歴史
青少年の未来を守る
薬物乱用防止教育
1997年~
青少年健全育成は、数ある奉仕分野の中で日本各地のライオンズクラブが長年にわたって最も力を入れてきたものだ。そしてその活動の一つとして、薬物乱用防止活動がある。薬物乱用を防ぐ方策には主に①啓発活動、②警察による取り締まり、③乱用者対策が挙げられ、ライオンズが担うことが出来るのは①。薬物を使ったことがない青少年が、生涯薬物にかかわることのないように、自分で自分を守れるように教える重要な役割である。そして、青少年を薬物から守るライオンズの取り組みを一つの大きなうねりに昇華させたのが、1997年に330-A地区(東京都)のライオンズクラブにより生み出された「薬物乱用防止教育認定講師制度」である。
ライオンズクラブの奉仕活動として青少年の薬物乱用防止が一気にクローズアップされたのは1982年。エバレット・J・グラインドスタッフ国際会長が、会長プログラムの一つにこれを掲げたことからだ。この頃会長の出身国であるアメリカやヨーロッパなどでは青少年の薬物乱用が深刻な社会問題となっており、それが世界中の若者に広がることが危惧されていた。会長は、「薬物乱用のすさまじい渦は、地域社会から健全な青少年を奪っていく。私たちの未来をおびやかすこの敵と戦うために、青少年に夢を与え、共に薬物の悪魔に挑んでいこう」と全世界のライオンズによる薬物の危険性の周知徹底を呼び掛けた。これを受けて日本でも各地のライオンズクラブが薬物追放を訴えるパレードを行ったり、パネル展示をしたり、リゾート地に横断幕を設置したりと、さまざまな取り組みが行われた。
薬物乱用防止教育認定講師制度が生まれる発端となったのは、東京鶯谷ライオンズクラブが1994年から地元の中学校で実施した薬物乱用防止教室だ。卒業を控え人生最初の帰路に立つ3年生を対象に、薬物の専門家を講師に招いて講義とビデオによる教室を行っていた。しかし年々開催を希望する中学校が増え、講師が足りなくなってしまう。そんな折、専門家から「ライオンズクラブの皆さんは奉仕の精神を持った立派な社会人です。あとは薬物の基礎知識があれば、子どもたちに『君たちの人生に薬物は百害あって一利なし』だと教えられるはず」と進言を受ける。言われてみればその通り。目からウロコである。ライオンズ・メンバーが講師となり青少年に薬物乱用防止を教えるという大きな可能性を秘めた構想が一気に形を成してくる。そして厚生省と警察庁所轄の公益財団法人、麻薬・覚せい剤乱用防止センターの協力を得て、ライオンズクラブとの共同認定という形で薬物乱用防止教育認定講師制度がスタートしたのである。
認定講師になるためには、薬物乱用防止教育認定講座を受講する必要がある。講座は1日間。もちろん、わずか1日で薬物に関する膨大な知識が身に着くわけではないが、ハードルを下げることでより多くのライオンズ・メンバーがこの取り組みに参加出来るようにと考えた。教室は1コマの授業時間内で行うことを想定し、約20分間のビデオ上映の後、講師による始動を20分ほど設けるのを基本の構成とした。地元のおじさん、おばさんであるライオンズが、薬物に手を出して一生を台無しにしてほしくないと話をすることで、地域の大人が見守っていることが子どもたちに伝わる。それまでどこか単発的、表面的な印象が否めなかった薬物乱用防止活動だが、この制度ではライオンズ・メンバーが主体となって地域や学校にがっちりと食い込む手応えがあった。「これこそ我らが推し進めるべきもの」という意識が生まれ、取り組みは全国に波及していった。
受け入れる学校側も変わっていった。当初はライオンズクラブが薬物乱用防止教室の開催を打診しても、「薬物の話なんかして寝た子を起こすことになるのではないか」と、いぶかしむ学校もあった。しかし実施した学校での評判が伝わると、開催を希望する学校は増えていった。
広がりと共に、開催側のバリエーションも生まれた。例えば広島フェニックス ライオンズクラブは、大学生の認定講師を誕生させた。小中高校生だけでなく大学生に対しても薬物の危険性を伝える必要性を感じていた時、いっそ学生を講師にしてはと思いついたのだ。学生講師が小中学校に出向して教室を開催したところ、年の近いお兄さん、お姉さんによる授業は子どもたちに大好評だった。学生講師はまた、自分たちの大学や友人らにも良い影響をもたらすだろう。
薬物乱用防止教育認定講師制度はその有効性が認められ、2006年に内閣府、厚生労働省、警察庁、文部科学省の後援名義使用許可が下りた。翌07年には日本武道館で、同制度の創設10周年と、麻薬・覚せい剤乱用防止センター創立20周年を記念して薬物乱用防止全国大会を開催。国連薬物犯罪事務所の事務局長による基調講演や、日本のライオンズの各複合地区代表による薬物乱用防止教室の実施報告などが行われた。更に10年には警察庁からライオンズクラブの八複合地区ガバナー協議会に書簡で、全国のクラブが開催している薬物乱用防止教室の拡大を求める要請が寄せられ、同時に警察庁から各都道府県警察本部に制度への協力を要請する通達が出された。
認定講座が誕生してからの24年間で受講者は延べ約7万人に上った。現在約1万5000人の講師が全国各地のライオンズクラブに在籍している。そのうち約1200人が学校で教室を開催し、2019年度には年間40万人の小中高校生が受講した。
2021.09更新(文/柳瀬祐子)