取材リポート
故郷を愛する心を育み
夢を大切にする七夕飾り
高知県・大方ライオンズクラブ
#青少年支援
願い事を書いた短冊を飾りつける七夕行事を、地域の活性化と子どもたちに夢を持つ大切さを知ってもらう取り組みに発展させたのは大方ライオンズクラブ(小笠原武会長/23人)。「あの子はどんな夢を書いているかな!七夕飾りでおもてなし」と題したこの活動は今年で8回目を迎える。
黒潮町内の小学校と保育所を対象に、園児や児童、先生・保育士にも短冊に夢や願い事を書いてもらい、ライオンズが用意した笹に飾り付けてもらうというものだ。展示場所は町の人々が日常の足として利用している公共交通機関、土佐くろしお鉄道の駅。利用客に季節感を味わってもらうと共に、短冊に書かれた子どもたちの夢や願い、子どもたちに向けた先生や保育士さんたちの思いを見てもらうのが狙いだ。また、子どもたち自ら短冊に書く作業を通じて夢や願いを持つ大切さを知ってもらうこと、自分の書いた短冊を見た人が笑顔になり、結果として地域社会の活性化につながっていくと実感してもらうこと、ひいては故郷に愛着を持ってもらうきっかけになることを、クラブは期待している。
笹は12日間展示され、人々の目を楽しませているが、昨年からのコロナ禍でこの活動はさまざまな部分で変更を余儀なくされた。コロナ禍以前は、駅に笹を設置しておけば、各小学校の子どもたちが短冊を取り付けに来てくれた。しかし昨年からは新型コロナウイルスの感染予防策として、笹を学校や保育所に一度預け、短冊や飾りを付けてもらったものを後日メンバーが回収し、展示するという流れに変わった。
今年も、6月21日の月曜日に伐採した笹を、翌火曜日に八つの小学校と四つの保育所に届け、25日の金曜日に引き取って展示の準備を行った。展示会場は駅から黒潮町本庁と佐賀支所の2カ所に変更となり、6月26日から7月7日の七夕当日まで展示された。
大方ライオンズクラブが活動する黒潮町は高知県の西南、花きを始め農業が盛んな大方町と、土佐カツオ一本釣り漁業で知られる佐賀町が合併して平成18年に誕生した町だ。太平洋に面した砂浜を裸足で走る「シーサイドはだしマラソン」が行われる他、砂浜そのものを美術館に見立てた砂浜美術館では、キャンバス代わりの白いTシャツが列になってたなびく「Tシャツアート展」などが開催され注目を集めている。その一方で、1万782人(2021年4月30日現在)の人口は毎月15人ペースで減少するという厳しい状況にあり、クラブは黒潮町を元気な街にするべく活動を続けている。
そんな黒潮町で、クラブが七夕飾りの催しを始めたのは4年前の庁舎移転がきっかけだった。中高校生らが通学に使う土佐くろしお鉄道特急停車駅の一つ、土佐入野駅前には町の庁舎があった。それが移転することになり、駅前のにぎわいが失われてしまうことが懸念された。ライオンズクラブで何か出来ることはないかと検討した結果、七夕飾りに着目。子どもたちに大勢参加してもらえれば、土佐くろしお鉄道を活気付けることが出来、結果として町も元気になると考えて一からイベントを作り上げた。
最初は笹の伐採から。手頃な大きさの笹竹を必要な分だけ山から伐り出して来て、枝を払って整える。笹の葉が長く青々としていられるよう、根元を水に浸けておく。東西に長い地形の黒潮町には、土佐入野駅の他にももう一つ特急が停車する土佐佐賀駅があり、この2駅を笹の展示会場とした。ライオンズ・メンバーは短冊の飾り付けの前に駅に集合し、駅及び周辺の清掃を済ませておく。こちらも飾り付けと並んで大事にしているライオンズの活動だ。
今年の展示会場は駅ではなく庁舎となったが、会場をめぐってはちょっとしたハプニングがあった。展示会場の一つに予定していた黒潮町本庁がコロナのワクチン接種会場に指定されたため、一定期間、笹の展示が出来なくなったのだ。メンバーは急いで代わりとなる場所の確保に奔走。幸い、昨年保育所の分の笹を飾らせてもらった道の駅から「今年も展示をしてもらえる?」と声がかかり、今回も一時的にスペースを借りることが出来た。観光情報センターとして機能している場所なので、駅や庁舎とはまた違う人たちが立ち寄る。七夕飾りがあることで少なからずにぎわいが生まれていたのは確かなようだ。
短冊に書かれた子どもたちの夢は毎年クラブで集計し、ジャンル別に分けてその年の傾向をまとめて学校に報告している。その内容を見ていくと、子どもは大人が考えている以上に世相に敏感なことが分かるという。昨年は「コロナウイルスに負けない」が85枚と多く、豪雨災害などの報道が目につく昨今を鑑みてか、家族や仲間への「優しさ」という言葉が目についた。
今年の短冊も引き続きコロナに関連したものが多く、「コロナウイルスに負けない」が126枚と昨年より更に増加。なりたい職業では初めて「声優」が登場した他、「ペットを虐待しない・捨てないで」や「人権・差別」の言葉に関心を示す短冊が目立つ結果となった。
七夕飾りの活動が始まった当初、参加人数はわずかだったが、2019年には100人近くが集う大きなイベントに成長した。ライオンズのメンバーからすると孫のような年齢の子どもたちが一生懸命笹に短冊を結びつける様子は、何度見てもほほ笑ましい。笹を預ける方式となったことで、そんな光景を展示会場で見ることはなくなったが、コロナ禍が収まった後は以前の形に戻せるかを学校や保育所、土佐くろしお鉄道などと協議を重ねていくという。
あるメンバーは土佐入野駅で耳にした「私たちも小さい頃ここで短冊を書いたね」と話す中高生たちの会話がとても励みになったという。形は変わっても、小さな頃の夢、故郷を愛する心を育む取り組みの火は消さずに守り続けてほしい。
2021.8更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)