取材リポート 一生の思い出に残るように
中学生野球大会開催

一生の思い出に残るように  中学生野球大会開催

各地のライオンズクラブは少年野球大会など、青少年のスポーツ大会を開催したり協賛したりしている。中にはカーリングや、なぎなたといった珍しい競技も支援するなど、それぞれ独自の方法で開催し、競技の発展と真剣勝負の機会の増加に寄与するクラブもある。「ライオンズクラブ」と聞いて「ああ、野球大会で昔お世話になりました」と言う人も多いことだろう。

古伊万里ライオンズクラブ(齋藤勇会長/22人)もこうした青少年のスポーツ大会を主催しているクラブの一つだ。今年も11月21日から22日にかけて、佐賀県伊万里市にある国見台野球場で古伊万里ライオンズクラブ旗争奪中学生野球大会を開催した。古伊万里ライオンズクラブが主催するようになってからは14回目の大会となる。

この大会は元々、佐賀県軟式野球連盟の吉原羊一郎会長が中心となって1988年から毎年開催してきたものだった。伊万里・有田地区の中学生球児にとって目標となる大会として多くの子どもたちが白球を追いかけた。しかし、吉原会長が90年に他界。遺族がその遺志を継いで毎年開催してきたが、2006年をもって終了することになった。その時、軟式野球連盟の副会長を務めていたのが、古伊万里ライオンズクラブの初代会長である、故高木久彦さんだった。そして、古伊万里ライオンズクラブが08年に結成5周年記念事業を検討していた際に中学生野球大会を引き継いで実施することを提案したのである。

この地区では小学生や高校生を対象とした野球大会は数多く開催されているが、中学生を対象とした大会は少ない。軟式野球連盟の大会が無くなってしまうことは、伊万里の中学生たちにも痛手であり、継続を望む声が中学校からも多く上がっていたことも、事業の実施を後押しした。こうして1年の空白期間を経て、中学生野球大会は新たな歴史を刻み始めたのである。

古伊万里ライオンズクラブは、参加する子どもたちにとって一生の思い出となるような大会を目標としている。会場となる国見台野球場は両翼100m。76年に佐賀県で行われた第31回国民体育大会である若楠国体の際に建設され、94年に改修された。95年から2002年までは毎年福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)が2軍の公式戦であるウエスタンリーグの会場とするなど、プロ野球の球場としても使用出来る立派な球場だ。

ここを選んだ理由は、プロと同じ場所でプレー出来るという得難い経験をしてほしいという思いからだ。そのため、例年は開会式で甲子園のような入場行進も行う。電光掲示板にはチーム名はもちろん、得点やヒット、ボールカウントが表示される。また、球速を計測するスピードガンが設置されており、1投ごとに球速も表示される。会場ではクラブ・メンバーが担当するウグイス嬢がバッターの名前をコールし、まさにプロ野球さながらの試合が体験出来る大会となっている。

10回大会からは伊万里・有田地区に加え、県をまたいで長崎県福島町の中学校が参加している。これはこの大会ならではの特徴だ。自治体が主体となって開催する大会では、このように越境して参加することはあまりない。ライオンズクラブの区分で古伊万里ライオンズクラブの所属するゾーンに長崎県福島町が含まれており、ゾーン全体で中学生野球大会の協賛をしてくれていることで実現した。

大会の準備や裏方の仕事の多くは古伊万里ライオンズクラブが担当する。前述のようにアナウンスを担当する他、電光掲示板の操作、試合と試合の間のグラウンド整備もメンバーの担当だ。かつては球審としてグラウンドに立つメンバーもいた。前日の準備から当日までメンバーは大忙し。国旗の掲揚もメンバーの仕事である。まさにクラブ一丸で手作りする大会となっている。

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう2020年は、開催の是非を巡って、クラブ内で議論が交わされた。大会を楽しみにしてくれている球児たちのためにも、何とか開催出来ないか検討を重ね、感染症対策をしっかりとすること、野外であるため感染リスクが低いこと、9月ごろから伊万里市内でイベントが順次開催されるようになっていたことなどを理由に実施を決めた。

開催に当たっては市内で行われていたいくつかのイベントの運営側に感染症対策のやり方を聞き、クラブ内で情報を共有した。また、手指の消毒液の設置と入り口での検温などの対策に加え、出場チームには健康チェックシートの記入をお願いした。式典も簡素化。試合前のあいさつを省略すると共に「スタンドのある立派な球場で、甲子園球児のように入場行進することは一生の思い出となる」とクラブがこだわってきた入場行進は諦めざるを得なかった。それでも、例年のように思い出に残る大会になるように、との思いで感染症対策を練り、子どもたちが楽しくプレー出来る環境づくりに全力を注いできた。

こうしたメンバーの努力のかいもあり、当日の運営はスムーズに進行した。接触を減らす目的で各校の集合時間をずらしたため、球場にいる人の数は例年よりも少ないはずだが、マスクの人が並ぶ観客席からは大きな拍手と時折マスク越しの歓声が聞こえてきた。

野球大会で白球を必死に追いかける子どもたちの姿には、毎年のことながら感動するとメンバーは語る。応援に来てくれる人たちが地元の中学校を一生懸命に応援する姿にも胸が熱くなるという。野球を全然知らなかった人も、古伊万里ライオンズクラブに入会すると理解を深め、主体的に動くようになる。クラブにとってもチームワークを強める良い機会になっている大会だ。

当初の理念通り、子どもたちの一生の思い出に残るような大会運営を目指して、古伊万里ライオンズクラブは活動している。一方で少子高齢化の波が伊万里市にも押し寄せ、野球部がなくなってしまう中学校も出てきている。このように野球をやりたくても出来なくなってしまった子どもたちも大会に出場出来るよう、地域で合同チームを作って参加してもらうなど、間口を広げる努力もしている。今後は伊万里・有田地区以外からの参加を増やすなど規模を広げての実施も視野に入れており、古伊万里ライオンズクラブの野球大会の思い出を胸に育っていく子どもたちはこれからも増えていくことだろう。

2021.01更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)