取材リポート 子どもたちの安全を守る
ネットマナー教室開催

子どもたちの安全を守るネットマナー教室開催

2007年にアップルがiPhoneを発売して以後、世界的にスマートフォンの普及が進んでいる。日本でも08年、iPhone3Gがソフトバンクから発売され、10年にはXperiaやGalaxy Sなどさまざまなスマートフォンが市場に投入されて、一気に普及した。総務省による調査では、10年は世帯保有率9.7%だったスマートフォンが、18年には79.2%まで増加している。

スマートフォンの普及は小学生や中学生といった低年齢層でも進んでいる。小学生に限って言えば、14年に12%程度だったスマートフォンの所持率が、19年には約50%まで伸びている。小学生全体での統計であるため、高学年はこの数字以上の割合の子どもたちがスマートフォンを所持していると考えられる。加えてiPadなどのタブレット端末も4割程度が所持という結果が出た。

情報通信端末利用者の低年齢化によって、インターネットでのトラブルに巻き込まれる子どもたちも増えてきた。「ウイルスバスター」などのセキュリティーソフトの開発元で知られるトレンドマイクロ社が小学校高学年(4〜6年生)とその保護者を対象に18年に行った調査によると、約3割の子どもがインターネット上でトラブルを経験している。特に多かったのがFacebookやTwitterなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に熱中して生活習慣に悪影響があったというものだが、中には他人に勝手にアクセスされる不正アクセスや、情報漏洩(ろうえい)の被害に遭ってしまった子どももいた。

こうした時代の流れに対して問題意識を持ち、小学生を対象にネットマナー教室を実施しているのが、札幌東ライオンズクラブ(中山正人会長/39人)だ。今年度は初めて中学校から依頼があり、中学生向けの教室も実施した。

札幌東ライオンズクラブがネットマナー教室を始めたのは18年のこと。もともと薬物乱用防止教室をメイン事業として活動していたが、17年の依頼が8校から3校に減ってしまった。代わりにクラブの柱となる新規事業を立ち上げられないか。そう考えていたのは当時の会長だった谷山直樹さん。そんな中でネットマナー教室を思いついた。

しかし、どのように実施すればいいのか分からない。そんな折、札幌リバティ ライオンズクラブがネットマナー教室を開くという話を耳にし、見学させてもらうことになった。そこで谷山さんが見たのは、私語もなく、真剣に聞き入っている子どもたちの姿だった。また、札幌リバティ ライオンズクラブが作成したスライドなどの教材も分かりやすかったという。

谷山さんが札幌東ライオンズクラブで提案したところ、クラブ・メンバーも乗り気になった。クラブ内で準備委員会を結成。内容や流れ、教材の形式、学校へのPR方法など、事業の細部を詰めていった。教材は札幌リバティ ライオンズクラブのものを参考に、メンバーがメディアなどで最新の事件や情報を収集。加えて学校側にどのような内容にしたいか希望を聞いた。すると、子どもたちにはモラルを身に付けてもらいたい、犯罪が思いの外身近にあるということを実感してほしいという意見が出てきた。それらの内容を反映させ、教材を作成。更に会議の中の模擬授業で、どの説明にどれだけ時間を掛ければ良いかなど、時間感覚の養成や問題点の洗い出しなどを行い、質を高めていった。

そして18年7月に札幌小学校で初回のネットマナー教室を実施した。以降、毎年4月に札幌市東区の小中学校に申込書を郵送し、依頼があった学校と打ち合わせをして実施している。教室の1カ月前には学校を訪問して要望などを聞き取り、それに応じて少しずつ内容を変えるといった、クラブのきめ細かな対応は非常に評判が良い。

ネットマナー教室を始めて気が付いたのは、学校側の関心が非常に高いということだ。インターネット犯罪をかなり身近な危険と捉えており、啓発の必要性を感じていることが伝わってきた。ある学校からは、5年生の時にネットマナー教室で学んだ子どもたちが6年生になり、再度教室を実施してほしいという要望が出ていると連絡が入った。この時は、内容が同じでは退屈させてしまい、真剣に聞いてもらえないと考え、ワークショップ形式で授業を実施。グループごとにネットゲームのメリット、デメリットや使い方を間違えないためにはどうするかを話し合い、発表してもらった。

映像、寸劇などを交えて、子どもたちが飽きないように構成している札幌東ライオンズクラブのネットマナー教室。学校側の評価は非常に高い。「裸の写真を送れ」といった児童ポルノの問題を扱ったところでは、子どもたちはかなり動揺し、ざわついていたが、クラブも学校側もこうしたシーンを重要視している。授業後のアンケートでは「怖さを知った」「気を付けようと思う」といった感想が多く寄せられ、クラブとしても手応えを感じている。

20-21年度は5校で実施。延期や人数制限など新型コロナウイルス感染症の影響はあったが、中止する学校はなかった。それだけ学校側が重要視しているということだろう。その思いに応えるべく、クラブでは最大限感染対策を行って授業に臨んだ。子どもとの距離を保つように気を付けると共に、マスクを通してでも明瞭に言葉が届くよう、ゆっくりはっきり話すことを心掛けた。2回に分けて少人数で実施することもあり、結果的に2時間連続で授業をすることもあった。

日々進化するインターネット。それに伴い、新手のトラブルや犯罪が発生するなど、問題も多様化している。クラブでは常時情報収集をし、内容をアップデートし続けている。子どもたちの興味を引くために、はやりのものを取り入れるなどの努力も怠らない。危険だから使わない、ではなく、マナーやルールを守って、インターネットを正しく安全に使ってほしいというクラブの思いがある。

ネットマナー教室を実施していく中で、保護者のネットリテラシー(インターネットを適切に使いこなす能力のこと)の低さが子どもにも影響を与えているという問題点も見えてきた。学校側に保護者の参観を促したり、新たに保護者向けの教室の実施を模索したりと新たな展開も考えている。

2021.02更新(取材/井原一樹 写真提供/札幌東ライオンズクラブ)

札幌東ライオンズクラブが作成したネットマナー教室のテキスト
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