをどうするかを考えるのはクラブの市民環境委員会。今年は2100株の提供を受け、5月から活動を開始。最初は花壇の土を耕運機で掘り起こし、石灰や肥料をまいて土の状態を整える。植え方も見栄えが良くなるよう、整列させて植えるのではなく、列ごとに互い違いに植える千鳥植えを採用した。これにより、花が成長した際に地面が見える部分が減り、まさに花いっぱいの花壇に見えるのだ。月に1〜2回、クラブで集まって手入れをするが、実は普段から気にかけているメンバーが多い。雨が少ないと思えば水をやりにいったり、通りがかった際に雑草を抜いたりとクラブ事業時間外でもちょこちょこ作業をしているのだという。

「これだけ手入れしているから花壇がきれいに保たれているのだと思い知らされた」という新会員もいる。慣れないうちは作業の翌日に腰が痛くなるようなこともある。だが、例会とはまた違った形でのコミュニケーションが取れるため、新会員にとっては先輩と打ち解ける良い機会となっている。作業を通してクラブが結束する継続事業だ。

総合運動公園のウェルカムボードが好評であったこともあり、19年には55周年記念事業として新たな看板を作成した。場所は北上が誇る観光地である展勝地(てんしょうち)だ。150種類の桜が楽しめるなど、東北有数の桜の名所として知られ、「さくらの名所100選」「みちのく三大桜名所」に数えられているが、入り口に看板がなかったため、クラブで寄贈を決めた。残念ながら新型コロナウイルスの影響で昨年のさくらまつりは中止になったが、今年は内容を変更して実施されたさくらまつりで多くの人の目に留まったことだろう。

北上総合運動公園でもイベントの延期や中止が相次いでいる。花壇整備は例年であれば北上レオクラブのメンバーと共に行うのだが、やはりそれもコロナの影響を鑑みてクラブ単独での実施とした。こんな時代だからこそ、総合運動公園を訪れる人の気持ちが少しでも明るくなるようと、クラブでは丹精込めて手入れしている。

2021.09更新(取材・動画/井原一樹 写真/田中勝明)