取材リポート ふるさとの景色を守るため
地域の川辺をきれいに

ふるさとの景色を守るため地域の川辺をきれいに

4月初旬、八王子市内を流れる南浅川の桜並木が見頃を迎える頃、川沿いでトングとゴミ袋を持った集団を見かけることがある。そろいのジャンパーに身を包んだ東京八王子いちょうライオンズクラブ(市正彦会長/63人)の面々だ。毎年4月の第1火曜日の午後に集まり、クラブの環境保全事業として桜並木や南浅川周辺の清掃活動を行っている。

4月6日に実施された今年は、開花が例年より早かったこともあり桜並木はほぼ葉桜の状態。そのせいか通りかかる花見客は少なめだった。昨年は新型コロナウイルス感染拡大防止で実施を見送ったため、活動は実に2年ぶり。外に出て仲間と共に汗を流す喜びはより格別なものとなったようだ。

クラブがこの場所で清掃活動を行うことになったのは、桜並木がきっかけだ。クラブ結成5年目となる1992年に、記念事業として行われたのが浅川堤への桜の植樹だった。浅川の支流である南浅川の東横山橋から水無瀬橋までの約900mの川沿いに36本の桜を植えたのは、何を隠そう同クラブである。

クラブが植樹した桜並木

植樹後しばらくは、クラブ・メンバーがたまに通りかかった折に樹木の手入れや掃除をしていたが、いつしかそれでも追いつかないほどゴミが目立つようになった。

「川の中に自転車や消火器など比較的大きな物が捨ててありました。そういう景色を地域の子どもたちには見せたくはなかった。大人になってふるさとの川を思い出す時、汚いゴミのある景色ではなくきれいな桜が咲き誇る姿であってほしい。この状況を回避出来るのであれば、行動したいと常々思っていました」
と、メンバーの中原教智さんは当時を振り返る。その機会は2008年に訪れた。この時クラブ幹事の役職に就いた中原さんは、かつて桜を植樹した南浅川周辺の清掃活動をクラブに提案。ちょうど桜が花を咲かせる4月始めの例会日にメンバー全員が参加して川沿いや河原のゴミを拾う活動が実現した。以来、今日まで続いている。

「先輩たちが桜を植樹する際に、許可申請などで相当苦労したと聞いていましたから、きれいに花を咲かせているのにその場所が汚くては先輩に申し訳ないと思っていました。当時を知るメンバーには、思い入れがある場所ですから」(中原)

清掃活動を始めてから10年以上経つが、始めた頃に比べると拾うゴミの量が圧倒的に少なくなっている。とくにここ4、5年はその傾向が顕著だという。その要因は断定出来ないが、地域の人々の意識が変化してきたからではないかと話すメンバーもいた。

落ちているゴミの量が減った分、細かい部分まで見て歩かないとゴミ袋がいっぱいにならなくなった。そのため河原に降りて茂みに隠れているゴミも集めるようになるなど、清掃活動そのものもきめ細やかになってきた。

また、自分たちが南浅川を清掃するようになってから、クラブの実施エリアだけでなく川全体がきれいになっていると、皆が口をそろえる。ライオンズとは別の場所で他の団体も河川清掃をしているためだ。八王子市が地域や関係各機関の協力を得て年に3回行っている一斉クリーン活動もそんな取り組みの一つ。市内107の全小中学校の生徒が参加し、地域清掃など地域ぐるみで環境保全を行っている。東京八王子いちょうライオンズクラブの清掃活動は、この一斉クリーン活動とほぼ同じ時期に始まった。いわば同志のような存在だ。八王子の町をきれいにしたいのは市民共通の思い。あるメンバーは、機会を捉えて小中学生らに「一緒に町をきれいにしよう」と声かけすることもあるそうだ。

ライオンズのロゴが入ったそろいのジャンパーを着て清掃作業をしているのを見て、近隣に住む人たちが手伝ってくれたことも一度や二度ではない。「ライオンズさん、今年もご苦労様」と声をかけてくれる人も大勢いる。それだけ、川が汚いことを残念に思っていた人がいたということなのだろう。

今回は2019年4月以来2年ぶりの清掃活動となったが、この間に南浅川には大きな変化があった。19年10月12日、東日本や東北地方を中心に広い範囲で過去に経験したことのないような記録的な大雨・暴風をもたらした台風19号は、この南浅川にも大きな傷跡を残した。氾濫(はんらん)危険水位を大きく上回り増水した濁流は、橋を一本のみ込み跡形もなく流し去ったのだ。橋のあった場所は現在もそのままの痛々しい状態をとどめている。水害後初めてとなる清掃活動だったため、上流から流されて橋脚に絡みついていた大きなゴミも取り除かれた。

清掃開始から1時間もしないうちに大方の清掃活動を終え、方々に散って作業をしていたメンバーが戻ってきた。長年続けている慣れもあるとは思うが、それにしても作業が早い。あるメンバーにその理由を尋ねるとこんな返事があった。
「メンバーの結束力が強いからではないでしょうか。ふるさとをきれいにするだけではなく、気心が知れた仲間と共に実際に手を動かす、という点にライオンズクラブとしてこの活動を行う意義があると思っています。活動を続けてきたことによって、一丸となってやり遂げるという気質がメンバーそれぞれに備わるようになったのかもしれません」

この結束力は偶然生じたものでもないようだ。同クラブには、本来の目的である奉仕活動とは別に同好会を作って個別に活動する文化がある。ゴルフや駅伝、マリンスポーツにグルメなど同好会を通じた集まりも不定期で行われ、打ち解けやすい関係を築ける環境が整っている。また、新メンバーが入会する際には、なるべく同期メンバーが出来るように入会のタイミングを調整しているという。同期がいれば何事も相談しやすいだろうという先輩メンバーたちの配慮だ。仲間意識が醸成されやすい環境のためか、若いメンバーや女性が多く、クラブには活気がある。

今回も袋に入りきらないものを除けば、ゴミは45Lのゴミ袋が5袋分と最近の傾向通り少なかった。昨年に引き続き、桜並木での花見宴会が禁止されていることも影響しているのだろう。

いつもなら清掃活動の後は場所を変え、花見を兼ねて飲食を楽しむ例会へと進むが、今年はコロナ禍ということもあって飲食の実施は見送った。過去にはバーベキュー大会を開き留学生を招いて共に楽しんだこともあったが、しばらくこうしたイベントはお預けになりそうだ。ゴミは年々減っているとはいえ、完全になくなるわけではない。東京八王子いちょうライオンズクラブの環境保全活動は今後も続いていく。

2021.05更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)