フォーカス 地域の困りごとに向き合う
こども食堂とフードバンク

地域の困りごとに向き合うこども食堂とフードバンク
こども食堂の弁当配布に集まる親子の姿を見守り、近況を語る母親の言葉に耳を傾ける丸茂さん

昨年9月に立ち上げた「フードバンクM・高崎」には、経済的に困窮している地域の方々から多くの相談が寄せられます。先週は10代の女性から「昨日から何も食べていない」という電話があり、昼時に面会に来てもらって一緒に昼食を食べ、数日分の食料やお菓子を渡しました。4人の子どもを抱えたひとり親や、コロナ禍で収入が減った人、年金受給日まで食料がもたないという人、外国籍の人も来られます。かなり切迫した様子が見られた人に、その場でおにぎりを作って渡したこともありました。

社会福祉法人みどの福祉会が地域貢献事業を始めたのは、今から6年前です。2017年の社会福祉法改正で社会福祉法人に公益的な取り組みを実施する責務がうたわれました。それに向けて、福祉制度のはざまで困っている人のために貢献しようと始めたのが、家庭の事情で塾に通えない子の学習支援です。それから次々に見えてきた地域のニーズに応えて、こども食堂、フードバンクなど活動を広げてきました。

コロナの影響でこども食堂では現在、デイサービスセンターで調理した弁当を配布。丼物は子どもたちが食べやすいと大好評

無料で学習支援を行う「みどの学習クラブ」はひとり親世帯の小学4年生以上を対象に、大学生ボランティアが一対一で勉強を教えます。ひとり親家庭では親が勉強を見てあげたり、宿題を確認したりする余裕がないことが多いので、少なくとも宿題はしっかり見るようにしました。多い時で7人、今は4人ぐらいが通っています。始めた頃から来ている子は中学生になって、勉強に励む姿も見違えるようになりました。

学習クラブの勉強が終わって親が迎えに来るのは、ちょうど夕食の時間帯です。「ここで一緒にごはんが食べられたらいいね」と話したことから、こども食堂が始まりました。月1回の「まんまる食事会」は、学習クラブに通う親子だけでなく地域の誰もが参加出来る食堂です。みどの福祉会が運営する新町デイサービスセンターのホールに机を並べ、みんなでごはんを食べ、親同士で語り合える交流の場にもなりました。新型コロナの影響で昨年春からはテイクアウト方式に切り替え、大学生などのボランティアの手を借りながら毎回50人分のお弁当や食料を配っています。

始めた頃には財源がないので苦労しましたが、2年目からは農家さんがお米を寄付してくださるようになりました。最近は食品ロスを減らそうという企業からの提供も増えて、食材のほとんどを寄付で賄えるようになっています。「こども食堂」は2012年に東京都内の青果店から始まり、全国へと広がりました。私がこども食堂を始めた16年には群馬県内に4カ所だけでしたが、今は40カ所です。全国には現在、約5000カ所のこども食堂があります。それでも、まだまだ足りない。各地のこども食堂をつなぐNPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」が目指しているのは、全国2万の小学校学区に一つのこども食堂が出来ること。子どもが一人で来られるようにするには、歩いて通える距離にあることが必要なんです。

ここ数年、こども食堂は大きな注目を集め、企業や団体による社会貢献活動の支援先に選ばれることが増えています。そんな中で、全国のこども食堂の共通の悩みになっているのが、運搬の担い手不足です。調理や配膳のボランティアは十分でも、企業などから寄付された物品を運ぶ人手が足りない。運搬に協力してくれるボランティアがいれば、どのこども食堂も助かると思います。

デイサービスセンターの一角が、フードバンクの貯蔵スペースになっている

学習支援やこども食堂の活動を通じて地域の困りごとを受け止める中で、昨年春頃からは「明日のお米がない」「出産を控えているが粉ミルクが買えない」といった相談が寄せられるようになりました。一方で、こども食堂を支援したいという企業や団体は多く、食品だけでなく日用品などの寄付もたくさん集まってきた。フードバンクを始める前から困窮した方への食料支援は行っていましたが、実際に「フードバンクM・高崎」の看板を掲げると、地域には困窮する人がこんなにいるのかと思い知らされました。

日本人はお米さえあればなんとかなる、と思っていましたが、中には「炊飯器がない」「ガスが止まっている」という人もいます。こうした人にはそのまま食べられる缶詰などが必要です。就労支援が必要な人、生活保護を受けた方がよいと思う人もいて、日々そうした人の相談に向き合っていると、数日分の食料を渡すだけでは何の問題解決にはならないのではないか、と葛藤を覚えることもあります。フードバンクの中には、提供先を個人ではなく施設やこども食堂など団体に限っているところもありますが、私はやはり、本当に困っている個人に手を差し伸べられるようにしたいと思っています。

SDGs(持続可能な開発)を念頭に地域貢献活動を進める丸茂さん。「制服バンク」によるリユースもその一つだ

私たちが行っている地域貢献活動には他にも、ひとり親を対象に子どもの進学資金の貯め方を学んでもらうセミナーや、相談に出向けない人の元へ研修を受けたボランティアを派遣する家庭訪問型子育て支援、そして「制服バンク」があります。制服バンクは、「高校の制服を用意するのが難しい」というシングルマザーの相談が舞い込んだのがきっかけです。知人に話すと伝言ゲームのように人から人へ伝わって8着の制服が集まり、同時に同じ悩みを持っている人が多いと分かって、「制服バンク」と名付けて提供を呼びかけました。新聞に取り上げられたこともあって、制服だけでなくジャージやランドセルなどがたくさん寄せられました。会ったこともない人のために、きちんとクリーニングに出して届けてくださる皆さんの優しさに感動しています。

私は大学で地域福祉を学ぶ学生にお話しさせてもらうことがあるのですが、学生たちには「誰か一人が困っているという声を聞いたら、その後ろには声を上げられないまま同じように困っている人たちがいる。まずは声を上げた一人にしっかり向き合おう」と伝えています。

2021.07更新(取材・撮影/河村智子)

まるも ひろみ:神奈川県横浜市生まれ。社会福祉法人みどの福祉会の新町デイサービスセンター・センター長、地域貢献事業部代表。保育士・幼稚園教諭・介護福祉士・介護支援専門員。横浜市の児童養護施設、県中央児童相談所一時保護所に勤務した後、夫の豊さん(多野藤岡ライオンズクラブ)が理事長を務めるみどの福祉会で、ゼロ歳児から高齢者までを見守る福祉の現場で働く。法人の地域貢献活動として、「みどの学習クラブ」やこども食堂「まんまる食事会」、「フードバンクM・高崎」などの活動を展開中。こども食堂ネットワークぐんま、こども食堂ネットワーク高崎の代表を務める。2015年7月、多野藤岡ライオンズクラブ入会。家族会員。