取材リポート 正月少年サッカー大会で
"必勝うどん"奉仕

正月少年サッカー大会で”必勝うどん”奉仕

1月2〜3日、大分県中津市にある永添運動公園のグラウンドにて、正月少年サッカー大会が開催された。これは中津市サッカー協会と中津沖代ライオンズクラブ(武内竜一郎会長/77人)が共催しており、今回が56回目となる。中津市の少年サッカーチームがしのぎを削る大会で、12歳以下の選手が出場するAクラスと10歳以下の選手が出場するBクラスの二つの階級に分かれて行われている。中津沖代ライオンズクラブは、「必勝うどん」と名付けたうどん550杯を無料で提供。寒い中、ボールを追って走り回る子どもたちのサポートをしている。

クラブがこの大会への支援を始めたのは1985年のことだ。正月にサッカー大会が開かれていると知ったメンバーが、クラブで何か出来ないかと提案したのがきっかけだった。当時の会長が青少年健全育成をモットーとしており、クラブでは早速青少年育成委員会を立ち上げ、大会への助成を決定。クラブの初代会長が和菓子屋を経営していたこともあり、子どもたちの体を温めるぜんざいの無料提供も併せて行った。それが現在の「必勝うどん」になるまでには、何度かの変転があった。

まず、ぜんざいは甘さの調整が難しいこと、時間が経つと煮詰まってしまうことなどから、そばの提供に変更した。子どもたちに優勝を目指してがんばってほしいという思いを込め「必勝そば」と名付けて提供することにした。これは子どもたちや保護者から大好評。毎年、長い列が出来、試合の合間に温かいそばを食べて英気を養うのが恒例となった。

その後、回を重ねるごとに「うどんは無いんですか?」という声が保護者や子どもたちから上がってきた。そこでクラブはそばとうどんの2種類から選べるように用意、提供するようになった。そして、スポーツをする際は消化に時間が掛かるそばよりもうどんの方がパワーがすぐに出ることに加え、うどんを希望する選手が多くなってきたことや、アレルギー対策などを総合的に考え、うどんのみに落ち着いた。

うどん提供を待つ際に人と人との距離を保つため目安を付ける

中津沖代ライオンズクラブでは会報誌を年に数回発行しているが、一番記事が多いのがこの正月少年サッカー大会だという。それだけクラブにとって重要な事業だ。これは正月早々であるにもかかわらず、会員の出席率が高いことからも見て取れる。当初は試合の審判や整理員としても協力をしていたが、大会の規模が大きくなり、ライセンスが必要な公式審判制度となったため、現在は行っていない。

2002年からは海沿いのグラウンドが会場になり、海風が厳しい中での活動がなかなか大変だったという。今年は永添運動公園のグラウンドが整備され、久しぶりに当初の会場に戻ってきた。ここは天然芝と人工芝のグラウンドがあり、少年サッカーのコートは公式サッカーのほぼ半分のサイズなので何面か取れるため、会場として非常に便利である。また、新しく整備された人工芝のグラウンドには観客席も設けてあり、保護者にとっても応援のしがいがある会場となっている。中津沖代ライオンズクラブはちょうど結成40周年を迎える年度ということもあり、気合が入っていた。

しかし、その前に立ちふさがったのが新型コロナウイルス感染症の流行である。クラブ内では必勝うどんの無料提供を中止すべきか議論を重ねた。その結果、屋外での活動であることや、サッカー協会からも「ぜひやってほしい」と言われたことから、実施を決めた。万が一のことがあってはいけないと、過去にインフルエンザ対応に当たった経験を持ち、現在市内の病院で勤務している厚生労働省の元職員を例会に招いて、感染症対策の実例について話を聞き、実際に病院などで使われている資料を提供してもらい参考にするなど、クラブ内でも意識を高めていった。こうしてメンバー同士で危機感を共有し、感染症対策ガイドラインをもとに、当日の準備を進めた。

食べ物を扱うとあって、クラブはコロナの影響が有る無しにかかわらず衛生面に気を付けてきたが、今年は特に注意した。順番待ちの列の最初には消毒液を設置し、手指の消毒をお願いする。また、試合の合間にうどんを取りに来る子どもや保護者が多く、どうしても人が集中する時間とそうでない時間と差が出てしまうため、人の密集した空間を作らないよう配慮。一人で複数持って行ってもらうよう呼び掛けたり、列の間隔を空けるよう声掛けしたりと工夫しながら実施した。

1月2日は朝から小雨が降る天気。風も強く、寒い一日となった。こんな天気だからこそ、クラブの提供する必勝うどんは体を温めてくれるありがたい存在。11時のキックオフを前にクラブ・メンバーは湯を沸かし、うどんの準備を進める。試合前に食べると動きが重くなってしまうので、最初は応援に来た保護者たちと試合まで時間があるチームがメイン。しばらくすると試合が終わった子どもたちも列に加わる。試合で全力を尽くした子どもたちはメンバーから渡されるうどんをおいしそうに食べていた。

冬の寒い時期、気温が低い野外での活動だが、鍋の近くは別。熱が伝わり、そこだけは真夏のように暑い空間となる。汗だくでうどん提供に奮闘するメンバーにとって、何よりの喜びは子どもたちの笑顔だ。「あー、うまい!」とおいしそうに食べる子どもたちを見れば、疲れも暑さも吹き飛ぶ。また、かつて少年サッカー大会に参加した子が成長し、コーチやOB・OG、保護者として再び大会にやってきて「あの時のうどん、おいしかったです」と声を掛けてくれることもあるという。この事業で懸命にうどんを振る舞っているメンバーの姿を見て中津沖代ライオンズクラブへの入会を決めたという人もおり、必勝うどんは市民に喜ばれる事業として定着している。

現在、中津沖代ライオンズクラブでは少年野球大会、わんぱく相撲大会、少年空手大会など多くの青少年健全育成事業を実施している。その原点となったのがこの正月少年サッカー大会だ。当時のクラブの思いを忘れずに、今後もスポーツを通じた子どもたちの成長をサポートする事業を続けていく。

2021.03更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)