取材リポート
環境を考える
子ども絵画展開催
石川県・金沢パーク ライオンズクラブ
#環境保全
#青少年支援
石川県金沢市は人口約46万人の中核市だ。2015年に開業した北陸新幹線によって関東地方からのアクセスが向上。04年に開館し、18年度には250万人以上という、地方都市の公共美術館として驚異的な集客力を持つ金沢21世紀美術館や、日本三名園の一つとして数えられる兼六園が、多くの観光客を引き付ける。
金沢パーク ライオンズクラブ(坂下潤一会長/16人)は07年に金沢市内で14番目のクラブとして結成された。クラブ名の「パーク」は、例会を行うホテルが兼六園に隣接していたことから名付けられた。結成当初から「育もう子どもたちの明るい笑顔と美しい地域社会」をスローガンに活動しているが、その名にたがわず、公園の整備も行っている。それが、卯辰山(うたつやま)公園の山野草園整備事業だ。普段から清掃活動を行い、山野草を植えるなどして市民に親しまれる公園づくりを目指している。
この卯辰山の環境保全活動を実施していく中で、自分たちが動くだけではなく、次世代を担う子どもたちに環境問題を考えてもらえるような事業が出来ないかという意見がクラブ・メンバーから出てきた。そこで環境問題を考える作文を子どもたちに書いてもらう事業を実施することになる。しかし、クラブ・メンバーの思いとは裏腹になかなか応募が集まらず、継続事業にすることは出来なかった。
それでも子どもたちに環境問題に関心を持ってもらいたいというクラブの思いは変わらず、形を変えての再チャレンジが始まった。それが、12年から主催している環境を考える子ども絵画展だ。それから毎年開催し、20年も12月12日から23日までの約2週間にわたって開かれた。場所は石川県庁の19階展望ロビー。一般の人が自由に出入り出来るため、多くの人に見てもらえる場所だ。子どもたちにとっても、自分の絵が県庁に飾られるという体験は誇らしいものとなる。
毎年違うテーマを選び、子どもたちにはさまざまな環境問題について考えてもらう。テーマはその年の時流に合ったものを選ぶ。例えば19年の場合、「クジラと仲良くしよう」をテーマに決めた。再開が決まった商業捕鯨について考える機会を持ってもらえれば、との思いを込めた。また、審査員も毎年違う先生にお願いするなど、マンネリにならないように工夫している。例年は表彰式の後に講評会を実施。子どもたちにとって技術向上の良い機会になっている。
環境を考える子ども絵画展の設営は金沢パーク ライオンズクラブのメンバーで行う。絵画の賞の選定などは専門家にお願いするが、お金を出すだけの事業にしたくないという思いが強い。たまたま通りがかった人にも関心を持ってもらおうと、一昨年は簡単なパンフレットを作成したところ、この試みは成功。すぐに無くなってしまい、増刷したほどで、その後も続けている。
順調に回を重ねてきた子ども絵画展だったが、その前に立ち塞がったのが、世界中で猛威をふるった新型コロナウイルス感染症だった。20年は4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言が出され、16日には全国に拡大された。5月25日には全国で解除されたものの、その後も第2波、第3波と流行の波が訪れていた。絵画展自体は広い展望ロビーの一角を利用して実施するため、感染拡大のリスクは低い。だが、学校が休校になり、外に出るのも気が引けるような生活を送っている子どもたちに、環境問題に目を向けてもらえるのかという疑問があった。そんな中で選んだのが「残しておきたい風景」というテーマだった。
5月の大型連休、そして夏休みと、コロナの影響で旅行などを自粛した家庭が多い。このコロナ禍が収束した際に行ってみたい風景を思って描いてほしい、閉塞(へいそく)的な気持ちを、風景に思いをはせることで少しでも晴らしてもらえれば、という願いを込めた。こうして集まった絵画は40点。フランスやスペインなど海外の風景を描いたものから、長崎のめがね橋や東京大学、更には地元・金沢駅にある鼓門を描いたものもあった。例年、実施している講評会は残念ながら中止。大々的に宣伝することも出来なかったが、それぞれが思いを込めて描いた力作がそろった。
審査員を務めた金沢芸術工芸大学の畝野裕司教授からは「皆さん良く観察し魅力を膨らませて(中略)しっかりと表現することが出来ていました。子どもの視点で捉えた残したい風景の提案に感心すると共に、子どもの繊細な心情を垣間見ることが出来ました」という講評があった。畝野教授はまた、「コロナが落ち着いたら皆さんが勧めてくださった場所に行ってみたくなりました」とのコメントも寄せている。実際、そうした気持ちになる人も多いようで、通りすがった人も絵画展に足を止めていた。
金沢パーク ライオンズクラブでは現在の絵画展の規模がクラブの身の丈に合っていると感じている。しかし、ライオンズクラブの事業であることをもっと市民に周知出来ないものかと、広報の在り方を模索している。「この絵画展から芸術家が出るような日が来るとうれしいです」と坂下会長は語る。子どもたちに環境のことを考えてもらう機会として、今後も続けていきたいというのが、クラブの思いだ。
2021.02更新(取材・動画/井原一樹 写真/宮坂恵津子)